竜の牙
コーナスの仲間になったルビア達は、冒険の基本的な事を教えてもらっていた。
「なるほど、やはり野営する時は夜番しなきゃダメなんですね」
「そうね、寝ている時に魔獣や盗賊に襲われる事もあるし、荷物を盗られることもあるわ。基本的は2人で夜番をしてるの。片方に何かあっても、もう1人が大声を上げることができるでしょ?」
ミモザはお湯を飲みながら説明してくれた。
「さっき、シオンとも夜番どうしよう…って話してたところなんです。そこにコーナスさまが来られて…」
ルビアはさっきの出来事を思い出し、緊張していた事を笑って誤魔化す。
「おいおい、ルビア。もう仲間なんだから『さま』はやめてくれよ。コーナスでいいよ」
コーナスは器用に肩を竦めていた。
「呼び捨てはちょっと… では、コーナスさんって呼びますね」
ルビアの頬が少し紅くなって見えるのは、照れているのか、焚き火の灯りのせいかはわからない。
「コーナス、新しい仲間たちにパーティのこと説明しなくていいの?」
ミモザはルビアたちをチラッと見て、コーナスに話しかける。
「そうだな、簡単に説明するよ。オレ達のパーティは『竜の牙』って名乗っている。メンバーはここにいる3人で、一応リーダーはオレがやってる。」
コーナスは胸を張り、親指を立てて自分を指した。
「コーナスは竜人なの。だから『竜の牙』ってパーティ名にしたのよ。うちのリーダー自己主張が激しのよ」
うふふふふ と口元を隠して笑うミモザは本当に楽しそうだ。
「………」
「あそこで一言も喋らないヤツが居るからな、オレがその分頑張ってるんだよ」
コーナスはアキレアを指差して笑っている。
「………」
焚き火の火から目を離さないアキレア。
ルビアはあははは 自然と笑い声が出ていた。
「オレ達、竜の牙は商人の護衛任務をメインにしている。その方が確実にお金が貰えるし、オレは魔界をいろいろ見て回りたいんだ。だから、護衛任務は都合がいいのさ」
「なるほど… あたしも魔界を見て回らなきゃならないのです。一緒に連れて行って下さい!」
ルビアの目的とパーティ竜の牙の目的が合致した。
「そうなのか!これもドラセラの導きだなぁ」
コーナスは腕を組み、うんうんと頷いている。
「それじゃ、次はルビア達の事を聞いてもいいかな?まず、2人は得意な事ってある?」
コーナスはニコッ微笑み、ルビアとシオンを交互に見る。
あたしは少し困惑していた。正直に話してもいいのだろうか?もちろんスキルを話すことはしないが、どの程度話すか?隠してバレた時にどうなるのか?
しばらく困って黙っていると
「シオンは隠れるのが得意ですぅ」
うへへへ と両手で自分の体を抱きしめてクネクネしている。
シオンの答えを聞き、軽く答えるくらいでいいのかと理解する。
「あたしは、魔法が少しと、ケンカくらいかな… いつも、とおさまとケンカしてました」
「お!シオンはかくれんぼが得意か!ルビアは魔法が使えるのか!しかもケンカも!? こりゃすごい!竜の牙の秘密兵器だな!」
あははは とコーナスは豪快に笑う。
ミモザも うふふふと口元を隠して笑っていた。
たぶん、子供の言う事だからまともに信じてないだうな…
ルビアは、ははははと乾いた笑いで誤魔化していた。
「いつから2人で旅をしているの?」
ミモザはあたし達に、お湯のおかわりを入れつつ聞いてきた。
「今日の朝からです…」
あたしは素直に答えた。
「え?」
ミモザは驚き、大きな目が更に大きくなる。
「旅の初日だったのか!オレ達は運が良かったんだな!少しでも何かがズレていたら出会えていなかったのか…」
コーナスは感慨深く目を閉じて、うんうんと頷いている。
あたしはどうしても気になって聞いてしまった。
「コーナスさん、アキレアさんは焚き火が好きなんですか?」
「あはははは、アキレア!ご質問だぞ?」
コーナスがアキレアに話題を振る。
「……癒し」
アキレアはボソリと呟くだけだった。
「あぃー。火を見てると、なんか癒されますねぇ」
シオンがアキレアの隣に座り、一緒に焚き火を見つめる。
「……お前、いいやつ」
アキレアが細い目でシオンを見て、また焚き火を見つめる。
「あぃー」
不思議な雰囲気がアキレアとシオンを包み込む。
「……あの2人を一緒に夜番させたらダメだな」
コーナスは、苦笑いしていた。
「さて、明日もたくさん移動するし、そろそろ休むか。ルビアとシオンはゆっくり休むといい。今晩は疲れただろう?」
コーナスの提案にミモザも「そうね、それがいいわ」と同意していたが、あたしは断った。
「そ!それはダメです!あたし達も夜番します!」
「旅の初日だろ?無理するなよ?」
コーナスが諭すように話しかける。
「あたしたちは竜の牙の仲間になりました。だから、出来る事はさせて下さい」
ルビアは真剣な顔でコーナスとミモザを見つめる。
「…コーナス」
ミモザはコーナスを見る。
「んー。わかった。ルビアの言うことは正しい。オレが間違っていた。夜番を頼む」
「よかった」
ルビアはパァと表情を明るくし、安堵の息を吐いた。
夜番は、輪番制で
①コーナスとシオン
②ミモザとルビア
③アキレアとコーナス
の順番で行うことに決まった。
ルビアがペアの根拠を聞くと
「アキレアとシオンをペアにしたらダメだ。夜番にならん… オレは竜人だからあまり寝なくても大丈夫なのだ」
なるほど。アキレアさんとシオンが夜番したら、ずっと2人で焚き火見てるだけかも…
初めての野営の夜は、こうして平和に朝を迎えることができたのだった。




