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第3.5話 自己紹介

「では、適当にその辺から」


担任 宝仙の言葉に促され、次々と簡単に言葉を並べていく生徒たち。


そして、レイの番が来た。

(はぁ、本当にめんどくさいんよ・・・)

心の中でそう思いながら、教卓の前に立った。まとわりついてくる髪の毛を軽くかきあげて、ほかの生徒に視線を向けた。

「クレン=ウェイダ=レイと言うんよ。ドワーフで、趣味は物を作ることなんよ。よろしくんよ」

と軽く言い、また自分の席に戻っていった。シェレンは、その仕草に教室が少しざわついたことに対し、

「ムカツク・・・」

そうつぶやいた。レイには聞こえないように。



次はシェレンの番だ。

「お前の番なんよ」

「うるさいわねぇ。お前って呼ばないで」

「ほら、早く行くんよ」

「うるさい!」

そう言いながら、教卓の前に立ち不機嫌な表情で高々と告げた。

「シェレン・クワイスです。好きなことは、音楽を聴くことと楽器を鳴らすこと。よろしくお願いします」

そう、ぶっきらぼうに伝えると、ずかずかとレイの隣に座った。

「お前、あれでいいんよ?」

「お前って、言わないで!」



うわぁ・・・みんな自己紹介上手だなぁ。慣れてるのかな・・・・。


他の生徒の自己紹介が次々に終わり、自分の言う順番が近づいてきた未久留は硬直しているかのように緊張で身体がいっぱいだった。

未久留はこれまでフェデラチアに来てから話しかけた人などと言うのは、まだ鷹王栄人と一馬だけなようである。人と話すこと自体が不得意であるのに、大勢の人前であいさつをするなど到底無理な話だ。


さっきの女の人綺麗だったな・・・。私もあんな感じになれたらなぁ・・・・。


思考の途中で、余計な考え事をしていることに気がつくと急いで自己紹介でどうするかについて切り替える。


な、何を言えばいいんだろう・・・・。やっぱり自分の趣味とかなのかな・・・・。


そしてクラスでは沈黙が流れていた。誰も教卓の前に立っていなかったからだ。

色々と思考をめぐらせている間に自分の番がきていたことに、未久留は気がついていなかったようだ。

ある程度して未久留もようやくそのクラスの雰囲気の違和感に気がつく。生徒が数名、教師の宝仙音葉がこちらを凝視している。

すると、偶然席が隣だったわりと静かにしていた一馬が、そーっと身体を机から乗り出して未久留の机の方へと近づく。


「おい未久留ー、次お前の番じゃないのか?この沈黙はアレか?あえてそうしているのか?もしかして未久留、お前こういうシラけた空気がたまらず好きとかそういう・・・・――――――――――」

「え?も、もしかして私の番?」


ど、どうしよう・・・・・。


一馬の言葉でクラスの違和感の原因が自分であったことに気がつくと、未久留は顔を湯気がでるほどに真っ赤にする。そして恥ずかしいのか、顔を下向けながら教卓の前へと速い足取りで歩いてくる。


「え、えーと、出席番号32番の未久留・・・です!しゅ、趣味は機械を色々といじったり勉強をしたりすることで、す、好きな食べ物は辛いものです。え、えーと、それで最近はトマトクリームパスタにハバネロを細かく切ったものを沢山入れたものが特にお気に入りです。あ、あの辛さとトマトクリームのまろやかさが何と言うか・・・その・・・―――――――――っ!!」


しまった・・・・!つい色々と喋ってしまった・・・!


