表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

第1話 スレイブ

世界中の者達に問いたい。

種族とは何でしょうか。ただただ差別などによる憎しみを生ませるだけのものなのでしょうか。

しかし、それは違うと平和で裕福な暮らしをしている現実を知らない方々はそう否定するかもしれません。今の現状では、裏で人々に蔑まれている者達がいるからこそ、優位な位置に立てるものたちがいる。それを差別以外の何と言えるのでしょうか。

そしてもう一度問いたい。


種族とは何でしょうか。



種族とは――――――――――




この誰が見ようと寂れたと言うほか無い素朴な町並みの中、その寂れた町に似合った寒風に吹かれながら彼女は佇んでいた。その彼女の周辺には幾人かの仲間と思しき者達が手に、世の中で言う「物騒な物」を握って何やら深刻な雰囲気となっている。

例えるならば、アクション映画に出てくる派手な演出をする警察官が、犯人の隙を見てつかまえるタイミングを見計らっているといったところだろうか。


「おい美鈴みすず。本当にいくのか?」


一人の男の問いを聞いて、美鈴と呼ばれた彼女は振り返る。

流れるような長い髪をなびかせながら振り返る美鈴は、春に美しく踊るように散り行く桜の花びらのように煌びやかであった。

今にも裂けてしまいそうなぼろぼろな服を着ている彼女だが、どうも他人から見ると顔の整った容姿とその服があまりにも対照的で不自然さを沸き立たせているように見える。


「私達が戦わなければ、この燎原の地獄は一生続くのよ?なら今すぐにでも行動しないと駄目だと私は思ってるの。」


片手に刃物を握りしめてはなつ美鈴の強い言葉に、他の者達も同感するように頷き合う。

そして民家の陰から顔を覗かせている美鈴たちの視線の先には、4、5人ほどの軍人と思しき格好をした者達が数名の美鈴たちと同じようなぼろぼろの服をきたやつれた人々に暴力を加えていた。その栄養不足を物語らせる細い体をしたやつれた人々はいつ死んでしまってもおかしくはないように思えた。精力そのものがすでに無くなっているようにも見えた。


「いい?目的はあの人たちの救出とアースの王国軍兵士のあいつらをここから追い出すこと。こっちの状況が危うくなったり、身の危険を感じたりしたら迷わずに殺して構わないから。」

「あぁ、わかった。」


手に「物騒な物」を命綱のロープかのように握り締めて、彼らは颯爽と勢いをつけて地面を蹴る。一斉に5人で飛び出したのにもかかわらず足音が全て揃っているように聞こえるのは、意志の繋がりが強いことのあらわれだろうか。

不意をつかれた軍人たちは、ようやく背後の5人の特攻に気がつく。


「何だてめぇらは!おい、醜い青い血のスレイブごときが刃物を身につけやがってる。男は撃ち殺して構わん。女は捕まえて売り飛ばす。もしも捕まえて抵抗するようだったら女も殺していいぞ。」


わりと冷静に対応をする軍人たちは、銃を握っていた地面へとむいていた手を正面に向けて、一斉に銃口を轟かせ始める。

轟音が響き渡る。しかし、何かにそれが当たったような鈍い音はすることはなかった。

美鈴たちはあらかじめ銃口の向きから銃弾の飛んでくる軌道を予測してかわしたのだ。そして美鈴たちと軍人たちの間合いが急激に狭まる。美鈴は体を異常なほど低い姿勢にして潜り込むように一人の軍人の懐に飛び込もうとする。その行動をみた軍人は、何やら不敵な笑みを浮かべる。


「馬鹿が!今ならどうやっても銃弾が当たるぞ!」


軍人は片方の手を腰のホルダーにかかっていた銃に手を伸ばし、即座にトリガーを引いて何の躊躇いもなく引き金を引く。

轟音。それとともになぜか風を切るような鋭い金属音も響いた。

美鈴は相手が放った銃弾を、即座に反応してナイフで切り落としたのだ。一刀両断とはまさにこの事だろう。しかし、驚くべき点はそこではなく、女性の体でたってナイフ1本しかも至近距離で、銃弾の衝撃に耐えるということは現実にはありえないことである。だが、美鈴は全くもって銃弾の反動に怯むことはなく、ついに一人の軍人と接触するほどの距離まで近づく。


