ウワサと真実
―――(リリウム)―――
時は少し戻る。
ルビアさんがフォセラに助けを求めてきたと、フォセラから報告を受けた。
ルビアさんは取り乱しており、状況がわからないとの事だった。
とにかくルビアさんたちの救出を優先する事を指示し、わたしは屋敷で情報を待つ事にした。
しばらくして、フォセラから連絡が入った。が、それは耳を疑う内容だった。
「悪魔がでた?しかも、その悪魔はマモンと名乗ったですって?」
悪魔マモン…
昔、ウワサを聞いた事がある。グールなどの悪魔との遭遇は稀で、一生出会わない人の方が多い魔界。
しかし大きな災害や争いなどが起きた後、稀に悪魔と遭遇したと言う人が増える事がある。
そんな時、決まって悪魔マモンのウワサも流れるのだ。
とは言うが、わたしは悪魔にも、まして悪魔マモンにも出会った事はない。
情勢が厳しくなり人間達が何かにすがるように、いまの状況の悪さを悪魔のせいにしているのだろう…
わたしはそう思っていた。
「フォセラ、今分かることだけでいいですから教えてください」
フォセラの報告では、コーナスさん達が瀕死でありフォセラのヒールでなんとか命を繋いでいるが、いつ死んでもおかしくない状態である。
ルビアさんはかなり疲労しており、マナもオドも限界に近い。
そしてシオンさんが、悪魔マモンに連れ去られてしまった。
フォセラの報告内容は最悪だった…
(いったい何が起きたというの?)
わたしは悪魔マモンが原因だと直感では理解したが、コーナスさん達の力、そしてあのルビアさんがそんな状態になるなんて信じられなかった。
とにかく悪魔マモンについて調べてみよう。
たしか昔、趣味で集めた書物の中に悪魔について書かれていたものがあったような…
わたしが人と出会った頃、人という生き物を知りたくてたくさんの書物を集めた時期があった。
それは何千年も前の話しなので、その書物は今となっては古書や古文書と呼ばれるような書物となっていた。
ずいぶんと入っていなかった部屋はカビ臭く、ホコリっぽくなっていた。
(マルスめ、掃除サボってたな…)
思わぬ所でマルスのアラを見つける。
とりあえず悪魔に関する本を手当たりしだいに探してみると、『黒魔術 悪魔召喚』と書かれた本を見つけた。
本のホコリを吹き飛ばし、ロウソクの明かりを頼りに本を開いてみる。
「そうだ… 確かコレを読んだとき、あまりにも現実離れした内容だと思い信じなかったんだった」
いまの状況を考えると、この本も読んでみる価値があるかもしれない…
そこには悪魔に関する事と、悪魔を召喚し使役する儀式が詳細に書かれていた。
本を開き最初の文章を読む…
(悪魔とは)
悪魔はこの世に存在するが、この世には存在しない者である。
「はぁ?」
思わず叫び、本を破りそうになる。
「ダメダメ、破っちゃダメ…」
なんとか衝動を抑えて続きを読み続けていると、だんだん分かってきた。
「なるほど… 悪魔は存在するが、存在しない者とはそういう意味なのね…」
でも、それじゃ悪魔マモンとは一体…?
本を読み進めていくと悪魔の召喚について書かれていた。
「な…」
その内容はとんでもない内容だった。
「この条件を揃えられる人なんているのかしら?」
その条件とはあまりにも難しく、普通の人なら諦めてしまう内容だった。
「でも、もしコレが本当で、悪魔マモンが召喚されて使役されているとしたら… いったい誰が?」
わたしはその『条件』を揃えられる人物がいないか考えた。
「あ、アイツなら…」
そして、1人の人物を思い浮かべていた。
しかしあくまでも想像であり、その人物がこの本を知っているとは思えない…
もし知っていたとしても、コレを実行するにはあまりにもリスクが大き過ぎる。
そんな事を『アイツ』がするだろうか?
「分からない事を考えても答えなんて出ない!」
わたしは一度頭を切り替えて、ほかの可能性を探すことにした。
わたしはフォセラが帰ってくるまで、たくさんある古書を読み、悪魔について調べ続けた。
数日後、フォセラ達を乗せた飛行船が到着した。
飛行船からは未だに目を覚さないコーナスさん達と、生気の無い顔をしたルビアさんが降りてきた。
とりあえずティモルに用意させた部屋にコーナスさん達を運ぶよう、屋敷の使用人達に指示する。
「リリウムさま!コーナスさん達の体にはオドが満ちています。しかし、わたしのヒールではそのオドを使ってなんとか命を繋ぐ程度しかできません。大至急ランクが高い白魔導士を呼んで治療する必要があります」
フォセラは叫ぶように報告する。
わたしはコーナスさんやルビアさんの状態から、悪魔マモンは実在し早急に対応する必要があると判断した。
「フォセラ、ゲンゲに連絡をとり白魔導を使える者を連れてくるのです。ティモルは貴族さまに連絡し、大至急ここに集めなさい。マルスはわたしが呼び戻します。ルビアさんは少しやすみなさい。後で状況の説明をお願いします」
各自に指示を出し、マルスを呼び戻すために本来の姿に戻る。
この姿になると、どうしても高圧的になってしまうのがネックだ…
ちょうどそのタイミングでゲンゲがやって来た。ゲンゲはわたしの姿に驚いていたが、今はそんな事よりも悪魔マモンについて調べる事が優先だ。
わたしはマルスとゲンゲを連れて、古書の部屋に戻り悪魔マモンについて調査を進める事にした。




