第三話 彼女の初日
「あああぁぁぁぁぁ〜………」
1人、自席に沈む。
あんな第一印象を叩き付けて、友達なんぞできるのだろうか。
少し視線を自席の後ろに向ける。
いまだに四陰が頭から湯気をたてて倒れていた。
まぁこの辺は気にしない。
しかし、四陰を殴り倒す時にとんでもない発言をしたんじゃないか、そう思うと顔の赤みが再び再発する。
ゴッ、と額を机に押し付ける。
少なくとも自分の顔面よりは冷たい。
「いっつつ……。だぁあ!!フロウ、少しは手加減せい!!」
「ウッサイキサマニツギハナイ」
「は、はいぃ!」
殺気入りの台詞で四陰を黙らせる。
四陰はしばらく冷や汗をかきながら突っ立っていたが、やっと無視されてる事に気づき自席に戻って行った。
(うぅ……ついてないなぁ……)
重い溜め息を吐きながら机の横にかけてある鞄に手をかけて立ち上がった。
彼女としては早いとここの空間から脱出して、何かで鬱憤ばらしをしたいところ。
ゆっくり、というかおぼつかない足取りで教室を出る。
後ろを見ると、四陰は他の生徒と楽しげに会話している。
ついでに、女子生徒と。
なんかムッときたフロウリスは、四陰をスルーして帰る事にした。
こうといった意味は深くは無いのだが、極端にムッときただけである。
音をたてて扉を開ける。
扉の外はただっ広い廊下が続いていて、他にも帰る生徒が廊下を歩いている。
音を鳴らして廊下を歩く。
後ろからフロウリスを追いかけてくる人等は居らず、ただ1人、ひたすらに出口を目指した。
靴を履き替えて、外へ出る。
春風が、ぶわっ、と彼女の髪を吹き上げた。背中まで伸びた綺麗な髪は、風に煽られ宙を舞う。
と、
「やっと見付けたよ〜」
「今朝はどーも」
「ちょっと付き合って貰えるー?」
今朝の三人組が現れ、彼女の手首と肩をしっかり掴みかかって来た。
かなりの握力で握られた肩と手首は激しい痛みを発した。
振り払おうと足掻いてもすぐに押さえ付けられる。
「ちょっ………!」
「おとなしくしてよー」
「これからちょっと仕返しさせてもらうから……さっ!!」
ドスッ!!、と鈍い音が鳴り、肺の中の空気が外へ出る。
目を白黒させて体をくの字に曲げる彼女は、鳩尾に拳が食い込んだ事を把握するのに時間がかかった。
直ぐに追撃で後頭部にも衝撃が走り、地面に叩き付けられる。
そして右肩に1人の踵が食い込む。間接に食い込んだ踵はかなりの痛みを生み出す。
「あっ、あああああああああッ!?」
「おいおい、あんま騒がないでよー」
皮肉にも、叫びをあげる彼女を周りの生徒が助ける気配は無い。
ゴキッ、と嫌な音が鳴る。
右肩が外れた音だ。
だが外れた右肩に容赦無く体重がかかる。
「があああああぁぁぁあッ!?」
「さっきの魔術とか使わないのー?」
とてもじゃないが、魔術など使ってられる程集中できる状態じゃない。
力を込めることもできず、ただ叫び続ける。
教師が来たり周りの生徒が助けに来たりする事は無い。
先程、ついてないなぁ、と思ったがここまでくると不幸を越える。
何かもうどうでも良くなった時に、
肩に乗っていた男が視界から消えた。
そして、聞き慣れた豪快な笑いが響く。
「がっはっはぁ!!フロウ、この俺を差し置いて喧嘩をおっ始めるなんてなぁ!!」
(四陰……、けど今がチャンスかな…)
肩の激痛に耐え、何とか立ち上がる。
近くの壁に外れた肩を叩き付け、無理矢理肩をはめなおす。
そして、動く事を確かめた後に沸き上がる激情。
彼女に宿るは鬼神の笑み。
ふつふつと沸き上がる怒り。