「ま、待て!俺たちに何かあったらてめぇらどうなるかわかっ―――――――」


そして一閃。それは夜風に誘われて遊びに来た鋭いかまいたちのようだった。

喉元を深々と切りつけられた軍人は、大量の血の雨とともに口から泡と言うメッセージを残して力尽きた。

その血飛沫をあびる美鈴の姿は、どこか絵になりそうな異様な光景であった。

その隙に美鈴の仲間たちは暴力を加えられていた者達の安全を確認しに向かう。

仲間の死を間近に見た他の4人の軍人たちは、自分の死にたいする距離感の短さに気がついたのか、あわてふためいてその場から立ち去ろうと、もつれる足を必死に動かそうとしている。


「おいおいお前らよぉ、まさか自分たちがちょっと不利になっちまったからって、くたばっちまった仲間の仇をとってやらずに逃げるつもりじゃねぇよなぁ?」


唐突に聞こえた男性の声は、軍人たちのすぐ横の建物の陰からあらわれた。その声の主は銃を片手にゆっくりとした足取りで美鈴たちのもとへと向かってきた。

不意な介入者の登場とその男の鋭い目つきに、美鈴たちも思わず足を止める。


「おい、鳥羽高士とばたかと!今までどこに行っていた!貴様がここにすぐ戻っていれば同志が犠牲になることもなかったのだぞ!」


一人の軍人が鳥羽と呼ばれた男に助けを求めながらも、なぜか威張るような口調で鳥羽を怒鳴りつける。

鳥羽はそんな軍人の言葉などに耳もかさず、ゆっくりとゆっくりと美鈴たちのもとへ近づいていく。

鳥羽のあまりの落ち着きように、美鈴たちも思わず身構える。しかし対する鳥羽は身構えるどころか、銃口を地面へと向けたまま無防備にも美鈴たちのほうへ近づいてくる。そのまるで鷹のような鋭い目つきは美鈴を捕らえていた。


「へぇ、お前等がスレイブか。全然俺らとかわんない気がするがねぇ。一体どこの違いで俺とお前らを差別してんだ?やっぱ血の色で決まっちまうのか?」

「あなたは何者?あいつらの仲間なんでしょうけど。だとしたら私達を殺しにきたの?」

「あぁ?こっちの質問に素直に抵抗せずにいい子に答えてくれれば何もお前らに手出しはしねぇ。だがそれは素直に答えてくれたらの話だ。」


もともとの顔つきか、凶悪とも言える笑みを浮かべ、仲間の仇を前に敵意をまるで見せない鳥羽に対して美鈴は妙な違和感を抱いていた。


こいつはさっきの軍人たちの仲間だろうけど、あいつ等とは全然違う何かを感じる。こいつは何だか知らないけど戦っても勝てない気がする。


美鈴の脳裏の第六感がそう警告をしていた。


「私達があなたたちアースなんかの言う事を素直に聞くとでも思ってるわけ?」


美鈴が刃物を片手に構えながら鳥羽に冷たい声で問いかけると、鳥羽は軽く鼻で笑う。


「そりゃそうだろうなぁ!俺らがお前らに対してやっている扱いはもはや働く人形みてぇな感じだからな。いわゆる絶対服従のメイドロボットと接してる気分だ!かといって俺も仲間を一人お前に殺されたんだよ。だから素直に答えない場合は―――――――――無理にでも協力してもらうしかねぇよなぁ!」


鳥羽は握っていた銃を床に放り投げて、口元を緩ませながら素手で構えてみせる。ただでさえハイテンションでなおかつ気味が悪いのに、今の行動を普通の人が見れば、気でも狂ったかと思うだろう。現に美鈴もそう思った一人だった。


