ヘレボルスのコロニーへの道
(深夜)
焚き火の前にはコーナスとミモザが居た。
「ねぇ、あの子たちどうして旅に出なきゃならないのかな?」
ミモザは焚き火に小枝をくべながら呟いた。
「何故だろうな。とても深い事情があるようだが…」
コーナスは黄色い目で、ルビア達が眠るテントを寂しげに見る。
「私があれくらいの歳の頃は、まだお母さんやお父さんに甘えていたわ… あの子たちがかわいそう…」
ミモザは悲しげにテントを見る。
「そうだな。だが、それをオレ達が無理矢理聞く事はできない。いつか、ルビア達が話してくれるだろう。それまで待とう」
「そうね… きっと話してくれる。それまで見守ってあげなきゃね」
ミモザは優しく笑っていた。
(翌朝)
あたしは体の痛みを覚えながら目を覚ました。
今まではベッドで寝ていたが、昨日はテントの中とはいえ、土の上で寝たのだ。体のあちこちが痛くなるのは仕方ない。
隣でシオンがまだネコのように丸まって眠っている。
あたしはシオンを起こさないように、そっとテントから出た。
外ではすでにみんな起きており、ミモザが朝食の用意をしていた。
「おはようございます…」
少しぼーっとする頭を起こしながら挨拶する。
「あら、ルビアちゃんおはよう。少しは眠れた?」
ミモザはルビアを見ると、朝食の準備の手を止めて話しかけた。
「ちょっと体が痛いですね…」
あはは と笑いながら体をさする。
「そりゃ、そうよね。私も初めは慣れなくて大変だったわ」
ふふふ と口元を隠して笑う。
「お!ルビア、起きたか。さぁ、顔を洗っておいで。向こうに水を置いているから」
コーナスが布で顔を拭きながらやって来て、来た方向を指差す。
「はい、シオンも起こしてきますね」
あたしはテントに戻り、まだ寝ているシオンを起こして顔を洗いに行く。
顔を洗って戻って来ると朝食の準備が終わっていた。
「あ、ごめんなさい。なにもお手伝いしなくて…」
ルビアは頭を下げる。
「ふふふ。いいのよ。これは私の趣味でもあるの」
ミモザは朝食を取り分けて、みんなに配っていた。
「ミモザのメシは美味いぞ!」
「コーナス、そんなにハードル上げないで」
あははは とコーナスは笑っている。朝から元気だ。
アキレアは相変わらず無口で、朝食を受け取ると
「……いただきます」
と、つぶやいて食べ始める。この人はこれが通常なんだ…
ルビアはそう理解した。
朝食の余韻を楽しみながら、お湯を飲んでいた。
あたしは、ふと気になったので聞いてみた。
「コーナスさん達は、若そうに見えますがおいくつなんですか?」
「ん?言ってなかったか?」
コーナスはお湯をすすりながらルビアを見る。
「はい…。若そうだなぁって思ってたけど、歳と見た目が一緒なのは人種くらいですから、よく分からなくて…」
魔界にはさまざまな種族が存在している。【かえで】の記憶から人種はほぼ見た目で年齢が判るが、その他の種族はさっぱり分からないのだ。
「あぁ、そうか。うっかりしてたな。オレは竜人で22歳。アキレアは人種で24歳。ミモザも人種で18歳だ」
「やっぱり、みなさんお若いのですね!」
つい、21歳の【かえで】に戻り同年代の感覚になる。
「いや、10歳の女の子に言われても…」
ミモザとコーナスは頭を掻いていた。
あははは とルビアは笑って誤魔化していた…
朝食も終わり、出発の準備を整える。
「コーナスさん、今からどこへ向かうのですか?」
あたしはバックパックを背負いながら、コーナスへ声をかけた。
「まずは、オレたちの拠点であるヘレボルスのコロニーに向かう。ここから東のコロニーで、元ドラセナのコロニーだ」
「ドラセナさまの…」
「あぁ、ドラセナのコロニーだった場所だ。今は少し治安が悪くなってしまったがオレの故郷であり、オレ達『竜の牙』の拠点となるコロニーだ。ここから、あと5日くらいで着く予定だ」
「はい!がんばって歩きます!」
ルビアは明るく返事をする。【かえで】の感覚だと元ドラセナのコロニーに戻るのは、コーナスにとって何か思うところがあるのでは?と、気にしてしまうが、コーナス本人からはそんな感じはない。
これが『魔界の普通』なのだろう…と、割り切って考えるようにした。
何事もなく草原を歩き3日が経った。
草原から北側にあった森は、草原を侵食するように広がりつつあり、あたし達が歩いている道は森の端を掠めるように続いていた。
「ここからは森が近い。森からモンスターが出てくる事も多くなる。みんな、気を引き締めろ」
コーナスがみんなに注意を促す。
しばらく歩くと、道と森の距離が500mくらいになった。
「…!」
あたしは魔力を感知する、と同時にシオンが反応した。
「…ルビアさま!」
「うん、わかってる! コーナスさん!」
ルビアは前を歩くコーナスに声をかける。
「ん? ……!!」
コーナスはすぐに異変に気が付き臨戦態勢に入る。
「敵襲!」
コーナスが短く叫ぶと、アキレアはボウガン引き絞り、ミモザはルビアとシオンを背中に隠す。
あたしは、とおさまに貰った龍の装飾がされたナックルを両手に嵌め、ショートソードを腰から外してシオンに渡す。
「シオン、あたし剣使えないからコレ使って!」
「あぃー」
シオンはショートソードを受け取ると、鞘から剣を抜き両手で構える。ショートソードの刃は少し青白く見えた。
こちらの戦闘態勢が整う頃、森からゴブリンが8体とオークが2体、姿を現した。
ゴブリンは弓やボロボロのショートソードを装備し、オークは刃が欠けたバトルアックスを片手に持っていた。
「オークと、ゴブリンか… アキレア!行くぞ!」
コーナスが叫ぶと同時に、ゴブリン達も叫びこちらへ突撃を開始した。




