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100万人目の異世界転生者  作者: わたぼうし
第3章 悪魔編
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食え

あたしは自室に戻りベットに倒れ込んだ。


「ぅ… うぅ…」

ひとりになると、また涙が溢れてくる。

声が外に漏れないように枕に顔を埋め泣いていた。



コンコン


ドアをノックする音で身が覚めた。

「…あ、いつの間にか寝てたのか」


窓から見える景色は、もう真っ暗になっていた。


コンコン

またノックする音がする。


「あ、はい。どうぞ」

ボサボサの頭を手櫛で整えてながら返事をすると、フォセラさんが入ってきた。


「ルビアさん、大丈夫ですか?」

フォセラさんは心配そうにあたしを見ていた。


「はい、知らないうちに寝ちゃってたみたいです」


「かなりお疲れでしたからね… 少しは休めましたか?」


「はい、ありがとうございます。あ、あたしリリウムさまに説明しなきゃいけなかったんだ!」

慌てて体を起こし、身支度を整える。


「大丈夫ですよ。リリウムさまは調べることができたので、今日はルビアさんは休むようにと、言付けを受けてきたところです」

フォセラさんはそう言うと、あたしをベットに座らせ隣に座った。


「ルビアさん、お気持ちはわかります… と、簡単には言えませんが、わたし達に何でも相談してくださいね。わたし達にとってもシオンさんは大切な仲間… いえ、家族なのですから」

そう言いながら、フォセラさんはあたしの涙の跡を指で撫でる。


「……あたし……シオンを助けたい。もう一度、シオンに会って抱きしめたい。もうこれ以上、家族を失いたくない。そんな事ばかりが頭の中をグルグル回るだけで、どうすればいいのか全然思いつかないのです。フォセラさん、あたしどこを探せばいいのですか?何をすればいいのですか?どうしてあたしじゃなくて、シオンが連れていかれたのですか?どうして…あたしは弱いんですか?どうして…あたしは何も出来ないんですか? どうして… あたしは… どうして… どうして…」

ぐちゃぐちゃの感情が溢れ出して、あたしも何を言ってるのかも分からない…


「ルビアさん…」

フォセラさんは、きつくあたしを抱きしめてくれた。

何も言わず、ただただギューーっと抱きしめてくれていた。


それだけであたしの気持ちは落ち着きを取り戻してきた。


「…ごめんなさい。あたし…」


「いいえ、ルビアさんのその気持ちは当たり前のことです。大切な家族が目の前で連れ去られたのですから…」

フォセラさんは涙目になっていた。


「うん…」


「そうそう、ルビアさん。コーナスさん達が目を覚ましましたよ。あと夕食の準備もできています。一緒に食べましょう。しっかり食べて、しっかり寝て、そしてみんなでシオンさんを助ける方法を考えましょう」


「コーナスさん達が!? よかった… 本当によかった…」


あたしはフォセラさんに支えられるように立ち上がり、軽く身支度をし顔を洗ってから食堂に向かった。


食堂にはコーナスさん達がテーブルについて、あたしを待っていてくれた。


「ルビア、起きたか。とりあえずここに座れ。とにかくメシを食うぞ。オレたちに今一番必要な事は食う事だ」

コーナスさんは真剣な顔で睨むように食事を見ている。


「ルビアちゃん、早くいらっしゃい。料理が冷める前にいただきましょう」

ミモザさんが微笑んであたしを見ていた。


「………食え」

アキレアさんはボソっとつぶやくだけなのに、不思議と心に刺さる。


「ルビアちゃん、ぼく… 強くなる。だから、ぼくも食べるよ!ルビアちゃんも食べよう!」

アオイさんは涙目で手が震えていた。


「…うん。みんな、食べよう!いっぱい、いっぱい食べよう!」

あたし達は夢中で食べた。正直、味は分からなかったけど…

でも、みんなと食べればそれは美味しいに決まってるんだから…

だから、シオン… 少しだけ待ってて。必ず助けに行く。そして、またみんなでごはんを食べよう…


あたし達はだれからも話すことなく、ただ目の前にある料理を胃に流し込んでいた。




食事が終わり、テーブルで一息ついていた頃

「ルビア、すまなかった。オレはシオンを守れなかった…」

そう言って、コーナスさんは頭を下げる。


「ルビアちゃん… ごめんね…」

ミモザさん、アキレアさん、アオイさんも頭を下げていた。



「み、みなさん!やめて下さい。シオンを守れなかったのはあたしも同じです。あのマモンと言う男はとてつもない強さでした…」


「あぁ、オレたちは油断してなかった。全力で戦ったが、キズひとつ付けることが出来なかった」


「あれはいったい何者なんでしょうか?」


「わからん… オレ達も初めて聞く名前だ。それに種族も分からない。人…ではなさそうだったが、竜人やエルフなどとも違う…」

あたし達は『マモン』がいったい何者なのか?と話していた時だった。


「アレは悪魔です」

いつの間にか食堂にいたリリウムさまが答えてくれた。リリウムさまはいつもの赤い目と金色の髪の姿に戻っていた。


「え?悪魔…ですか?」

全員がリリウムさまを見る。


「はい、わたしはもう何千年も魔界で生きています。その長い時間の中で、何度かウワサで聞いた事があるのです」


「でも、悪魔ってグールとかガーゴイルとかで、人の言葉は話せなかったはずじゃ?」

あたしが子供の頃、かあさまに教えて貰った悪魔は魔獣と同じように人を襲い食べる恐ろしい怪物で、ゴブリンなどの魔獣と同じように言葉は通じず、力は数倍強いので、もし出会ってしまったら見つかる前に逃げなさいと、耳にタコができるくらい聞かされていたのだ。


「そうですね、それが一般的に言われている悪魔です。しかし、実はグールなど稀に出会う悪魔は、悪魔の中でも最も弱い悪魔で『下位悪魔』とも言われています。今回現れた『マモン』は最も強い『上位悪魔』で、所謂、神さまと同じような存在です」


「神さま!?」

コーナスさんは立ち上がり叫ぶ。


「はい、詳しくは明日、貴族の皆さまの到着を待ってご説明します。ですので、今日はみなさん休んで下さい。明日からまた忙しくなりますので…」

そう言ってリリウムさまは食堂を出て行った。


「か…神さまだと?」

コーナスさんは水を飲もうとするが、手が震えてうまく飲めない。


「コーナス… わたし達は何と戦うの?」

ミモザさんも手が震えていた。


「わからん… だが、ヤツはシオンを連れていった。例え神だとしても、オレはヤツを許さない。必ずシオンを取り戻し、ヤツを倒す」

コーナスさんは手に持ったコップを握り潰し、手にガラスが刺さり血が滴り落ちる。


「そうね、わたしの可愛い妹を連れて行くなんて許さない」

ミモザさんも怒りに震えていた。


「あたし、本当の神さまと話したけど、正直たいしたことなかったよ。神さまだろうが悪魔だろうが、あたしがぶっ飛ばしてやる」

あたしはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「ふはははは、そりゃいい!」

コーナスさんが笑い、他のみんなも笑った。

ただ全員、目は笑っていなかった…



あたし達は決意を新たにし食堂を出て、自室に帰っていった。

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