こいつは一体なにがしたいの・・・・!?おかしくなった?けど、今を逃したらもう攻めるチャンスはないかもしれない。


「もう一度聞くけどよぉ。お前ら本当に俺らに協力する気はねぇのか?俺はお前らのためを思って聞いているんだぜ?」

「くどいのよ。それに、あなたさえここから抹消してしまえばそれで済むことだものね。」


美鈴がそう言い放ったのと同時に仲間の四人も一気に鳥羽目掛けて攻め込む。


「くそっ、やっぱ駄目なのかよ。しょうがねぇが少し眠ってもらうぞ。」


やたらと音の大きい鳥羽の舌打ちも、美鈴たちの足音によって掻き消される。そして鳥羽は両手を何やら合わせて地面につける。


催眠魔術スリープ・ボレロ!」


地面に手をつけたその鳥羽の指先から何やら雲のような紫色をした煙幕が美鈴たちへと襲いかかる。その煙は痛くもないし痒くも無い。しかし美鈴はこの煙にどのような危険が潜んでいるかを知っていた。

しかし、催眠術だと気がついた時にはもう遅い。それに、知識は持っていたとしても実際に生まれて初めて目の当たりにする魔術など、どう対処すればよいかわかるはずもない。

体中の力が、気力が、少しずつ蒼い空へと吸い込まれていく。まるで自分の命ごと空に吸い込まれていってしまうかのようだった。

美鈴は力が入らずに地面へと体を傾けてしまう。


薄れ行く意識の中、美鈴は空間にただただ手を伸ばし続ける。

こんなところで負けて自分の人生は終わってしまうのだろうか。こんなよくわからない奴によって。復讐も何もできないまま、無残にこの場所で。

何かを求め、光を求め、ひたすらに手を伸ばす。

けれどその光はどんどん遠ざかっていって。闇だけが、近づいてきて。




同時刻、フェデラチア西部の町の民家――――――――――


「それで、今回見つけ出して連れて来てほしい大切な人ってのはどんな奴だ?」

「はい、この写真の右から二番目に写っている女の子です。名前は雨宮美鈴と言います。」


古びれた雰囲気を醸しだしている機械化が進んだフェデラチアでは珍しい木製の家で、部屋の中央のテーブルの椅子に座っている金髪の若い1人の男と、もう1人その男の向かい側の椅子に座っている女性・・・・というよりも少女と思しき者が、部屋の電気もつけずに何やら話し合っていた。

少女は懐から一枚の写真を取りだしてテーブルの上に置いて、その写真に写っているある1人の少女を指差す。


「そういえばお前の名前は未久留みくるとか言ったか?まぁそれで未久留さんよ、こいつが今回の対象ってことはわかったけどよ、なんたってスレイブにいるような奴が大切な人なんだ?」


目つきの鋭い金髪の男は、目の前のいかにも気弱そうな短い茶髪の少女に軽く問いかける。


「美鈴は私がまだもっと小さかった頃に、身体が生まれつき病弱で家にこもりきりだった私に毎日会いに来てくれて、色々と話し相手になってくれてたんです。それである日、美鈴が色々な人たちと協力して、私や他の何人かをこの国フェデラチアまで逃がしてくれたんです。だから、今度は私が美鈴を助けないといけないんです。お願いします!お金はいくらでもお支払いしますので、どうか美鈴を助けてください!」


貧弱そうな未久留の見た目からは想像できないような勢いに、金髪の男は若干驚きで怯んだようだった。一方の未久留の方は、身体は貧弱ながらも、その澄んだ強い瞳で金髪の男を見つめている。この時点で未久留にとって雨宮美鈴という存在が、いかに大切な存在なのかということが、その真剣さから感じ取れる。


「なるほどな。まあ、事情はわかった。けどよ、まだ俺の中で一番不可解なのは、どうして俺にこの依頼を頼んだかってことだ。この俺のような敵国であるアースの気まぐれななんでも屋の俺によ。」


金髪の男は納得できないといったような、腑に落ちない様子で未久留に質問する。しかし、金髪の男の質問以前の問題として、どうやって敵国であるアースのなんでも屋がフェデラチアに入国できたのかが不可解なのだが。

