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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第3章 悪魔編
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イノンドの願い

イノンドはこれまでの経緯を話し終わると、深く息を吐き沈黙した。

しばらくして、天を見上げて祈りを捧げると


「神よ。これまでわたしは沢山の人を殺してきた。今なら分かる。わたしは権力を持ち、自分が強くなったような錯覚をしていたのだ…」

イノンドはしばらく俯いていた。祈りを捧げる手に、ポタ… ポタ…と涙が落ちる。


「神よ。勝手な願いだと分かっているが、どうかわたしの願いを叶えて欲しい。どうかニームを、ロベッジ皇子を救って下さい。わたしは悪魔に殺されるでしょう。それは受け入れます。とても恐ろしい事ですが、それはわたしへの罰なのでしょう。しかし、ニームとロベッジ皇子は罰を受ける理由がない。2人とも優しく、とても素晴らしい人なのです。どうか、ニームとロベッジ皇子に神のご慈悲を… どうか、2人を助けてください… お願いします」

イノンドは静かに涙を流していた。


あたしはイノンドがキライだった。正直言ってこの世からいなくなればいいとも思った。

でも、この人も『人』なんだ…

誰かを愛し、誰かと幸せになりたいと願っている。

そして、その愛した人を命に替えてでも助けたいと願っている。


あたし達と同じ『人』なんだ…


「イノンド。敬虔なる信徒よ。お前の願いは聞き届いた。近いうちにリリウムという女性が再び現れるだろう。リリウムに救いを求めよ」

あたしは、なんとかイノンドも、ニームさんもロベッジ皇子も救いたかった。


リリウムさまに相談すれば、なんとかなるはず。

ジギタリス帝国との戦いもリリウムさまは解決してくれたのだ。きっと、今回だってなんとかしてくれる!


あたし達は、シオンを助け、イノンドとニームさん、ロベッジ皇子を助けるのだ。あたし達ならできる!

根拠は無いが、あたしは自信を持って言える!

あたし達ならできる!!



「神よ。わたしは呪いにより言葉が出ない。それにわたしはリリウム達を殺そうとしたのだ…」

イノンドは、ふるふると頭を弱々しく横に振る。


「イノンド、神を信じなさい。そうすれば、あなたの願いは叶うでしょう」


「しかし… いえ、わかりました。どうか、ニームとロベッジ皇子をお助けください。お願いします…」

イノンドは天を仰ぎ、祈りを捧げていた。


あたしはゆっくりと立ち上がり、棚の向こうにある魔力に意識を向けてみた。


(やっぱり小さな魔力を感じる。イノンドの話しなら、あそこにロベッジ皇子がいるはず…)


あたしはそれだけ確認すると、足音をたてないように注意しながら地下牢を出ていった。


入口には警備をしている兵がいるはずなので、誰もいない部屋に入り窓から外に出ると、リリウムさま達が待つ部屋に帰った。


3人用の部屋には全員が集まっており、いざとなれば戦える準備をして待機していた。

あたしは静かに部屋に入ると、全身に纏っていた光属性の魔導を消し姿を現した。


「うあ!ルビアちゃん!?」

突然現れたあたしにアオイさんが驚き、その声にコーナスさん達が、「しーっ!」と指を唇に当てる。


慌てて両手で口を塞ぐアオイさんだが、声は出た後なので意味がない。


「ふふふ、大丈夫ですよ。近くに誰も居ませんでしたから…」

あたしは笑いながら、みんなを安心させる。


「アオイ、あまり大きな声を出すんじゃない!」

コーナスさんがアオイさんを叱り、アオイさんはしょんぼりしていた。


「ルビアさん、何か分かりましたか?」


「リリウムさま、悪魔を召喚したのはアニス総督でした」


「アニス総督が!? なぜ?」

リリウムさまは困惑していた。


あたしはイノンドの話しと、あの棚の向こうにロベッジ皇子が監禁されている事を説明した。


「なんという事を…」

リリウムさまは両手で顔を塞ぎ、俯いてしまう。

コーナスさんやミモザさん達も言葉を失っていた。



リリウムさまはキッと空中を睨んでから、あたし達をくるりと見ると

「わかりました。ルビアさん、わたし達はシオンさんとイノンド、ニームさん、そしてロベッジ皇子を助けましょう。アニス総督がまだ健在だったという事は、まだシオンさんは無事だという証拠。そして、悪魔マモンは近いうちに必ずアニス総督の前に現れます。その時が、最大のチャンスです」


「しかし、リリウムさま。悪魔マモンはとてつもなく強く、ルビアを除く全員で攻撃しましたが、かすり傷ひとつ付けることが出来ませんでした…」

コーナスさんは、悔しそうな顔でマモンと相対した時の事を話した。


「わたしに策があります。マモンはニームさんの体を手放す為には、アニスとの契約を破棄しなければなりません。契約を破棄する方法は、アニスに『契約を破棄する』と宣言してからアニスを殺害しなければなりません。契約を破棄すればマモンは受肉した体を放棄できるようになり、シオンさんの体に乗り移るのです。わたし達は、このタイミングでシオンさんの体を奪い返し逃走すればいいのです」


「戦わなくていいのですか?」

あたしはリリウムさまに問いかけた。


「はい、マモンは魂はこの世に存在できない状態なのです。通常、契約を履行して受肉した体を放棄すればマモンの魂は元の世界に戻りますが、契約を破棄した場合、元の世界に帰る術も無くなるのです。つまり、マモンは元の世界に帰る事も出来ず消滅するのです」

リリウムさまはニヤリと笑う。


「なるほど、それなら戦う必要もありませんね!」

コーナスさんもニヤリと笑っていた。


「さて、この作戦の役割ですが… シオンさんの奪還はルビアさんにお願いします。コーナスさん達はルビアさんのフォローをお願いします。マモンとの直接対決はわたしが引き受けます」


「リリウムさま!それはあまりにも危険では!?」

コーナスさんは思わず声が大きくなり、慌てて声を潜める。


「コーナス、わたしは不死者です。それと、みなさんは知らないと思いますが、普段のわたしは力を抑えています。マモンに立ち向かう時は、その力を解放しますので大丈夫ですよ」

リリウムさまはにこやかに答えると、コーナスさんは少し心配そうにはしていたが、「コロニーの主になるくらいのお方だしな…」と納得していた。


確かにリリウムさまの力はすごい。あたしも戦いたくないくらいすごい。それにリリウムさまは不死者なのだ。

更には、シオンの体を奪還して逃げればあたし達の勝利なのだ。

あたし達には勝利しか見えてなかった。



この時までは…

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