冒険者との遭遇ー1
ルビアとシオンは早めの食事を終え、今晩の就寝について相談していた。
「シオン、やっぱり野営って誰が起きて夜番とかしなきゃダメかな?周りたくさん人居るけど…」
ルビアが言うように、周りには冒険者風の人達や、商人らしき人達が夜営をしている。
「そうですねぇ。たぶん夜番はした方がいいと思うますよぉ。敵なら寝起きのルビアさまでも追い払えるでしょうけど。朝、起きたら荷物が何も無いなんてイヤですしぃ」
魔獣や盗賊などの『敵』ならシオンの『敵意感知』で寝てても気がつく自信があるが、荷物だけこっそりと盗られる場合は感知できるか不安があるようだ。
「あ… あたし、そこまで強くないと思うよ?」
「そんなにスキル持ってて、強くないハズないじゃないですかぁ」
シオンはうへへへと笑いながら、クネクネしている。
あたし達が焚き火を挟んで話し込んでいると、意識の端っこに魔力が近づいてくる事を感知した。
「シオン。何かくる」
あたしは声を潜めて、シオンに感知した何かの方向を目で合図する。
「あぃー。敵意は感じられないですねぇ」
シオンは声を潜めて応えるが、態度は自然なまま変わらない。
あたしは剣を使う自信がないので、とおさまに貰った龍が装飾されたナックルを手に嵌め握りしめる。
シオンは鞘から抜いたダガーを手に持ち、背中に隠す。
あたしの後ろから足音が近づいてきた。
敵意は感じられないが、ナックルを持つ手が震える。
焚き火の灯りで顔が見えるかどうかの距離で男の声がした。
「君たち、まさかとは思うが2人で旅をしているのか?」
振り向くと身長が180cmくらいの男が立っていた。
男はスケイルメイルを着ており、腰にはバスターソードを下げていた。
体格はスケイルメイルの上からでもわかるくらい筋肉が発達していた。焚き火の灯りが届ききらず、顔はハッキリと見えない。
あたしは振り向いて立ち拳を握る。
「ま!待てっ!オレは敵じゃない!」
男は慌てて両手の掌を見せて敵意が無いことをアピールする。
「すまない、夕方から見ていて気になったから。どうも大人の気配も無いし、こんな小さな女の子が2人で旅なんて信じられなくて…」
男は両手を上げて、ゆっくりと焚き火の近くまで近寄ってきた。
「………」
あたしとシオンは警戒しながら男の様子を伺う。
「そう、警戒すんなって。オレはコーナス。冒険者をしている戦士だ」
コーナスはニコッと笑う。
焚き火の灯に照らされたコーナスは髪は短く刈りそろえられており、目が鋭く整った顔をしていた。
目の色が黄色いことが印象的だった。
あたしは、コーナスから敵意を感じないので警戒をとき拳を下ろす。シオンもそれを見て、隠していたダガーを鞘に戻した。
「なにか御用ですか?」
あたしは、少し剣のある声で尋ねる。
「あぁ、すまない。さっきも話したがこんな小さな女の子2人だけで旅をしているのか?と気になってしまってね…」
コーナスは頭を掻きながらルビアとシオンの間に座った。
「はい。あたし達は2人で旅をしています」
ルビアが答えると
「ええ!本当かい?!」
コーナスは大きな声で驚き、慌てて声を落とす。
「なぜ2人で旅を?」
「あたしはコロニーに居られなくなり、仕方なくコロニーを出ました。シオンはあたしについて来てくれたの…」
城のみんなや、コロニーの人たちを思い出して涙目になる。
「そうか… なにか深い事情がありそうだね…。とりあえず、向こうに行かないか?オレの仲間もいるし、君たち2人でいるよりは安全だと思うよ?」
コーナスは自分が来た方向を、指差し2人に微笑んだ。
ルビアはシオンの隣に移動し小声で相談する。
「シオン、どうする?」
「あぃー。シオンはルビアさまについて行きますよぉ」
「そうじゃなくて、ついて行っても大丈夫かな?」
「ルビアさまなら大丈夫ですよぉ。強いしぃ」
「うーん…、そんなに強くないと思うけどなぁ…」
「それに、大人がいたら安心して眠れるんじゃないですかぁ?」
「たしかに…」
シオンの言う通り、10歳の女の子2人でいると無用なトラブルに巻き込まれてる可能性が高い。
大人が近くに居るだけでトラブルを避けることも出来るかもしれない。
「わかりました。シオン、荷物まとめてコーナスさんの所に行きましょう」
「あぃー」
シオンが荷物をまとめ始める。
コーナスは安堵した様子で
「よかった。気掛かりで一晩中眠れない夜を過ごすところだったよ」
あははは と爽やかに笑っていた。
あたし達は荷物をまとめ、焚き火を処理するとコーナスの仲間の所に移動した。
そこには焚き火を挟んで2人が座っていた。
1人は痩せてはいるが、筋肉質の男性。髪は長く後ろで束ねられている。鋭いと言うより細い目であたし達を見ていた。
もう1人は白いローブを着た女性。赤い髪が印象的で、頬にはそばかすがあり、美人と言うよりかわいい感じだ。女性は大きな目でこちらを見ると、ニコっと微笑んでいる。
コーナスはルビアたちの方を振り向き、仲間の方に右腕を広げる。
「紹介するよ、男のほうがアキレア。レンジャーだ。女の方がミモザ。白魔道士、オレの大切な仲間たちだ」
「初めてまして。あたしはルビア、この子はシオンです。よろしくお願いします」
ルビアは丁寧にお辞儀をして、コーナスの仲間達の近くへ少し緊張気味に歩いていった。




