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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第3章 悪魔編
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違和感と信頼

あたし達は謁見の間がある建物の2階にある、来賓用の部屋に通された。


「今日はもう遅いですし、ゆっくりとお休み下さい」

と、アニス総督がジギタリス帝国都市への滞在を勧めてくれたのだ。


来賓用の部屋はシンプルなデザインだが、品のあるベットやテーブル、ソファーなどが置いてあり、とても居心地のよい部屋だった。


部屋は2人用が2部屋と、3人用が1部屋用意された。

2人用の部屋は、リリウムさまとティモルさん。ミモザさんとあたし。3人用部屋をコーナスさん、アキレアさん、アオイさんが使用する事にした。


あたし達は一番広い3人用の部屋に集まり、今日の事を話し合っていた。

テーブルを挟んでリリウムさまとコーナスさん、ミモザさん、アキレアさんがソファーに座り、ベットにあたしとアオイさんが座る。

ティモルさんはリリウムさまの横に立ち、お茶の用意などをしてくれていた。


「リリウムさま、イノンドがあの様子では悪魔を召喚したのか聞き出すこともできませんね…」

コーナスさんがイノンドの件で切り出した。


「そうですね… まさか、イノンドがあのような状態になっているなんて…」

リリウムさまも頭を抱える。


「しかし、イノンドは本国で幼い少女を殺していたのですよね?それはつまり、処女の血を集めていた… という事でしょうか?」


「わかりません。もし、イノンドが悪魔召喚を知っていて、それを実行しようと考えていたのなら可能性はあります。しかし、それを証明する事も、確認する事も難しいでしょうね」


「そうですね…」


部屋は沈黙に支配され、カチャカチャとお茶を飲む時に出る食器があたる音だけが虚しく響いていた。


「あ… あの… 関係ないかもしれませんが…」

あたしは小さく挙手して、みんなの注意を集める。


「どうかしましたか?」

リリウムさまが首を傾げて、あたしを見ていた。


「あの牢屋なんですが、少し変な感じがしたのです…」

アニス総督に促されて地下牢を出る時、小さな魔力を感じたのだ。でも、それが何か分からない…


「変な感じ?」

ミモザさんは飲みかけていたお茶をテーブルに戻し、あたしの言葉の続きを待っていた。


「はい、地下牢を出るときなんですが。ふと、廊下の奥にある棚が視界に入ったのです。なにか少しだけ魔力を感じたのです…」


「そういえば、ルビアちゃん帰り際に棚を見てたね」

アオイさんはあの時のあたしを思い出していた。


「うん。本当に小さな魔力なんです。でもそれが何か分からなくて…」


「どんな感じの魔力だったの?」

ミモザさんは一緒に考えようと、ヒントを模索していた。


「そうですね… あ!食器!豪華な食器には魔石の結晶とかで装飾するじゃないですか。あんな感じでした」

マヴロの屋敷にもたくさんあった、豪華で鮮やかな魔石の結晶で装飾された食器と同じ感覚だったのだ。


「棚に置いてたんじゃないのか?」

コーナスさんは、それくらい不思議じゃないだろ?って顔であたしを見ていた。


「あんな場所に、そんな豪華な食器置くかな?」

ミモザさんが不思議そうな顔をして考えている。


「そうだなぁ…」

コーナスさんも頭をひねる。


「あと、その魔力は棚よりも向こう… 壁の向こうにある感じだったんです」

あたしはあの時の感覚を思い出しながら話しをする。


「棚の向こうって… 地下なんだから地面の中だぞ?勘違いじゃないのか?」

コーナスさんは、そんなバカな…って顔をしていた。


う…

勘違いなのかな…

自信がなくなってきた…


あたしが少し凹んでいると

「コーナス、否定ばかりしないでルビアさんの話しを聞きなさい」

リリウムさまが、コーナスさんを睨みつける。


「す…すいません…」

コーナスさんは小さくなってしまう。


「みなさん、思った事や感じた事、なんでも話して下さい。そして、それに対して否定する事はわたしが許しません」

リリウムさまは毅然とした態度で、全員の顔を見ながら言い放つ。


「あ…あの。ぼく思うのですが…」

アオイさんが小さく挙手して、みんなの顔色を伺いながら話しだした。


「アオイさん、思うこと全てを話して下さい」

リリウムさまがニコっと微笑むと、アオイさんは意を決したように話しだした。


「少しだけですけど、今まで一緒に旅をさせてもらって思ったのですが、ルビアちゃんの魔力感知はすごい高精度だと思うのです。だから、地下牢で感じた小さな魔力も何かあると思います。それが棚の向こう、壁の向こうでも…」

