目覚め
「シオン!! 起きろ! お前は誰と戦っているんだ!」
コーナスさんが叫ぶ。
「シオンちゃん! 起きて! お願い!起きて!」
ミモザさんも叫ぶ。
「このバカシオン! いつまで寝てるつもりだ!いい加減起きろ!」
アオイさんも叫ぶ。
「シオン! 焚き火の用意ができたぞ!」
アキレアさんは何か違うけど叫ぶ。
「シオンさん! マモンの中から見えているでしょ? わたしも見てたから分かる! お願い!起きて下さい!!」
知らない銀髪の女性も叫んでいた。
(みんな…)
あたしは、みんなの叫びを聞いて理解した。
シオンは生きている。マモンの中で眠っているような状態なんだ…
「シオン!! あたしよ!ルビアよ! いい加減に起きなさい!」
あたしも叫んだ。
中空にいるマモンはため息を吐き
「ムダな事を… この体はすでにわたしのモノだと言ってるのに…」
やれやれと器用に肩をすくめると、ヒットアンドウェイを再開した。
あたしはなんとかマモンの爪を躱すが、徐々に傷が増えていく。
左腕の傷からは血が流れ続け、踏ん張れば足の傷が開く。
(くっ ダメージが蓄積されてる…)
だんだんと体の動きが鈍くなってくる。
マナも残り少なくなってきている。
あたしの体も限界が近づいてきているようだった。
対するマモンもあちこち傷があり、かなりダメージを蓄積しているようで、攻撃のキレも鈍くなってきていた。
中空からマモンが急降下して、爪で攻撃をしてくる。
体を開いて回避しようとするが、動きが鈍く胸の辺りを切り裂かれた。
「ぐっ!!」
胸の辺りはチェインメイルを着込んでいたためダメージは軽減され致命傷は防ぐ事ができたが、それでもあたしはかなりのダメージを受けていた。
「ルビア!!!!」
コーナスさんが叫ぶ。
その時だった。
「いい加減、シオンの手でルビアさまを傷付ける事はやめてもらえませんかぁ?」
中空に浮いているマモンから聞こえきた。
「シオン?」
「あぃー ルビアさま、ボロボロですねぇ」
マモン、いやシオンはニコっと笑うと地上に降りてくる。
「シオン!!!」
シオンに駆け寄ろうとした。
「バカな! 天使が目覚めるだと!?」
マモンが叫ぶ。
「シオンはもう目覚めましたぁ。マモン、お前はシオンと死ぬのですぅ」
「くそ! ここまできて!」
シオンの体ひとつでマモンとシオンが入れ替わりながら言い合いを始めた。
「ぬぅぅぅぅうおおおおぉぉぉ!」
マモンは全身に力を込めて叫ぶと、翼がより一層黒くなり、目から血の涙が溢れ出す。
「ル… ルビアさま! 早く! 今のうちにシオンを殺してください!」
弱々しくなったシオンの声が、あたしに『殺せ』と言っている。
「シオン… ムリだよ。 あたしにシオンを殺せるはずないじゃない」
「ルビアさま! 早く! シオンがマモンを抑えているうちに… 早く!」
シオンはガクガクと体を震わせ、両手で自分の体を抱きしめて膝から崩れ落ちる。
あたしはゆっくりとシオンに近づき、優しく抱きしめる。
「シオン… 今までありがとう。 あたしね、シオンと過ごせて幸せだった」
あたしはシオンを抱きしめてながら、耳元で囁く。
「ルビアさま? …ぐっ! 早く!」
シオンはマモンを必死で抑えつけていた。
「シオン、あなたを絶対に悪魔になんてさせない。絶対させないから!!」
あたしはシオンを抱きしめ、『捕食者』を発動した。
あたしの体が溶け、シオンを包み込むように侵略しはじめた。
「ルビアさま? いったい?」
「シオン。 大丈夫。あなただけは助けるから!」
「ルビアさま! まさか!ダメです! シオンを殺してください!!」
あたしの体がシオンを包み込む。それはまるでスライムが獲物を捕食しているかのような光景だった。
そのままあたしは『略奪者』を発動した。
あたしの中から、何かがずぁっと広がりシオンの略奪を開始した。
「くっ! わたしの体を略奪するつもりか!」
マモンがあたしの頭の中で叫ぶ。
「マモン! シオンの体は返してもらうわ! あなたはここで死ぬのよ!」
「ルビアさま! ダメです! シオンを殺して!!」
「シオン… あなたはあたしの妹。姉が妹を守るのは当たり前なのよ」
「ルビアさまぁ!!」
上も下も無い、何もない不思議な意識だけの空間で、あたしとシオン、マモンの意識が体を奪い合うようにせめぎ合っていた。
「ぐうぅぅ… わたしは、こんな所で死ぬわけにはいかないのです!」
マモンの意識が凄まじく強くなり、あたしとシオンの意識がどんどん小さくなっていく。
(くっ… このままじゃ…)
小さくなっていく意識の中、あたしとシオンは離れないように必死でお互いの手を取り合っていた。
「ルビアさまぁ、シオンも今まで幸せでした…」
「シオン?」
「ルビアさまぁ、これからも一緒にいて下さい。 シオンだけ生きるなんてできません…」
「…シオン」
「だから、一緒にマモンを倒しましょう!」
シオンの意識に力が漲ってきていた。
「…うん。わかった」
あたしの小さくなっていた意識にも力が湧き、シオンとあたしの意識は融合した。
「シオン… いくよ!」
「あぃー」
あたし達の意識は膨れ上がり、マモンの意識を追い詰めていく。
「くそ! せっかく天使を手に入れたというのに…」
「マモン! お前はココで死ぬのよ!」
あたし達の意識はどんどん膨らみ、やがてマモンの意識が小さくなっていった。
「くそ!! このままで終わると思うなよ!」
マモンはそう叫ぶと、意識の隅に追いやられてしまった。
ふと、気がつくとあたしはユニークスキル『略奪者』により、シオンの体を略奪していた。
あたしの意識の中にはシオンと、小さくなったマモンが存在していた。




