魔界の女
「ルビアちゃん、少しだけお勉強しておきましょうね」
かあさまはニッコリと微笑む。
(あ、やばい。この微笑みは逆らうとキレるやつだ)
「はい!かあさま」
あたしは姿勢を正してかあさまを正面に見る。
「これはあなたにとっても大切な事だから、しっかり覚えるのよ。まずオニについてです。ルビアちゃんも知ってると思うけど、オニは生命力が強く、近接戦に特化したような種族です。だから、普通のオニはオドを取り込む力が他の種族より強いです。ただ、とおさまは、そのオドを取り込む力が尋常じないほど強いの。だから多少のケガは一瞬で治るし、手足が千切れたくらいならすぐに治るの」
かあさまは、ぽっと頬を染めてとおさまを見る。
(ん?なんで頬を染めてるの?)
とりあえずスルーしとこう。たぶん聞いてはいけないヤツだ…
「次に魔女です。魔女は種族としては人ですが、人の中でも特にマナに愛された人が魔女になれるのです。かあさまは、その中でも異常にマナに愛されてしまい、とてつもない程のマナを取り込み、体に蓄える事ができます。だから、かあさまの魔導は桁違いの威力があり、アースクエイクやメテオストームなどの極大魔導を連発する事だってできます」
かあさまは、少し自慢気だった。
「かあさまの魔導はジギタリス帝国の人も恐れていたよ」
「そうでしょう!そうでしょう!禁忌の魔女リアリナの魔導は最強ですからね」
ふふふとかあさまはご機嫌に笑う。
「さて、そんなとおさまとかあさまの娘のルビアちゃんは、その2つの力を持って生まれたのです。今、そのツノを解放した事で、あなたは抑えられていた力を全て使えるようになりました」
「あ、そうか…」
あたしは今頃気がついた。あたしの中にあるとおさまの力と、かあさまの力を全て解放すると言う事は、とてつもない力を手にしてしまった…と、言うこと。
「ルビアちゃん、力を持つ者は、その力に責任も持たなければなりません。あなたがこれから、その力をどう使っていくのか。とおさまも、かあさまもここで見ていますからね」
とおさまも、かあさまも微笑んでいるけど真剣な目をしていた。
「はい、あたし、とおさまとかあさまの自慢の娘になる。だから、安心して見てて」
あたしも真剣な目で応える。
「ふっ、それは当たり前だ。お前はオレの娘だからな」
とおさまは、あはははと豪快に笑っていた。
「ところでルリア、ちょっといい?」
いまだにお腹を押さえて、ヒーヒー言ってる女神ルリアを捕まえる。
「な… なんですか?あ、もしかしてエビの事怒ってるんですか?それはルビアさんの運の問題ですよ!わたしは『運命の女神』なんですから!」
女神ルリアは急に捕まえられてビクビクしている。
この女神、神さまの威厳ないよね…
「確かにエビの事は怒ってる。んー、いや、怒ってた。でも、そのおかげでとおさまと、かあさまの娘に生まれる事ができたし、シオンやコーナスさん、ミモザさん…たくさんの人と生きる事が出来た事には感謝してる」
「え?あ、いや…」
女神ルリアが急にしおらしくなる。
「そうじゃなくて、ありがとう。とおさまと、かあさまに会わせてくれて。また、話しをさせてくれて。ありがとう」
これはあたしの素直な気持ちだ。普通は絶対に会えないし、話しなんてできないのだから…
「ふ… ふふふ。わたしは運命の女神ルリアよ?不可能なんてないわ」
女神ルリアは、どこからか出した椅子の上に立ちあたしを見下ろし、偉そうに笑っていた。
「でね、ルリア。この指輪だけど。また祈ったらとおさまと、かあさまに会えるの?」
これはあたしにとってとても重要な事だった。
何度でも会えるなら最高だし。もし、回数が決まってるなら大切に使わなきゃならない。もしかしたら、これが最後のお別れになる可能性だってある。
「そうですねぇ。ルビアさんが心から祈り、その声がわたしに届いて、その祈りが必要な事だと判断したら会えるかもしれませんね。本来、死者と生者はお互い干渉してはならない存在ですからね」
「それって、ほとんど会えないって言ってるようなものね」
少し寂しく笑う。
わかってた。それが当たり前なのだから…
だから遺された者は、遺志を継ぎ懸命に生きる。そして、次の世代に遺志を繋ぐ。それが、遺されたあたしの役目なんだ…
「ルビアちゃん、もう絶対に会えないわけじゃないわ。とおさまも、かあさまもルビアちゃんが作ってくれたお墓にいるのだから。それに、ルビアちゃんの心の中でずっと生きているのよ。たった10年しか一緒に生きらなかったけど。でも、あなたが生きている限り『魔王マヴロ』と『禁忌の魔女リアリナ』は魔界のどこにでもいるのよ。ルビアちゃんと共にずっと生き続けているのよ」
かあさまは優しく抱きしめてくれた。
「あぁ、オレ達は魔界で最強で最恐の夫婦だったからな。魔界のどこに行っても、オレ達の痕跡に会うことになるだろう」
とおさまは、ポンポンと頭を撫でてくれる。
「そうだね。魔界の人もジギタリス帝国の人も2人を知らないなんて人はいないもんね。ジギタリス帝国の人は知りたくもなかっただろうけどね」
あたしはジギタリス帝国で戦った時の兵士達の顔を思い出していた。
みんな恐れ慄き、その場から逃げ出そうと必死になってた。きっと生き残った兵士達は、夢の中でも恐怖に慄きうなされていることだろう…
あたしは無意識のうちに、悪魔のような笑みを浮かべていた…
「ルビアちゃん、怖い顔してるわよ」
かあさまが、笑いながらあたしの両方のほっぺたをムニムニとひっぱる。
「ははは。ルビア、お前も魔界の女だな」
とおさまは凶悪な顔で笑っていた。
「うへへへへ」
あたしは少し照れて笑う。
(わたし、とんでもない人を転生させちゃった……かも?)
女神ルリアだけが、イヤな汗をかいていた…




