マナとオド
返り血で赤黒くなったあたし達は、ミモザさんの魔導『ウォッシュ』でキレイさっぱりしてもらった。
さすがに15歳にもなって、草原の真ん中で裸になって水浴びするわけにもいかないからね…
もう、あたし達は大人の女性なんだから。
あたし達は、オーク達の血の臭いで魔獣が集まってくるかもしれないので、手早く荷物をまとめて移動を再開していた。
「アオイさん、ルビアさまの殺気を受けて、よく生きてましたね」
シオンが突然アオイさんに話しかけていた。
「あ、あたし、アオイさんには殺気当ててないからね!あたし、そんな事しないから!もう!シオンそんな言い方しないでよ」
あたしは慌てて言い訳してしまった。いや、ホントの事だから言い訳でもないんだけど…
「ふ、オレがルビアちゃんの殺気で死ぬ訳ないだろ!」
ふはははははと笑うアオイさんの手は、少し震えているようだった。
「それにしてもルビア、よくアオイの命を助けてくれた。オレからも礼を言う」
先頭を歩くコーナスさんが振り返って声をかけてくれた。
「あ、いえ。当たり前の事です…」
ちょっと気恥ずかしいけど、コーナスさんに褒められるのは嬉しい。
あの時、あたしはマジックミサイルでゴブリン達を攻撃しようかと思っていた。
しかし、アオイさんが近過ぎてマジックミサイルの爆発に巻き込まれてしまうかもしれない。それに、ゴブリンのショートソードがアオイさんに突き立てられるのと、マジックミサイルが着弾するのとでは、ゴブリンのショートソードがアオイさんに刺さる方が早いと思ったのだ。
だからあたしは殺気をぶつけて時間を稼ごうと思ったのだが、思ったよりも効果があったみたいで…
ゴブリンは気絶するし、ホーンドッグは動かなくなるし…
やってみたあたしもビックリな状況になってしまった。まぁ、ちょっとアオイさんにまで影響が出ちゃったのはご愛嬌ってことで許してもらおう。
うんうん。と自分で納得しながら歩いているとアオイさんが、こんな事を聞いてきた。
「ルビアちゃん、魔導ってどうやって使ってるの?ぼく魔導のセンス無くて使えないんだ…」
「え?魔導の使い方ですか?」
改めて聞かれるとよく分からない…
あたしは小さい頃から自然と使っていた。アオイさんの質問は、あたしにとっては『どうやって呼吸してるの?』と同じくらい難しい質問だった。
「うーん…」
あたしが悩んでいると、ミモザさんが助けてくれた。
「アオイさん、魔導に興味あるの?」
「あ、まぁ、使えたらいいなとは思いますが…」
「ふーん。それじゃアオイさんは、マナとオドは知ってる?」
「なんとなく、知ってるような?って感じです」
「なるほど。まず、マナとオドについて説明しなきゃだね」
ミモザさんはすこし得意げな顔になってあたし達に説明してくれた。
「この魔界にはね、マナとオドが満ちているの。マナは魔導の素、オドは生命力の素になるのよ。魔導は自分の体内にあるマナを炎や氷などに具現化しているの。だから体内にあるマナが無くなれば魔導は使えなくなるわ」
ミモザさんは人差し指をクルクルしながら説明してくれる。
「魔導を使ってマナが無くなっても、魔界に満ちたマナを呼吸するように体は吸収しているの。だから、しばらく休憩すれば、また魔導が使えるようになるのよ」
ふふん、とミモザさんは得意気に説明してくれる。
「次にオドだけど。んー、例えばケガをしたとするでしょ?ちゃんと手当てして身体を休めていればケガが治るじゃない?これは体内のオドを使ってケガを治しているの。もちろん体内のオドが無くなれば死んでしまう事になるわ」
「え?それじゃいつかはオドが無くなって、少しのケガでも死んでしまうのですか?」
アオイさんはビックリしたような表情で質問する。
「ふふ、大丈夫よ。ケガをした時、体を休めるでしょ?わたし達の体は食事でオドを取り込んだり、マナと同じように、この魔界に満ちているオドを自然に取り込んでいるの。だから、ケガを治す時はしっかり食べて体を休める事で、オドをケガの治療に回すようにするのよ」
ふふふと口元を隠してミモザさんは笑う。
「なるほど…」
「ここで、白魔導のお話しです。白魔導でケガを治療するんだけど、これは自分のマナを使って周囲のオドを集めて相手の体に注ぎ込んでいるのよ。注ぎ込まれたオドはケガの治療に使われてケガが治るという仕組みなの」
ミモザさんはアオイさんに手を当てながら説明してくれた。
「へぇ、白魔導ってスゴいですね」
「ふふふ、白魔導ってスゴいでしょ?」
ミモザさんは得意気にアオイさんをみていた。
「アオイが白魔導使えたら戦いながらケガを治してって、最強だな!」
コーナスさんは、剣を振りながらヒールを使うマネをして喜んでいた。
「まぁ、ルビアは白魔導使わなくてもガンガンケガが治るんだけどな…」
コーナスは器用に肩を竦めて、はははと笑う。
「え?ルビアちゃん白魔導も使えるの?」
アオイさんは驚いた顔であたしを見る。
「え?あたしは使えないよ。ケガが治るのが、ちょっと人より速いだけ。オニだから?」
あたしは、へへへと笑って誤魔化す。
「ルビアさまぁ、いくらオニでもそこまで速くないですよ。それに、千切れた手足は普通は生えてきません」
シオンが、ぷぷぷと笑う。
「シオン!生えるって言わないで!治るって言って!」
「ははは、確かにルビアのケガの治りは尋常じゃない速さだよな。腕も生えるし…」
コーナスは楽しそうに笑っている。
「もう!コーナスさんまで!」
あたしは頬を膨らませて、ぷいっと横をみるとアオイさんがブツブツ言いながら固まっていた…
「ア、アオイさん!あたし、普通だからね?ちょっとケガの治りが速いだけだからね?」
「え、あ、うん。大丈夫…」
「だ…大丈夫って… なにーーー?」
草原にあたしの叫び声が響いていた…
みなさんのおかけで100話目を書くことができました。ありがとうございました。
100話も書けるなんて自分でもビックリしています。
これからも頑張ります。
よろしくお願いします。




