もう迷わない
「あれ?ここは確か…」
あたしは気がついたら、見覚えのある少し暗くて広い部屋に立っていた。
「あたし、確かお墓を作って花を手向けてたんじゃ…」
ここは【かえで】としての最後の記憶の場所。つまり、死後の世界だったはず…
「あたし、死んだの?なんで?」
頭が混乱する。
これから、町のみんなをルドベキア王国に連れて行って、新しい魔界をリリウムさまやみんなと作って…
「なんで?あたしまだまだやりたい事あったのに…」
涙が溢れてくる。
なぜ死んだのかもわからない…
こんな終わり方ってないよ…
周りを見渡すが、あたし以外誰もいない。
と、いうことはシオンとアオイさんは死んでないってことかな?
少しだけホッとした。
「それにしても、なにが起きたんだろう?」
あたしは最後の記憶を思い出そうとするが、お墓に花を手向けていた事以外、なにも思い出せない。
「かえでさん、お久しぶりですね。あ、いまはルビアさんですね」
聞き覚えのある声が聞こえて振り向くと、そこには美しい女性が立っていた。
「あなたは…ルリア… やっぱりあたしは死んだの?」
呆然としたまま女神ルリアを見つめる。
「ルビアさん、あなたは死んでいませんよ」
女神ルリアは微笑んであたしを見ていた。
「え?じゃあ、ここは?」
「ここは、まぁ…死後の世界ですが、今回は死んで来たわけではありません。ルビアさん、あなたは『ルリアの指輪』を着けて心から祈りを捧げましたよね。あなたの祈りに指輪が反応したのです」
「祈り…ですか?」
あたしはピンとこなかった。お墓に手を合わせて、とおさまとかあさまに報告して…
「ルビアさん、あなたが着けている指輪はわたしが作った指輪です。その指輪を着けて、心から祈るとわたしに会えるようにしたのです。そして、わたしはあなたの祈りを聞き、あなたをここに呼んだのです」
女神ルリアはそう言うと、目を伏せて「さぁ、いらっしゃい」とつぶやき、手を広げた。
すると、女神ルリアの前に2人の人影が現れた。
人影はだんだんと色濃くなり、その姿がハッキリと見えるようになった。
「と…とうさま… かあさま…?」
見間違うはずかない。そこに居るのはとおさまとかあさまだ…
「おう、ルビア」
「ルビアちゃん」
2人はいつも見ていた、あの優しい笑顔であたしを見て、名前を呼んでくれた。
「とおさまぁ!! かあさまぁ!!」
あたしは無我夢中で走り、とおさまとかあさまに抱きついていた。
「ルビア、よく生きてくれていた」
とおさまは、乱暴に頭を撫でてくれる。
「ルビアちゃん、いっぱい頑張ったね…」
かあさまは優しく抱きしめてくれた。
「うあああぁぁぁ とおさまぁ かあさまぁぁぁ」
「ルビアちゃん… 」
あたしはどれくらい泣いていたのだろう…
ずっとかあさまは抱きしめてくれていた。
とおさまは、ずっと頭を撫ででくれていた。
「ルビア、お前の帰りを待てくなってしまった。すまない…」
「ううん、とおさま。とおさまはみんなを守る為に立派に戦ったのでしょう?とおさまは、あたしの誇りだよ」
「ふっ、ルビア。ちょっとはマシになったじゃねえか」
とおさまは、ぽんっと頭を叩く。
「あたしも、もう大人の女性だからね。いつまでも子供じゃないのよ」
あたしは、にひひと笑う。
「ルビアちゃん、立派な魔界の女性になって、幸せになるのよ」
かあさまは両手であたしの顔を優しく挟み、少し涙を浮かべて笑っていた。
「かあさま…」
あたしもまた涙が溢れそうになる…
ふと、思った。
ここは女神ルリアの部屋。あたしが元は異世界から来た事や、あたしは元々エビで、かあさまのお腹の中にいた赤ちゃんを奪ってしまった事を知ってるんじゃ…?
あたしは急に怖くなった。もし、知っていたら、あたしは本当はかあさまの子供じゃないと言われるのかも…
「ルビアちゃん、どうしたの?」
急に黙り込んだあたしを、かあさまは心配してくれている。
(どうしよう… あたし…)
怖い… あたしはルビアなの?かえでなの?
「ルビアさん、あなたが怖がっている事をお二人は知っていますよ。それでも、お二人はルビアは自分の子供だと、ルビアさんに会わせて欲しいとここにきたのですよ」
女神ルリアは、あたしの肩を抱き優しく話しかけてくれた。
「とおさま、かあさま…」
「ルビア、お前はオレ達の娘だ。どこから見ても、お前はオレの娘だろう?前世の話なんか関係ねぇ」
とおさまは豪快にあたしの悩みを笑い飛ばしてしまった。
「ルビアちゃん、あなたはわたしがお腹を痛めて産んだのよ。もしあなたをわたしの娘じゃないって言う人がいたら、禁忌の魔女リアリナの極大魔導を叩き込んでやるわ」
「それなら、オレもそいつをぶち殺してやるよ」
2人は大切なものを守るために全力で戦う事に躊躇しない。やっぱりとおさまも、かあさまも魔界の男と女だった。
「あたし、とおさまとかあさまの娘でよかった」
あたしはルビア。
魔王マヴロと禁忌の魔女リアリナの娘。
あたしの誇りは2人の娘である事。
「もう、迷わない」
あたしはかあさまの胸に顔を埋め、もう一度だけ泣かせてもらった。