「ふふふ………、両腕使えるとなればあんたら如き……」
「がっはっはっ!!さあフロウ、一気に終わらせるぞぉ!!」
彼女の金色の髪が赤く染まる。
火の粉を散らしながらフロウリスは大きく跳躍した。
体の至るところから火を噴射し、脚力とは別の力で跳び上がる。
そのまま空中で縦に回転し始め片足を一人の脳天にぶつける。
着地と同時に倒れ込んだ男の脇腹にかなりの速度で蹴りを入れる。
グルグルと回転して飛んでいく男を無視して、二人目の懐に潜り込み、右足を振り上げる。その勢いのまま一回転する。
サマーソルトキックを叩き込んだ後、空中に飛び上がり鳩尾に拳を叩き込む。
地面に叩き付けられた男は一瞬にして伸びた。
最後の一人は着地した直後に、岩石の様に固く握った拳を顔面に叩き込んで終わった。
不良三人組を蹴散らした後、矛先を四陰に向けた。
右目を黄色に染め、右手に電気を纏わせる。
「終わったなぁ―――――ん?フロウ、その右手の電気をどうする気だ……、っ!?まさか!?よ、よせ!俺が一体何をし――――――んぎゃあああぁぁあぁあっ!?」
「……あー、痛かったなぁ、もう……」
全ての標的を始末した彼女は、体についた埃をパンパンと落とす。
彼女はズキズキと痛む右肩を、もう一度動くか確かめると、バックを拾い上げゆっくりと四陰に近付いた。
微弱だが長期に渡って流れた電流のお陰で、ビクンビクンッ!!と跳ね回っている四陰に満面の笑みで蹴りを入れる。
ぐぼぉっ!?と叫びながらごろごろと転がっていく。その衝撃で痙攣が止まり、頭を擦りながら起き上がる。
「…相変わらず頑丈なやつ……」
「…ったく、俺が何をしたってんだ……」
「あんたが気にする事じゃないよ。さ、帰ろ」
鞄を掴み直し、無理矢理四陰を連れ出す。
ふと、気になって後ろを振り向く。
ふと校舎を見上げると、赤い髪がちらりと見えた。
もし、今のが自分のクラスの奴ならば、クレン=ウェイダ=レイとかいうドワーフしかいない。
確か、物を作るのが好きとかどうとか。
「……ったく、フロウは時々横暴過ぎるわな。肩、大丈夫か?」
「……ん?え、ああ、肩ね。大丈夫、少し痛むぐらいだから」
「外れてたよな、肩。早いとこ冷やさないと腫れるわな」
「……そーだね」
いつの間にか、帰るのを急かす立場が逆転しているのに少しだけ違和感を持ち、寮を目指し歩き始めた。
寮までの足取りはかなり重い。腹部強打、後頭部強打の上に間接を外され尚且そこに追撃をされつづけたからだ。
そもそも彼女は肉体派な体つきでは無いので、自分自身の戦闘方法ですら体に負担がかかるのだが。
そっ、と右肩に手を添えると、軽く腫れてきてるのがわかる。
四陰の言っていた事は正しいみたいで、早いとこ冷やした方がいいみたいだ。
「なぁフロウ。お前、晩飯どーすんだ?」
「あっ……。そーいや考えて無かった…」
「やれやれ…、俺が何か買ってくるから、お前は先に帰ってろ。何か困ったら、美月に聞けばいいから」
「みづき……って?あ、ちょっと四陰っ!みづきって誰!?」
四陰はおかしいぐらいの速さで走っていく。
あっという間に見えなくなった四陰。彼の走り去って行った方を見つめて呆気に取られているフロウリス。
仕方なく、寮に向かって歩き出す。道ははっきり覚えている訳では無いが、うろ覚えの記憶を振り絞り歩き出す。
彼女は痛む肩を軽く押さえ、ゆっくりと重い足を上げる。
正直、食料が売っている場所を知っとかないと今後かなーり不便な事に今更気付いた自分に嫌になる。
それよりも、
(みづき………誰……?)
