ルビアの戦い
残酷な表現があります。ご注意ください。
松明の明かりの向こうに、赤く光る目が複数あった。
「ミモザさん!敵です!!」
あたしは叫ぶと、シオンを見る。
シオンはテントから出てショートソードを持っていた。
「シオン!お願い!」
あたしは短くシオンに指示する。
「あぃー」
緊張感のないシオンの返事が聞こえると同時に、シオンは闇に溶け込むように消えた。
「みんな!起きて!敵よ!!」
半歩遅れてミモザの声が響いた。
あたしはミモザが持つ杖の先に呪文を唱える。
「コンティニアルライト!」
瞬間ミモザの杖の先が光り、辺りが昼間のように明るくなる。
「え!?」
ミモザは自分の杖の先が光っていることに驚き、杖を手放してしまった。
しかし光は消えることなく辺りを照らし続けている。光源が低くなったが、周りを確認するには問題なかった。
ミモザとルビアの正面、約300m先にゴブリン10体、オーク3体が立っていた。
ゴブリン達は突然の光に驚き、一瞬戸惑ってたがすぐに体勢を整え突撃してきた。
夜間であったためか弓矢を持つゴブリンは居なかった。
ルビアは龍の装飾がされたナックルを両手に嵌め、戦闘態勢に入る。
ミモザは杖を拾い、辺りの状況を確認していた。
「うがががががが!」
ゴブリン達が雄叫びを上げて突進してくる。
ミモザはルビアを背中に隠そうとするが、それよりも早くルビアは一歩前に出ていた。
目の前には一際足が速いゴブリンが1体、錆びたショートソードをルビアに振りかざそうとしていた。
「ルビアちゃん!!」
ミモザの悲痛な声が響く。
ルビアの目の前に居たゴブリンの心臓辺りから、ショートソードの青白い刃が突き出した。
「ぐぎゃ!」
ゴブリンは目を見開き、何が起きたのかも判らず絶命した。
ゴブリンの体から青白い刃が、後ろから引き抜かれると、ゴブリンは力なく倒れ、返り血を浴びたシオンがニヤリと笑いながら立っていた。
シオンはそのまま、また闇の中に溶け込むように消えてしまった。
「…マジックミサイル」
ルビアは目の前で起きた事を気にもしていないように、呪文を唱えた。
ルビアの前に、対戦車ミサイル並みの大きな光の矢が7本出現する。
テントからはコーナスとアキレアが武装して出てきた。
「うお!なんだこの光は!?」
コーナスが左手で光を遮り、付近の状況を確認する。
「な! ルビア!?」
ちょうどルビアがマジックミサイルを顕現させたところだった。
「な!なんだあの大きさは! それに7本だと!?」
コーナスが驚いていると、マジックミサイルは射出された。
7本のマジックミサイルは7体のゴブリンに向かって射出された。と、同時にルビアは腰を落とし大地を蹴り、ものすごいスピードでゴブリンを通り越して1体のオークの前に立っていた。
マジックミサイルがゴブリンに直撃すると、ゴブリン7体を爆殺した。
爆煙を背中に受けながら、ルビアはオークの左脚の膝を横から蹴る。
「ぐぎゃ!!!」
オークの左脚の膝は内側に『くの字』に折れ、体重を支えられなくなったオークが頭を下げる。
「しっ!!」
ルビアは左拳で短く鋭くアゴを打ち抜くと、オークの下アゴが破壊され、赤い舌がだらしなく垂れ下がる。
ルビアは半歩下がり腰を落とし、左手をオークの腹に当てると、右手で渾身の一撃を放つ。
『ボンっ!!』
と、音と共にオークの腹には大きな風穴が開いていた。
「ふぅ…」
ルビアは返り血を浴びながら、残り2体のオークを睨む。
その頃、マジックミサイルを免れたゴブリン2体はミモザに向かっていた。
ミモザは杖を構え、自分の胸に手を当て呪文を唱える。
「物理耐性向上!」
ミモザの体が淡く光り、元に戻る。
ゴブリン2体がミモザの前に立ち、ショートソードを振りかざす。
1体のショートソードは杖で受けたが、もう一撃は覚悟した。が、ショートソードはミモザに届くことは無かった。
ミモザにショートソードを突き立てようとしたゴブリンの首が、ポトリと落ちたのだ。
ゴブリンは大量の血を吹き上げ、ショートソードを振り上げたまま力なく倒れた。
その後ろには返り血を浴びて、赤黒くなったシオンが不気味に微笑んで立っていた。
「ミモザ!!」
コーナスはミモザに攻撃してたゴブリンを殴り飛ばし、バスターソードを心臓に突き立てる。
「コーナス!」
ミモザは我に帰り、辺りを確認する。離れたところでルビアとオーク2体が対峙していた。
「ルビアちゃんが!!」
ミモザの悲痛な叫びが響いたと、同時にヒュン!と風切り音がする。
見るとアキレアがオークにボウガンを放っていた。
ボウガンの矢はオークの頭部に命中し、絶命させた。
「ルビア!!」
コーナスはバスターソードを持ち、ルビアの元へ走りだした。
ルビアは2体のオークと向き合っていた。
突然、ヒュン!と風切り音が聞こえたと思ったら、オークの1体の頭にボウガンの矢が刺さり倒れた。
「今だ!」
ルビアはオークの頭の位置までジャンプし、回し蹴りを放つ。
『ごっ!! ぱーん!!』
オークの頭、上半分が消滅した。
「ふぅ」
ルビアはオークの死を確認し、辺りを確認する。
「もう、居ない…?」
そこにコーナスが走ってきた。
「ルビア!!だいじょう……ぶ?」
損傷の激しいオークの遺体を見て、コーナスの走る速度が落ちる。
「コーナスさん!みなさん大丈夫でしたか?」
そこには返り血で赤黒くなったルビアが笑って立っていた。




