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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第3章 悪魔編
133/148

恐怖

―――(イノンド)―――



悪魔マモンが召喚され、契約に従い行動を開始するために部屋を出て行った。


アニス総督は満足そうな顔をしてマモンを見送ると、少女達の遺体を大きな袋に2人ずつ押し込み、両脇に抱え部屋を出て行ってしまった。

部屋のドアは外からカギをかけられ、わたしとロベッジ皇子は血生臭い部屋に取り残されてしまった。



ロベッジ皇子はイモムシのように這って祭壇へ行き、祭壇に体をぶつけ始めた。何度かぶつかると少女の首を切ったナイフが祭壇から落ち、ロベッジ皇子はナイフで手を縛るロープを切り拘束を解くことに成功した。

ロベッジ皇子はわたしの手足のロープを切り猿轡を外し、「イノンド、大丈夫か?」とわたしの体を気遣ってくれる。


「ぁ… ぅぁ… ぁぁ…?」

わたしは言葉が出なくなっていた。


「イノンド?」


「ぅ… ぁぁぁ… ぃぁ…」

ダメだ… 言葉が出ない…

頭の中ではロベッジ皇子へ向ける言葉が溢れているのに、それが口から出てこない…


「これが『呪い』か…」

ロベッジ皇子は奥歯をギリっと噛みドアを睨む。


わたし達はドアを開けようと、いろいろ試すが見た目以上に頑丈なドアはビクともしなかった。


あまりの衝撃的な光景を目撃した事と、いまのどうしようもない状態で、徐々に絶望感がわたし達を襲う。

いつしかロベッジ皇子もしゃべらなくなり、沈黙と血の臭いだけが部屋を支配していた。



何時間経ったのだろう…

不意にドアが開きアニス総督が現れた。


「お、拘束を解いたのか。まぁ、そろそろ外そうと思っていたところだ。ロベッジ皇子、これを食え。お前は予備なのだ。死なれては困るのでな。さぁ、イノンド、お前には最後の仕事を与えてやる。こい」

アニス総督はロベッジ皇子にパンを投げると、わたしの首根っこを掴んで引っ張ろうとしていた。


「アニス!お前はいったい何をしようとしといるのだ!なぜ、こんな事をする!」

ロベッジ皇子は立ち上がり、アニス総督を指差しながら叫んだ。


アニス総督は面倒くさそうにロベッジ皇子を見ると、

「ロベッジ、ワシは忙しい。お前の相手をしているヒマはないのだ」


それだけ言うと、ロベッジ皇子との間合いを一瞬で詰めて手刀を首に当てる。


「がは…」

ロベッジ皇子は白目を剥き、膝から崩れ落ちてしまった。



「さぁ、こい」

アニス総督はわたしを部屋から引きずり出し、外から部屋のドアを閉めてカギをかけた。

ドアの前には備品を置いた棚を置き、ドアを隠してしまう。


そこは薄暗い廊下で、片側に鉄格子が並んでいた。

壁には小さなランプがあるだけで、窓がひとつも無かった。ここはわたしもよく知っている場所だった。


(ここは、地下牢… わたしは魔界にいたのか…)


アニス総督は棚から大きな麻袋を取り出すと、わたしに被せ口を縛り肩に担いで歩きだした。


途中で兵達が挨拶をする声が聞こえ、助けを求めようとしたが小さな呻き声しか出ない…


アニス総督は大きな声で兵達を労いながら、移動を続けていた。


どれくらいの時間がたったのだろう?

わたしは麻袋に入れられたまま、どこかに転がされた。


「イノンド、もう自由にしていいぞ」

アニス総督の声がして、足音が遠くに離れていった。


わたしは麻袋の中で、しばらく辺りの音を聞いていたが風の音しか聞こえてこなかった。


(とりあえず外を確認してみよう…)

麻袋の口を広げてみると、あっさりと広がる。

辺りに注意しながら麻袋から這い出ると、そこは少し離れた所に町の灯りが見える空き地だった。


(とにかく屋敷に戻り、父上に報告しなければ…)

わたしはフラフラする体にムチを入れ、町まで歩いて戻る事にした。



しばらく歩いていると

「いたぞ!! イノンドだ!」

「取り押さえろ!!」

と叫びながら、5人の兵達がすごい剣幕で襲ってきた。


「ゔあ"!うがぁぁぁ!!」

やはり言葉は出ない…


わたしは兵達に押さえられると、後ろ手に拘束され兵達の詰所に連行された。


兵達の詰所には罪人を取り調べする取調室がある。取調室の中央に事務机と、机を挟むように椅子が2つある。部屋の奥には事務机と椅子があり、そこで取り調べした内容を記録しているのだ。


取調室にはすでに2人の兵がおり、1人は中央の机の前に立ち、もう1人は記録用の事務机に座ってペンを走らせていた。


わたしが中央の机にある椅子に座らされると、机の前に立っていた兵が正面に座る。


「イノンド。オレ達は全てわかっているのだ。正直に全てを話せば罪は軽くなるだろう」

兵は真剣な目でわたしを睨むように見ていた。


「あが… あぅぅぁ…」

やはり言葉が出てこない…


「狂ったようなマネはするな!イノンド!なぜ少女達を殺したのだ!!」

兵はイライラしながら机を叩き、叫ぶ。


「うがぁぐが! ぐが!」


「貴様!オレをナメてるのか!お前の屋敷の地下室から行方不明になった少女達が遺体で見つかったのだ!お前が殺したのだろう!ニームさまを妻として迎えておきながら… なぜそんな事をするのだ!」

ニームはジギタリス帝国の男達全員のアイドルだった。そんなニームを妻に迎える幸運を得ながら凶行に走るイノンドを、兵は許せないのだ。


「うぐ… うぁぁぁ」


「貴様… ん?そう言えば、最近ニームさまのお姿を誰も見ていないが… イノンド、ニームさまはどうした?」


「うゔ… がぁぁ」

わたしは必死にアニス総督の事を伝えようとしたが、どうしても言葉が出ない…

やがて兵の怒りは頂点に達した。


「貴様!!まさかニームさままで…!!」

兵はわたしの襟首を掴み持ち上げて叫んだ。それを聞いた記録係の兵も立ち上がり、わたしを睨みつける。


「ゔゔゔ…」


「貴様!!いい加減に狂ったマネは止めろ!!」

と、叫びわたしを床に投げ捨てる。




それから数日間、拷問のように厳しい取調べが毎日、何時間も続いた。

やがてわたしは小さな物音にさえ怯えるようになってしまった…


ある日、わたしはジギタリス帝国に居る事すら許されなくなり、魔界に送られ地下牢に投獄されたのだ…


これでわたしの役目は終わった。

あとは、悪魔マモンに殺されるのを待つだけとなってしまったのだ…


悪魔は魂までも喰らうと聞いたことがある。

わたしの肉体も、そして魂までもが殺されてしまうだろう…


その日から、わたしは恐怖の毎日を過ごす事になった…

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