うまい酒と肉と、ルビアの話し
そこはマヴロのコロニーとよく似ていた。
コロニーの周りは壁に囲われ、出入口である門の横には小さな小屋があり門番が2〜3名常駐している。
コロニーの中心は高台になっており、リゾート地の一流ホテルのような大きな屋敷がたっている。
屋敷を中心にして円形に町が広がっていた。
コロニーに入る門では門番が通行人をチェックしていた。
「お、コーナスのぼっちやん。おかえりですか!」
恰幅の良い中年の門番が気さくに話しかけてきた。
「ぼっちゃんは勘弁してくれよ。オレも大人になったんだから…」
コーナスが照れ臭そうに挨拶している。
「へへへ、コロニーの主は変わっても、ぼっちゃんはぼっちゃんでさぁ」
門番はコーナスの背中をバンバン叩きながら笑っている。
「まいったなぁ」
コーナスは苦笑いしながら、なすがままだった。
「あれ?この子達は?ぼっちゃんのお知り合いですか?」
門番はあたし達を、上から下まで観察している。
「あぁ、オレの新しい仲間だ。よろしく頼むよ」
「ルビアです。この子はシオン。よろしくお願いします」
あたしは少し緊張しながらお辞儀をする。
「わしはセロシア。ここで門番をしている。かわいい子達だなぁ。ぼっちゃんの隠し子だったらどうしようかと思ったぞ」
がははははは と豪快に笑うセロシア。
「んなわけねーだろ。んじゃ、オレたちは行くぞ。早くメシ食いてぇんだよ」
コーナスに促されて、あたし達はコロニーの中に入って行った。
あたし達は、『竜の牙』がいつも利用しているという宿屋に向かった。
宿屋の1階は酒場となっており、お酒と料理が楽しめるようになっていた。
2階と3階が宿屋で、3階の部屋を女性用と男性用で2つ用意してもらった。
「私はお金がもったいないから一部屋でいいって、いつも言うんだけどね。コーナスはいつも二部屋とるのよ」
ミモザは女性用の部屋に荷物を運びながら教えてくれた。
「ミモザ、オレはギルドに報告してくる。あとを頼む」
コーナスは今回受けていた依頼の報告をしに、ギルドへ向かうようだった。
「はーい。お土産お願いね」
ミモザは、ふふふと口元を隠して笑う。
「なんのお土産だよ」
朗らかに笑いながらコーナスはギルドへ歩いて行った。
その頃、アキレアはすでに荷物を運び終わり、1階の酒場の隅でお酒を1人で飲んでいた。
「ルビアちゃん、シオンちゃん。あたし達も少し休憩しましょうか」
ミモザは荷物を運び終わると、あたし達を連れてアキレアに合流しテーブルに座る。
「ここのお茶は美味しいのよ」
ミモザはニコニコしながらお茶を3つ注文した。
しばらくして、店の女性がお茶を運びあたし達の前に並べてくれる。
出されたお茶は紅茶だった。
宿屋の女将さんの趣味で、茶葉と水にこだわった最高の紅茶だそうだ。
「このお茶を飲む時間が、私の一番の楽しみなのよ」
ミモザはゆっくりお茶の香りを楽しんでから、少し口に含み味と香りを楽しんでいた。
「いただきます」
カップから豊潤な紅茶の香りが漂う。
「いい香り…」
少し口に含むと、口の中から鼻の奥まで紅茶の香りがぶぁっと広がり、まるで紅茶の香りに全身包まれるような感じだ。それと同時に爽やかな味が舌の上で広がる。
「美味しい……」
今まで飲んできた紅茶とは別次元のものだった。
「でしょ?」
ミモザは幸せそうに紅茶を楽しんでいる。
お城では興味を示さなかったシオンも、この紅茶は気に入ったようで幸せそうな顔をしていた。
しばらくするとコーナスが帰ってきた。
「今回の報酬貰ってきたぞ。金貨5枚だ!今夜は美味い飯食いに行こう!」
日が暮れて、あたし達は町の中でも料理屋さんが並ぶ一角に来ていた。
「ここだ。ここの肉料理が最高なんだ」
コーナスは上機嫌で店に入って行く。
それに続いてアキレア、ミモザ、あたし達と入って行った。
コーナスは店員と少し話すと手招きし、奥の個室に通された。
コーナスは個室に入り、全員が座るとルビアを見て話し出す。
「さて、ルビア。そんな深刻な顔をするな。お前はまだ子供だから知らないだろうけど、今からお前がする話しはオレ達にとって、そんなに深刻な話しじゃない。オレ達はもっと深刻な経験をしてきたからな、お前たちとは深刻さの経験値が違うんだ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるコーナス。
「そうね、あたし達はきっとなにを聞いても驚かないわ」
ミモザは微笑みながらルビアとシオンを見ている。
「………」
アキレアはいつもと同じだ…
「アキレア、何か言えよ…」
頭を掻きながら苦笑いするコーナス。
「ま、そう言うことだ。ルビア。何も気にせず話してくれ。そもそも、腹が減ってるから深刻になるんだ。うまい酒を飲んで、うまい肉を食えばだいたいの事は笑えるのさ」
コーナスは満面の笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます…」
あたしは、この人達と出会えて本当に良かったと心から思った。
部屋に料理とお酒、お茶が運び込まれ部屋中にいい匂いが充満する。
「さぁ、とりあえず食おう!話しはそれからだ!」
コーナスはお酒を一気に飲み干し、肉料理を食べだした。
みんながある程度食べ、少しお腹が満たされてきた頃、あたしは話しだした。
「実はあたし、マヴロとリアリナの娘なのです…」
「へー… マヴロとリアリナね。 え?あの魔王マヴロと、禁忌の魔女リアリナ!?」
コーナスは頬張っていた肉を吹き出した。
「えええ!?」
ミモザは飲んでいたお茶を落としそうになる。
『何を聞いても驚かない』と言っていた2人は、ルビアの第一声ですでに驚いてしまっていた…




