解かれた封印
こんなに泣いて、笑ったのは何年ぶりだろう…
あたしは、とおさまと、かあさまとたくさん話しをした。
旅に出てコーナスさん達に出会ったこと。
ギルドでは近接戦と黒魔導でプラチナランクに認定されたこと。
ヘスちゃんとの戦いや、ジギタリス帝国との戦い。
そして、ルドベキア王国と未来の話し。
とおさまも、かあさまも楽しそうに聴いてくれた。
「ルビアちゃん、本当にすごく頑張ったんだね。魔導だってかあさまと同じくらい使えるし、さすがわたしの娘だわ」
ふふふと、かあさまは笑ってあたしを撫でてくれる。
「生まれてすぐは大変だったのになぁ」
とおさまは腕を組み、うんうんと頷いていた。
「そうね、ルビアちゃんが生まれてすぐの時は、この子は死んでしまうんじゃって怖かったわ」
かあさまも、懐かしそうにしていた。
「そーなの?」
あたしにはそんな記憶がない。生まれる瞬間はなんとなく覚えているけど、そういえば気がついたらベビーベッドで寝てたような?
「そうよ、あなたが生まれてすぐの頃、とおさまとかあさまの体質を受け継いでしまったから大変な事になったの。あなたは大量のマナをどんどん取り込んでしまって、体が耐えきれずに皮膚が裂け、腕が千切れてボロボロになっていったの。でも、それ以上にオドも取り込んでいたから、裂けた皮膚は治り、千切れた腕は再生され続けていたのよ」
「オレも娘を失う恐ろしさを初めて知った。あれほど恐ろしい事はないと、いまでもそう思う」
「え?その割に、とおさまあたしの手足吹き飛ばしていたじゃん」
「ん?それは生えてくるって分かってるからだ。実際生えてくるんだから問題ないだろ?」
「だから、生えてくるって言わないで!治るって言って!」
「同じじゃねーか」
あはははと笑い、まったく聞く耳を持たないとおさま。
「とおさまは、死んでもやっぱりとおさまだわ…」
あたしは、はぁとため息をつき諦めた。
「いつ見ても楽しそうね」
かあさまは、ふふふと笑って見ていた。
「か、かあさま?楽しくないんだからね?」
「あら?そう?」
かあさまは、相変わらずふわっとしていた。やっぱり死んでもかあさまも変わらない。大好きなかあさまのままだ。
「リアリナ、ルビアの封印を外してやれ」
とおさまが突然言い出した。
「あ、そうね。もう、大丈夫そうだしね」
かあさまは、ぽんと手を叩いている。
「封印?」
あたしだけが話しから取り残されていた。
「あぁ、さっき言ったようにルビアの体は破壊と再生を繰り返していた。これを抑えるためにマナとオドを取り込みにくくする必要があったんだ。だから、かあさまがお前に封印をかけたんだ」
「生まれた時はルビアちゃんにもツノがあったのよ。そのツノからマナとオドを取り込んでいたから、かあさまがツノを封印したの」
「そ、そうだったんだ…」
あたしは自分のスキルを見るまでは、オニであることすら知らなかった。というより、ずっと人だと思っていた。
かあさまはゆっくりとあたしの頭に手を当て呪文を唱えた。
あたしの頭とかあさまの手の間で、パリンと何がが割れるような小さな音が聞こえた。
「これで封印は解けたわ。しばらくは体が慣れないかもしれないけど、ルビアちゃんなら大丈夫。かあさまと、とおさまの娘だからね」
ふふふと、かあさまは微笑んでいた。
「うん、あたしは大丈夫」
ここは死後の世界だからか、何も変化は感じられない。
とりあえず、頭を触ってみた。
何か小さな突起物を感じる。
(あ、これがツノ?)
「ルビアさん、鏡見ますか?」
女神ルリアが声をかけてきた。なぜか肩を微妙に振るわせて…
「あ、ありがとう」
女神ルリアが渡してくれた手鏡を覗き込む。
あたしの頭には淡く光る小さなツノが2つ生えていた。ツノは先端に進むにつれて細くなり、その先は直径が2ミリ程度になって後頭部辺りまで伸びていた。
「………これ、ツノ?」
あたしは、コレを何処かで見た事がある。
「ぷぷぷ、ソレがツノですね…」
女神ルリアは笑いを堪えきれずにいる。
「…コレ、ツノと言うより…」
あたしはそれ以上言いたくない…
「ソレ、触覚ですよね?ルビアさん、やっぱりエビなんですね!?」
女神ルリアは、お腹を抱えて大爆笑で床を転げ回っていた。
「んぎゃー!エビちゃうわー!」
あたしのツノの見た目は明らかにエビの触覚だった。
まさか、こんな所でエビが出てくるなんて…
あたしは四つん這いになって凹んでいた。
「ま、まぁ、かあさまも初めはビックリしたけど、コレはコレで可愛いわよ?」
かあさまが慰めてくれる。
「ルビア、男は見た目じゃねえ!」
とおさまは腕を組んで、うんうんと頷いている。
「あたしは女だーーー!」
とおさまにドロップキックを喰らわせる。
「ぶぉ!!ルビア、また威力が上がったな!くそー!生きてたら毎日ケンカできるのに!」
「そんな悔しがり方やめてー!!」
やっぱり、とおさまは死んでもとおさまだった…
「ふふふ、ルビアちゃん。普段はツノは出ていないから大丈夫よ。ルビアちゃんが強い力を必要とした時や、意識を失ったり、命が危険に晒された時は勝手に現れてマナとオドを体に取り込んで命を守ろうとするの。そのツノはあなたの命を守る自衛器官なのよ。だから大切にしなきゃダメよ」
かあさまはあたしの触覚を撫でながら微笑んでいる。
「う… わかった…」
あたしは、まだぷぷぷと笑っている女神ルリアと、悔しがっているとおさまを睨みながら、かあさまの言葉に頷いていた。