アオイさんは一気に話すと、お茶を飲み一息ついた。


「そうね、わたしもルビアちゃんの魔力感知能力はすごいと思うわ。ルビアちゃん達と出会った頃、それでわたし達は魔獣の襲撃から助けてもらったこともあるものね」

ミモザさんがニコっと微笑む。


「そのとおりだ…」

アキレアさんは、ボソっとつぶやくだけ。


「う… オレが悪かったよ。すまなかった」

バツが悪くなり、ますます小さくなるコーナスさんが頭を下げて謝ってくれた。


「あ… いえ、あの。…ありがとうございます」

あたしは何て返事をしていいのか分からず、お礼を言うと


「はい、仲直りはできましたね。さぁ、ルビアさん、続きを教えて下さい」

パンと手を叩いて微笑んで、リリウムさまは話しの続きを促してくれた。


あたしは記憶を元に話しながら、考えていた。


「棚の向こうに感じた魔力は、本当に小さなものでした。あたしが旅に出る前なら日常的に感じていた程度のものです…」

そう、あの感じは小さな頃、あたしの身の回りに溢れていた感覚であり、たぶん魔石の結晶を装飾した食器だ…


「そして、感じた魔力は明らかに人工物でした。自然にある魔石のような濁った感じではなく、精錬され磨き上げたような澄んだ感じでした。だから、あたしは不思議だったのです。なぜ、あんな場所でそんな魔力を感じるのか…?」


「そうですね、地下牢には似つかわないモノのようですね。それに、もしあの棚にそんな豪華な食器や、魔力を持つ道具があれば目を引きますよね…」

リリウムさまは目を瞑り、棚を思い出そうとしているようだった。


「いま、分かっている情報をまとめましょう」

ティモルさんが紙とペンを用意し、テーブルの上に置く。


「そうね…」

リリウムさまはペンを持ち、確認するように声に出しながら情報を紙に書いていく。


「①イノンドは本国で幼い少女を何人も殺していた可能性がある。②イノンドは話しが出来ない程に狂ってしまった。③地下牢の棚の向こうに小さな魔力を帯びたモノがある… んーあとは…」

リリウムさまが唇にペンを当てながら考えていると


「あ、そういえばイノンドは悪魔って言葉を聞いた途端あばれましたね」

アオイさんが、ポンと手を叩く。


「そうでした!突然、暴れたのでビックリしました」

リリウムさまは、そう言いながら紙にペンを走らせる。


「そういや、イノンドのやつ、リリウムさまが少女を殺したのか?と聞いた時、アニス総督を見て震えてなかったか?」

コーナスさんは腕を組んで、あの時のイノンドを思い出していた。


「確かに… あたしも、なぜイノンドはアニス総督を見て怯えているのだろうって思いました」


「そうだったんですか…」

リリウムさまはペンを走らせる。


「リリウムさま、やはりイノンドは悪魔召喚に関わっていたのではないでしょうか?あと、アニス総督は何か隠してるように感じるのです…」

コーナスさんはアニス総督からも何かを感じとったようだった。


「コーナスさん、それはどういう事ですか?」

リリウムさまはペンを止めて、コーナスさんを見ていた。


「確信があるわけではないのですが。アニス総督に対するイノンドの怯え方が異常に見えたのです。それに、『少女殺害疑惑』や『悪魔』という単語への反応。もし、イノンドが悪魔を召喚したのでしたら、悪魔の力を使い欲望を満たすはずですが、イノンドは気が狂ってしまっています。もしかしたら、イノンドは悪魔召喚をする際に利用されたのではないでしょうか?」

コーナスさんは腕を組み自論を説明していた。


「たしかに… あのイノンドの怯え方は異常でした…」

リリウムさまは目を閉じて考え込み始めていた。


「リリウムさま、あたし、姿を消す事ができます。今夜、地下牢で調べてきます。イノンドの事や、あの壁の向こうの魔力のことも…」


「…ルビアさん、それは非常に危険な行為です。アニス総督を信頼していませんと公言するようなものですし…」


「はい、危険なのは分かっています。でも、そこに悪魔召喚に関する情報がある可能性が、僅かでもあるのでしたら、あたしは調べるべきだと思います」


しばらくの沈黙のあと、

「…わかりました。ルビアさん。絶対に失敗は許されません。それでも調べる自信はありますか?」

と、リリウムさまは真剣な目であたしを見る。


「任せて下さい!」

綿密な作戦や根拠なんて無いが、あたしは満面の笑みでリリウムさまの心に応えた。


「ふぅ… では、ルビアさん今夜、地下牢の調査をお願いします。みなさんは荷物をまとめ、万が一の場合に備えておいてください。最悪、ジギタリス帝国と戦う事になります」


「「はっ!!」」

あたし達は片膝をつき、リリウム女王に頭を下げ作戦を開始した。

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