そればっかりが頭の中を横切る。四陰の軽い知り合いだろうか。
取り合えず、早いとこ帰った方がいいと確信したフロウリスは、少し辛いが軽い急ぎ足で帰る事にした。
が、
「……あ、あれ…?道……どっちだっけ?」
別の事を気にしすぎてただでさえうろ覚えの道を忘れた。
そんなこんなでたっぷり二時間迷った。
足はパンパンになるし肩の痛みは増すし、連合に来てから散々だ。
鍵を使って自室へ入る。
「……ただいま……」
「お邪魔してま〜す」
「うぇっ!?」
返事が無い事を承知で呟いたのだが、まさか返事が来るとは思っていなかったので変な声がでる。
取り合えず、靴を脱いで部屋に入る。確かめないと始まらない。
部屋のドアを開ける。
すると、ヒューマンにしてはわりと剛毛な髪の少女が座っていた。
「………誰?」
「兄さんから聞いてます。フロウさんですよね?」
「兄さん…?ま、まぁ私がフロウリスだけど」
フロウリスが名乗ると、何故か安心した様に少女は微笑んだ。
よく見ると、彼女の膝にはパソコンが乗っている。フロウリスにはパソコン、という存在がわからないが。
「……で、あなたは?」
「あ、はい。私は四陰美月と言います。蒼城の、技術開発科で、三鷹兄さんの妹です」
やんわりと微笑む、四陰美月と名乗る少女。
今更思うが、四陰が言っていたのは彼女―――――自分の妹の事かと思う。
フロウリスはどうやって入ったか、そこまで頭は回らない。
「……四陰に妹っていたんだね。しかもアイツの家族とは思えない程大人しいし」
「あはは………。兄さんは落ち着きが無さすぎるんですよ。私は、物を作る事とかの方が好きですから…」
本当に、あの四陰三鷹の妹には見えない。
フロウリスにも兄がいるが、自分と同じで喧嘩っ早い性格をしている。
似ない兄弟もいるみたいだ。
気になったので美月の膝に乗っかっているパソコンを覗き込む。
ディスプレイに映っているのは大量の計算式と円グラフ。
ぶっちゃけ何がなんだかわからない。
やはり、?が頭の中に溜まり始める。
「……あの、フロウさん。兄さんからあなたが怪我をしていると聞いて来たんですが……」
「あ、忘れた。肩なんだけど、腫れちゃってさ…」
「なら、湿布でいいですね」
どこからか取り出した救急箱から、湿布の袋を取り出す。
肩、見せてください、と言われたので、大人しく服を脱いで肩を見せる。
やたら冷たい感触から痛む肩から広がる。びっくりして少し体が跳ねたが、直ぐに慣れてだんだん気持ち良くなった。
近くにあった自分の服を見つけると、上を脱いだついでに着替え始める。
転んだりしてかなり汚れていたはずなのに、かなり綺麗になっていた。
「…綺麗な金髪ですね」
「ん、そう?」
サラサラとした、背中まで伸びている自分の髪を指で摘まむ。
今までそんな事を言われたこと無かったし、ユミルだと金髪のエルフは多かった。
それに、
「髪の色は自由に変わるからなぁ…」
「え?本当ですか?」
うん、ほら。と言いながら、髪を金から赤、青、緑、白、黒、とドンドン変色させていく。
髪の色が変わる度に、両肘から小さく炎が出たり、氷が出たりしていたが。
「……体の一部を媒体にして詠唱を省くエルフ何て、初めて見ました…」
「そうなの?私の兄もこんなのだった気がするけど」
フロウリスの身内は皆このタイプの魔術を使う。
なのでこの手の魔術はメジャーかと思ったが少ないみたいだ。
初めてわかる事が多く、頭が疲れてくる。
と、
「帰ったぞー!!」
「あ、兄さん」
「やれやれ……いつもうるさい奴」
元気な声が響き渡る。四陰が帰って来た様だ。
