シオン? ルビア?
あたしはシオンの体を略奪した。
肌は小麦色で、手足がすらりと伸びた体の背中には白く大きな翼が付いていた。
「白い…」
手を見ると、爪は短くなり普通の爪に戻っている。
目は… わからないけど、たぶんシオンの黒い目に戻っているはず。
あたしが体を確認していると、コーナスさん達が駆け寄ってきた。
「シオン… なのか?」
コーナスさんは確認するように尋ねてきた。
「コーナスさん… あたし…」
「あたし? ルビア? お前はルビアなのか?」
コーナスさんは驚き、あたしの両肩を掴む。
「コーナスさん、あたしはルビア。シオンはあたしの中にいます」
あたしは両手を胸に当て、シオンを感じる。
「いったい、どうなってるんだ?」
コーナスさんは不思議そうな顔であたしを見ていた。
隣では、ミモザさんやアキレアさん、アオイさん、知らない銀髪の女性が心配そうにあたしを見ている。
「あぃー シオンはルビアさまと融合したのですぅ もう、絶対に離れませんよぉ」
急にシオンが現れ、うへへへと笑っていた。
「もう、シオン! 急に出てきたらビックリするでしょ?」
シオンの体で、あたしとシオンか交互に出て喋りだし、よくわからない状態になる。
「シオン… お前、天使だったんだな…」
アオイさんがそろりとシオンの翼に手を伸ばすと
「シオンの翼に触れないで下さいぃ! シオンの翼に触れていいのは、アオイさん以外の全ての人ですぅ」
シオンは翼をたたみ、アオイさんの手から遠ざける。
「な!なんだよそれ! ボクだけダメなのかよ!」
アオイさんが、目を剥いて叫ぶと
「そうですぅ この体はもう、シオンだけのものじゃないのですぅ ルビアさまの体でもあるのだから、アオイさんだけは絶対ダメですぅ」
「はぁ? なんだよそれ!」
シオンとアオイさんが、いつものようにギャーギャー騒ぎだした。
「もう! シオン!そんなイジワルしないの!」
「見た目は変わったけど、シオン… 帰ってきたんだな」
コーナスさんが慈しむようにあたし達を見ている。
「ふふふ、シオンちゃん。おかえり」
ミモザさんは口元を隠して笑い、
「……」
何も言わず、微笑んでいるアキレアさん。
(あぁ、帰ってきたんだな。いろいろあったし、姿も変わったけど… みんな、帰ってきたんだ)
あたしは、この幸せな状況を噛み締めていた。
「あ… あの…」
銀髪の女性が声をかけてきた。
「あ、あなたは…?」
「わたしはニーム。ジギタリス帝国皇女で、イノンドさまの妻です」
ニームは深々と頭を下げる。
「あなたが、ニームさま!」
「はい、この度は助けて頂きありがとうございました。兄、ロベッジと、夫、イノンドの代わりにお礼申し上げます」
「あ… ロベッジさま…」
そうだった、ロベッジ皇子は自害していたのだった…
「あの、ロベッジ皇子を助けられず… 申し訳ありませんでした…」
「いいえ、兄はルビアさん達に助けて頂きました。あのままだったら、兄は異常者として処理されていたでしょう。イノンドも最後には人として死ぬ事ができました。全て、みなさまのおかけです。ありがとうございました」
ニームは涙を流しながら、深く… 深く… 頭を下げ感謝の意を表していた。
「イノンドさまが死んだ!?」
「はい、イノンドは最後にわたしを助けようとして亡くなりました。わたしはあのまま死ぬべきでした。そうすれば、ルビアさん達にもご迷惑をお掛けしなかったというのに… あの人は… バカな人です…」
ニームはそう言うと、少しだけ笑い… 泣いた。
「ニームさま、そんな事ありません。イノンドは心からあなたを愛していました。あたしはイノンドと話し、イノンドもあたし達と同じ『人』なんだと感じました。誰かを愛して、その誰かと幸せになりたいと願う… ただの『人』なんだと。 ニームさま、イノンドを褒めてあげて下さい。あたし達もイノンドを友として見送りたいと思っていますので…」
「ありがとう… ありがとうございます…」
あたしはニームさまを抱き、ニームさまはあたしの胸の中で声を殺して泣いていた。
「ところでルビア、マモンはどうなったんだ?」
コーナスさんが神妙な面持ちであたしを見ている。
「マモンは、まだこの体にいます。今はあたしとシオンで押さえつけていますが、とても不安定な状態である事には間違いありません」
「そうか… どうすれば。リリウムさまも封印され、誰に相談すればいいのか…」
コーナスさんは腕を組み、頭を捻っていた。
「ルビアさまぁ、ルビアさまは最初どうするつもりだったんですかぁ?」
「え? とりあえず捕食者と略奪者を使って体を略奪したら、マモンをシオンの体から引きづり出してやろうって…」
「どうやって?」
「いやー、とりあえず略奪してから考えようかなぁって…」
てへへ と笑って誤魔化す。
「はぁ、いつもルビアさまは考えるより先に行動しちゃうんですからぁ… 失敗したらどうするんですかぁ…」
シオンは顔に手を当ててため息を吐く。
「まぁ、なんとかなるかなぁ… って」
「まったくぅ…」
シオンは更に深くため息を吐いていた。
その時、あたしの心臓が激しく鼓動した。




