魔界のエビは最強?
気がつくと水中にいた…
まわりには無数のオキアミがいる。
(えーっと…)
声… 出ない
息… んー?なんか苦しくない
とりあえず生きてるっぽい
ふと、頭の中に女性の声が響く。
「かえでさん、無事転生できたみたいですね」
ルリアだった。
「……」
返事をしようと思うが声が出ない。
「まぁ、エビですから…」
くくくっ と、ルリアは笑いを堪えている。
(このやろう…)
と、思うが声が出ないので文句も言えない。
「とりあえず転生した場所やスキルについて説明しますね」
ルリアは事務的に話し出した。
「まず、かえでさんが転生したのは魔界の海の沖合いです。かえでさんが居た世界と同じく、魔界にも海や陸がありさまざまな生物が生きています。基本的にはかえでさんの世界と同じだと思って下さい」
「次にユニークスキル『略奪者』ですが、名前の通り相手のスキルや身体を略奪することができます。略奪するには相手と同化、つまり『食べる』か『食べられるか』すれば発動します」
「あと、サポート役のシオンさんの呼び出し方ですが、右手の掌に意識を集中しシオンさんを呼んで下さい。そしたら魔法陣が起動しシオンさんが召喚されます。説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
「………」
「あ、エビでしたね… ぷくくっ」
(こ…こいつ、絶対ワザとだ…)
怒りを表そうにも、エビなので表情も変わらない。
「それじゃ、楽しい異世界生活をお過ごしくださぁい♪」
あははは と笑い声を残して頭の中からルリアの声は消えていった。
異世界転生って、普通人間じゃないの?
たしかに有名な所では、流曲線状のモンスターに転生したりとか?亜人種に転生したりとかあると思うよ?
なに?エビ?しかも最弱のオキアミって?
どういうこと?
あたしはルリアと現状に怒りしか感じれなかった。
とりあえず、サポートしてくれるアサシンのシオンさんを呼んでみようか…
たしか右手の掌に集中して…
右手を見る。ちょっと長めの細い腕の先にハサミがついているヤツが1本と、ハサミがないヤツが5本、あとは短い毛がたくさん付いている短いヒレのようなのが20本くらいある。
(……どれが右手だよ!!!)
最悪だ…
異世界を楽しむどころか、今日生きることすら難しいじゃない!!
とりあえず現状を把握する為に付近を観察する。
今は水面から3メートルくらい潜ったところにいた。
周りには無数のオキアミがいる。
自分の身体を見ると、右手はどれか分からないがたくさんある。左手も同じだ。
頭には触覚らしき物があり、そこでニオイを感じれるっぽい。
身体は硬い殻で覆われており、足の代わりにヒレが着いた尻尾のようなものがある。
やはり、オキアミだった…
(そうだ!ここは魔界だとルリアは言ってた!と、言うことはあたしが知っているオキアミとは違い強いのかも?!)
あたしの周りには無数の仲間がいる。小さくて可愛い生き物が集団で主人公を襲う映画とかあるじゃない!!
魔界のオキアミは実は最強なのかもしれない…
ほとんど現実逃避的な思考になる。
その時、後ろの方でオキアミ達が慌てていることを感じた。後ろを振り向くと口を大きく開けた魚の集団がオキアミを食い荒らしていた。
その光景はかえでがよく知っている光景だった。
無数のオキアミにたくさんの小魚が集まって捕食する。その小魚を狙って、大型の魚が集まる。よくテレビで見た光景、弱肉強食の世界だった。
魔界のオキアミも、やはり最弱だった。
後ろを振り向いたかえでの目の前には、大きく開かれた魚の口があった。
(あたしの異世界生活は一瞬で終わった…)
目の前が暗くなったと思った瞬間、目の前が明るくなった。
目の前には無数のオキアミがいる。
(あれ?)
かえでは口を大きく開けてオキアミを貪っていた。
口から胃の中までオキアミが直行する。
(さっき、魚に食われたと思ったんだけど…?)
かえではいつの間にか小魚になり、オキアミを食っていたのだ。
(あ!これがスキル『略奪者』か!)
食われた瞬間、無意識にスキルを発動して魚の身体を略奪していたのだ。
とりあえずお腹いっぱいになってるし逃げよう!
周りには、小魚を狙う大型の魚が集まり出している。
死にたくない。
もうあんな怖い思いをしたくない。
かえではとにかくここから逃げることにした。
周りではかえでと同じサイズの魚達がオキアミを夢中で食べている。
かえでの本能がオキアミを食べたいと言っているが、理性で押さえ込みここから離れる。
少し泳いだところで、何かに引っかかってしまった。
その何かを身体から離そうと暴れるが、余計に絡まり動かなくなる。
そのまま元のオキアミの集団の場所に引き戻されると、さっきまでオキアミを夢中で食べていた小魚達と合流し水面へ引き上げられた。
かえでは漁船の網に捕まってしまったのだと理解した。
網の中の魚はそのまま船の水槽に入れられた。
水槽にはたくさんの魚達が泳いでいた。
かえでを乗せた船は、そのままどこかに移動をはじめた。