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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第3章 悪魔編
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逃走

あたし達は一度も振り返る事なく、必死で走っていた。


(どこまで逃げればいいのだろう? いつまで走ればいいのだろう?)


誰もが同じ事を考えていた。しかし、誰もそれを口にしなかった。

もし、口に出してしまうと足が止まってしまう…

そんな気がしたからだ…


シオンは相変わらずグッタリとしていた。


「シオン…」

溢れそうになる涙を堪えて、前を向き必死で走る。



ふと、背後から何かがやってくる気配を感じた。


(リリウムさま達が追いかけてきた?)

あたしは少しだけ期待感を持ちながら振り向くと、見た事がない美しい女性が追いかけて来ていた。

女性は銀色の髪を振り乱して走り、その美しい肌には切傷がいくつかあった。


「コーナスさん、誰か来ます!」


あたしの声にみんなが振り返り確認する。が、誰もその女性を見た事がなかった。


「あれは誰だ?」

「わかりません」

「止まって確認してみるか?」

「いや、やめましょう。とにかく逃げましょう」


あたし達は走りながら短く相談し、逃走する事を選んだ。

あたし達は、更にスピードを上げて走ると、アオイさんが遅れだした。


「アオイ! 走れ!」

コーナスさんが檄を飛ばす。


「みなさん! 先に行ってください!」

アオイさんはもう限界だった。アオイさんの足が止まりかけている。


続いてミモザさんも遅れ始めた。

「コーナス! 先に行って!」


コーナスさんは立ち止まり叫ぶ。

「ルビア! お前は行け! ここはオレ達に任せろ!」


「コーナスさん! でも!」


「オレ達を信じろ!」

コーナスさんの声に押されるように、あたしは走り続けた。


あたしの背後では竜化したコーナスさんが、ダガーを持ち女性を迎え撃とうとしていた。


ミモザさんはコーナスさんに対物理攻撃耐性と対魔導攻撃耐性をかける。

アオイさんとアキレアさんもダガーを抜き攻撃に備える。


「みんな!」

あたしは仲間を信じた。無理矢理、信じた。

一度、みんなはマモンに殺されかけている。

あの女性がマモンなら、殺されるかもしれない。

でも、あたしはシオンを連れて逃げなければならない。逃げて生きなければならないのだ。

それが、『仲間を信じる』なのだ。


(みんな、死なないで…)

あたしは少しだけ祈ると、キッと前を向き再び走りだした。


「いくぞ!!」

背後でコーナスさんの声が聞こえた。あたしは振り向かずに走り続けた。


次の瞬間、『ズシャ!ズシャシャシャシャ…』と予想しない音が聞こえた。

あたしは思わず振り返ってしまった。


銀髪の女性は突然人形のように全身の力が抜け、走ってきた勢いを殺せず、受け身も取らずに地面を転がっていた。

コーナスさんは転がってくる女性を受け止め、全員が何が起きたのか理解できずに固まっていた。




「わたしの天使を返してもらいますよ」

突然あたしの近くで声が聞こえた。

あたしは立ち止まり辺りを見るが、誰もいない。

ふと、シオンを見るとシオンは黒い霧に包まれていた。


「ダメー!!」

必死に黒い霧を振り払おうとするが、霧はシオンから離れない。


「ぅ… うが! あ…が!!」

黒い霧に包まれたシオンは苦しそうに悶え始めると、全身を痙攣させ口から泡を吐きだす。


「シオン! シオン! どうしたらいいの? シオン!」

あたしは必死で黒い霧を手で払うが、全く効果はなく霧はシオンの体に溶け込んでいった。


「あががががががが!!!」

シオンは大きく目を見開き、全身を痙攣させながら叫ぶとピタリと止まってしまった。



「シオン? ねぇ、シオン??」

シオンの肩を揺すり、シオンの意識を確認すると、パチっと目を開いた。


「シオン! 大丈夫?」

シオンの上半身を起こし顔を見ると、シオンの黒い目は赤い目に変化していた。


「ふぅ、間に合いました」

シオンはゆっくりと立ち上がり、首を回して体の調子を確かめている。


「まさか… そんな…」


「いやぁ、あなた達には驚きましたよ。まさか、わたしの天使を奪って逃げるなんてね」

くくく と、シオンは笑っていた。


「マモン!! シオンを返して!」


「おやおや? もう、この体はわたしのモノです。返すも何も… ムリですねぇ」

はーはははは とマモンは両手を広げて天を仰ぐように高笑いする。


「くそっ!!」

背後からコーナスさんと、アキレアさんが走り寄ってきていた。

ミモザさんとアオイさんは、その場で銀髪の女性を介抱していた。


「ここまでわたしを怒らせたあなた達には、ご褒美をあげなきゃいけませんね。わたしが直接殺してあげましょう」

マモンはニヤリと笑うと、右手の赤い爪を伸ばして横に振り抜こうとしていた。


「あぶない!」

あたしは咄嗟にシオンにタックルし、シオンを抱いたまま地面に転がる。


「コーナスさん、逃げて!」

あたしは叫ぶと、シオンから飛び退きアイアンナックルを装備する。


「ルビア! オレ達も戦う!」

コーナスさんが叫び、アキレアさんがダガーを構える。


「ううん、コーナスさん。あたしにやらせて。シオンはあたしの妹。妹の不始末は姉の責任! あたしはシオンと戦わなければならない! それが、あたしの… 姉としてのあたしの責任なの。 お願い… あたしに任せて…」

あたしにはひとつだけシオンを助ける考えがあった。

失敗すればルビア(あたし)は死ぬ…

成功してもルビア(あたし)という存在は消滅すると思う…

あたしは覚悟を決めていた。たとえルビア(あたし)という存在がなくなっても、シオンを悪魔にする訳にはいかない。絶対にシオンを悪魔にしてはならないのだ。あたしは涙を抑えられなかった。溢れる涙を止めずに、コーナスさんに微笑みお願いをした。



「……わかった。 …すまない」

コーナスさんはダガーを鞘に戻し、あたしから離れる。


「ルビア、死ぬな」

アキレアさんもダガーを鞘に戻して、コーナスさんの横に立つ。



「コーナスさん、アキレアさん、今までありがとう…」

あたしは指で涙を拭いながら、微笑み…

別れを告げた。


「ふふふ、もういいですか? 娘、安心しろ。そこの2人も、向こうのやつらともすぐに会えるようにしてやる」

マモンはニヤニヤしながら、あたしを見ていた。


「マモン、お前はここで死ぬ。あたしが必ず殺してあげる」

あたしは両手のナックルをガチンをぶつけて、マモンを睨みつけていた。

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