悪魔と天使
「さぁ、かかってらっしゃい!グール共!!」
振り向いたあたしはグールに囲まれており、上からもグールが飛びかかって来ていた。
あたしはツノを出し、全身に氷を纏う。
グール達は氷の上からあたしを食べようと牙を立て、耳障りな高音の声を上げていた。
「このやろ…」
氷の壁からトゲを出す。それはまるで氷のウニのようなシルエットだった。
ガリガリガリガリ
グールが氷のトゲを噛み砕こうとする音が聞こえる。
「吹っ飛べ!!」
全身に纏った氷を四方に爆散させると、あたしに覆いかぶさっていたグール達は吹き飛ばされ、太く鋭いトゲがグール達を襲った。
何体かのグールは瓦礫にトゲで磔られ身動きが出来なくなっていた。
あたしはそのまま背後に飛び、グールとの距離を取ると全力でファイヤーボールを撃ち込んだ。
ファイヤーボールはグールの近くにある瓦礫に命中した。付近の瓦礫はマグマのように赤く溶けた後、凄まじい勢いで大爆発を起こした。
爆発の中心にいたグール達は一瞬で骨となり、そのまま砕け散る。
中心から外れたグール達は瓦礫と共に、爆風に吹き飛ばされ転がっていた。
しかし、次々とグールが現れあたしに飛びかかってくる。
「ぅあぁぁぁ!!!」
あたしの腕にグールが噛みつくと、そのまま食いちぎられた。
食いちぎった腕を、複数のグールが奪い合いを始めていた。
「くっ…」
あたしは腕にオドを集め腕を治し、新しい腕が現れる。
グール達は剥き出しになったあたしの腕を見て、さらにヨダレを流しだしていた。
「あたしの腕、そんなに美味しいそう?」
グール達はヨダレを垂れ流しながら飛びかかってきた。
あたしは腕に青い炎を纏い飛びかかってくるグールの顔をおもいっきり殴ると、拳が当たった場所からグールに引火し全身を燃やしながら、まわりのグールを巻き込んで吹き飛んでいった。
「うぉらあぁぁぁぁぁあああ!!」
手当たり次第にグールを殴り飛ばすが、グール達は青い炎の上からでも腕に噛み付いてくる。
「ぐぁあああ!」
あたしの青い炎を纏った両腕はグールに食いちぎられ、食いちぎったグールの顔を燃やすと炎は消えてしまった。
炎が消えたあたしの腕を、また複数のグール達は奪い合い始める。
「うぅぅ…」
ツノからどんどんオドを取り込み、腕を治す。
「くそぉ…」
こいつらを一網打尽にするにはメテオストームなどの極大魔導を叩き込むか…
しかし、メテオストームだとあたしも巻き込まれてしまう…
「そうだ!」
まずは… あたしは呪文を唱える。
「ハリケーン!」
あたしを中心に猛烈な風が吹き荒れ、風はやがて巨大なハリケーンに成長した。
ハリケーンはしだいに影響範囲を広げていき、あたしの周りにいたグール達を吹き飛ばしてしまった。
「いまだ!サンダーボルト!!」
上空には無数の雷球が発生し、そこから凄まじい雷鳴を轟かせながら稲妻が降り注いだ。
無数の稲妻はグール達を襲い、直撃を受けたグールは消炭となり、直撃を免れたグールも動かなくなっていた。
「ほほぅ…」
不意に空から声が聞こえる。
声に驚き空を見上げると、背中に黒い羽を広げた男が浮いていた。
男には羊のようなツノがあり怪しく光る赤い目と、同じく赤く長い爪が特徴的だった。
見ると、その腕にはグッタリとしたシオンが小脇に抱えられていた。
「シオン!!!」
「ほぉ、この天使はシオンと言うのか…」
男はシオンを見てニヤリと笑う。
「天使?その子を返して!!」
「ふむ、強い力を感じて見に来たが、お前もなかなか面白い中身をしているな…」
男はジロジロとあたしを見ている。
「な… なんなの?こいつ…」
グールもそうだったが、この男に見られるだけて恐怖を感じてしまう。
「まぁ、しかし、欲張りはダメだな。ふむ、今日はこの天使だけでガマンとするか…」
男はあたしの言葉を無視して、勝手に話しをしている。
「天使ってなによ!その子はシオン!あたしの大切な友達なの!返して!」
「ほぅ?娘、名前はなんという?」
赤い目であたしをジロリと睨む。
「あ… あたしはルビア。魔王マヴロと禁忌の魔女リアリナの娘よ!」
「ほぅ、ルビアか。この天使の事を何も知らないようだな?ひとつだけ教えてやろう。この娘は神から生まれた天使で、本来は我々のように高次元に住う者だ。なぜこんな低次元にいるのかわからんが… まぁ、そんな事は興味ないがな」
男は赤く長い爪でシオンの頬を撫でる。
「シオンに触らないで!」
「お前もなぜそんな中身をしているのか興味はあるが、いま私の手は塞がってしまったからな… 残念だが、今日はこの天使だけを頂くとしよう」
男は「うむ、欲張りはよくないしな…」と勝手に納得して頷いている。
「ヒート・ビーム!」
あたしは右手の人差し指を男に向け、指先に青い炎を集中させビームのように炎を飛ばす。
これは以前、ファイヤーボールで草原を荒地に変えてしまった時にいろいろ試して編み出したオリジナル魔導だ。
人差し指を向ける事で指向性も持たせ、炎を小さく圧縮し火力高めて相手の一点に集中して当てるのだ。
これなら周りにいる仲間を巻き込まなくて済むはず。
ヒート・ビームは男の左肩を貫通し、青い炎で左肩を焼く。
「ほぉ!これはなかなか面白い!」
男は「ふっ」と息を吹き付け青い炎を消してしまった。
「娘、お前はまた今度遊んでやる。私の名はマモン。また会おう」
マモンと名乗った男は背中の羽を羽ばたかせると、あっという間に飛んで消えてしまった。
「シオーーーン!」
あたしの声だけが虚しく響いていた。