彼は大量の食材を抱えていて、こんなに食えるか、と果てしなく思うフロウリスだった。
ずかずかと歩く彼は、食材を床に並べていく。
肉、魚、野菜、果物、レトルト、缶詰め、米………
「ちょっと、多すぎじゃない?」
「多いくらいが丁度良いわな」
「兄さん…料理まったくできない癖に何を根拠に言ってんですか…」
取り合えず、三鷹は料理ができないらしいので、美月とフロウリスで料理をする事に。
ちなみにその間、三鷹はひたすらに腹筋をする様だ。
「1!2!3!4!5!6…」
「早っ」
とんでもない早さでカウントするのが背後から聞こえ、すぐ横で美月が苦笑いしているのが見える。
取り合えず、包丁等の道具は理解できるが、ガスコンロや水道等、そこいらの道具は全く理解できない。
火が欲しいなら火を自ら作り、水が欲しいなら自ら水を作り出す文化だったエルフ文化は、こういう時少し不便だ。
爪を緑色に染め、空を引っ掻く。
小さく細かいカマイタチがまな板の上で起こり、人参が綺麗に加工される。
「美月ちゃん、こんな感じでいい?」
「あ、はい。便利ですね、魔術って」
「慣れないと厳しいけどね」
話ながらも、食材を一つ一つ加工していく。
少し力加減が狂うだけで思った事ができなくなる魔術は、長い訓練をしないとコントロールに苦労する。
彼女からすると、はなから詠唱や儀式など必要としていない魔術なので、力加減を掴みさえすれば簡単なものらしい。
無駄話が続く中、フロウリスの風のカマイタチにより食材が綺麗に切り刻まれていく。
逆に美月はフロウリスが苦手とする科学構造の調理器具で料理を始める。
なんでも、美月の特製の鍋で火を使わず気体を使って科学変化を起こし熱を発生させ、鍋として使うらしい。
下だけじゃなく全体を一気に加熱する為、普通の鍋より遥かに早く済む。
腹へったー!!と居間から声がする。三鷹が痺れを切らしたみたいだ。
すかさずフロウリスは左手の平に氷の塊を作り、右手の拳で三鷹に向かい殴り飛ばす。
あだっ!?と声が聞こえた。
当たったみたいだ。
「何すんだコノヤロ…」
「兄さん、キャラ変わってませんか?」
暗い三鷹を軽く受け流す美月。
これは身内じゃないと中々できない芸当だ、と無理納得するフロウリス。
渋々戻っていくしょんぼり三鷹。
フロウリスは苦笑いでそれを流す。
なんだか三鷹の背中がかなり小さく見えた。
こうしている間にも加熱は終わり、料理は完成した。
この時間が彼女にとってどれだけ幸せだっただろうか。
父には、別の種族は家畜と言われ、母には、孤独で居ることに誇りを持て、と言われ続けた。
それがどうだ?
こんなに楽しいではないか。
やっぱり、親の教育が間違っていたのだ。
兄だって、そう言っていた。
「うん、美味しいっ」
今まで頭の中に抱えていた、孤独という不安が、軽く甘味のあるスープで浄化されていく気分だった。
学校が疲れてたまらないラプター50でございます。正直、クロウナイツの中で唯一携帯でこの小説に参加させて頂いているのですが、いかせん書くのに時間がかかりますな。PCが欲しいところです。さて、新キャラですよ新キャラ。せっかく合作小説なのにまだ他の作者のキャラが名前しか出てないのもあれですが、新キャラ、出したかったんです。ついでに、丁寧語キャラを書きたかったので、思い切って美月の性格をそんなんにしました。最初は、三鷹並みに元気にしようかな、と思ってました。今思うと、あんな口調の女いませんね。では、いつもより長くなってしまったのでこの辺で。また四話でお会いしましょう。