質問された未久留は、一瞬戸惑っているように見えたが、すぐに答えを返す。


「それは・・・・あなたが一番信用できると思ったからです。鷹王栄人たかおうえいとさん。それに・・・何の問題もなく敵国であるこちらの国に来れるような人なんて、そうそういるもんじゃないですから。」


それは鷹王栄人という男の腕を買っていっていることなのだろうか。それはわからないが、自分がなぜか信用されていると聞いた栄人は、意外そうな顔をした後でわりと素直に笑みを浮かべる。しかし、栄人の顔はもともと目つきが鋭く、悪人面ともいえるほどなので、どこか違和感を感じさせざるを得ない様子だった。むしろ悪巧みをしているような顔である。


「そうとまで言われちゃこっちも断れねぇよ。わかった、今から行く支度をする。必ず未久留の言う雨宮美鈴っていう大切な人を連れて来てやる。だから未久留、あんたは安心してここで紅茶でも飲んでのんびりしてな。だが金はしっかりといただくが。」

「あ・・・はい!ありがとうございます!」


栄人が椅子から立ち上がって無駄に響く大きな声を出して言うと、それを聞いた未久留は貧弱そうな顔だったのが嘘のように、喜んで微笑んでいた。それはもう心底嬉しそうに。

栄人は雨宮美鈴の顔がわからないので、先ほど見せてもらった写真をズボンのポケットにしまいこむ。

すると未久留は、はっと何か思い出したかのように声をだして表情を変える。


「あ、でもスレイブの辺りは何かとスレイブの抵抗組織やアースの王国軍兵士が沢山います。鷹王栄人さん1人で大丈夫でしょうか?」


心配そうに未久留は栄人の元気な明るい顔を見る。しかし、少しの間見ているうちに急に未久留は何かに気がついたかのように慌て始める。


「あ、あの、別に鷹王栄人さん1人じゃ頼りないって言っているわけじゃないんですっ!ただ・・・・・・」


急に焦って言い直す未久留を見て、栄人は不覚にも一瞬ながら未久留を可愛いと思ってしまった。栄人は焦る未久留を心配させまいとしているのか、笑いながら答える。


「おいおい、別に気にしてねぇし、そんな抵抗組織さんや王国軍兵士とかは俺1人でどうにかするって。そんな心配そうな顔すんなよ。ちゃんと連れてくるから、あんたは笑ってればいい。そのほうがきっと全然楽だしな。」

「え・・・・?あ、はい!あ、あの、ありがとうございます!鷹王栄人さん。」


見た目が怖い栄人から自分のことを言われたのが意外だったのか、一瞬未久留はきょとんとする。そしてその後に急いで頭を下げる。その頭は直角90℃を超えているのではないかという勢いで下がっていた。


「フルネームじゃ固っくるしいから、気安く栄人でいいぞ。」

「あ、はい。栄人さん―――――――ってあれ?栄人・・・・さん?」


未久留が栄人の名を改めて呼びなおして頭を上げたときには、すでに栄人は家から姿を消していた。未久留はもしかしたらどこかにいるのではいないかと辺りを探し回って見たが、どこにもいなかった。

その風のように颯爽と消えてしまった栄人に対して、未久留は一つの思いを抱いていた。


お金・・・・まだ払ってないんだけど。






 どうも、この小説をかかさせていただいている5人のうちの1人の鷹王と申します。

自分の物語だけちょっと他の人たちとは違った感じの視点で最初はかかさせてもらっています。そして、連合国フェデラチアの外の世界がどのようなものかというのを伝えられたらと思っています。

そこで、設定などを書かせてもらうという事もあり、私の最初の2話までは非常に退屈で重い感じになるかもしれませんが、3話からすぐに明るくなるのでよろししければ是非ソレまでは我慢して読んでやってください。

まぁこんなデコピン一発で一気に弾け飛んでしまいそうな軟弱な奴ですが、もしもよろしければ見やがってください。ではまたの機会に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