余計なことまで口走ってしまったことにようやく気がついた未久留は、再び顔を真っ赤にしてうつむく。


「あ、あの・・・これで終わります!」


自己紹介を急いで終えた未久留は、また速い足取りで席へと戻っていく。

未久留が席に着くと、今度は隣に座っていた一馬が席を立って教卓の前へと行く。


「俺は皆城一馬だ、よろしくな!趣味ってか好きなことは宛てのない冒険をすることと、味噌汁を飲むことだ!味噌汁は一日頑張るためのエネルギー源だ。世界文化遺産にも登録すべきだと思わないか?俺は思うぞ!あと味噌汁のことでよければ何でも聞いてくれていいぞ!ビギナークラスからエキスパートクラスの味噌汁まで全て伝授してやるからな!はい以上!」


言い終わった後一馬は、何かをやり切ったかのような非常に満足気な顔をして席へと戻っていった。しかし、本人はよくても他の人たちには全く意味がわからなかっただろう。


何か一馬らしい自己紹介だったな・・・・。意味がよくわからなかったけど。


いつも通りの一馬を見て、未久留は自分も堂々とああできたらと強く思う。


そんな、二人を見てレイは、悔しいような顔をしながら、


「俺も、あんな風に元気に言えばよかったんなぁ」


と独り言のようにぼやき、


「もう遅いじゃない」


と突っ込みながら、うれしそうに、


(あの、ミクルだっけ?あの人とは気が合いそうね)


とか辛いもの好きのシェレンは考えていた。


「お前、なんだか楽しそうなんな?」


「別に。お前って言わないで」


突っ込みを忘れないシェレンでした。



前の生徒が席を立った。

正直な話、周りの自己紹介を聞くのに熱中し過ぎて、自分は何を話すか全くと言うほど考えて無い。


前の生徒が座る。

結局、考える暇も無く彼女の番が来てしまう。とりあえず立ち上がる。


超短時間で考えた自己紹介は、



「え、えっと………、フ、フロウリス・レイです。さ、最近この付近に引っ越して来ました。わ、わからない事が多いと思いますので、仲良くしてやって下さぃ………」



という有りがち尽くしな自己紹介だった。

凄いスピードで座る。終盤の方は声がかなり小さくなって聞き取りにくい。


さっき自己紹介してた2人組も、中良さそうに騒ぎながら自己紹介をしていたし、テンパって思わず盛り上がっていた娘も居たので、自分の自己紹介が余り適当すぎるのに軽く萎える。


どうすれば印象良くできるのかが不思議だ。

ユミルで自己紹介した事あるのは四陰だけなので、ほとんど初めてする事なのだ。


さっきまでの集中力も直ぐに萎えて消え失せている。

1人で悶々と鬱になっていると、



「お、俺の番かっ」



と後ろから声が飛んでくる。どうやら四陰の番みたいだ。


四陰はズカズカと前に、荒い足音をたてて歩き出す。

既に個性的な事が伝わってくる彼を見て、さらに暗くなるフロウリス。



「よーっし、俺は四陰三鷹だっ!!趣味とか、特に無いわな。作んのめんどくせぇ!!特技は喧嘩!誰でもかかってこいやぁ!!負ける気は無いわな!以上ぉッ!!」



がっはっはっ!!と快活に笑いながら席へ戻る四陰。

それを見てこっちが恥ずかしくなるフロウリス。


気付けばあやつは個性の塊じゃないか、最後に思った事はそれだった。


と、四陰がわざわざフロウリスの席の横を通り、顔を寄せてくる。

何事か、と思い目を合わせると、



「変に緊張しまくってやんのー。バッカでー」



と呟き口笛付きで通り過ぎる。

ビキリ、とフロウリスの中の何かが切れた。


フロウリスは耳まで真っ赤になり立ち上がる。

そして髪まで赤くそまる。


右腕を思いっきり四陰の後頭部に振りかざす。

その時、肘から火を噴射し、かなりの速度で殴りつけた。



「こんのクソがあぁあッ!!」


「がっ、はぁっ!?」



ズガァンッ!!と轟音が鳴り響き、四陰の体が一回転する。


息を荒くし、深呼吸をする。

落ち着いてきて顔と髪の赤みが落ち着いてきたところで、



視線が釘付けだった。



直ぐ様顔を真っ赤に染め直し、笑って誤魔化しながら席に座る。


彼女は心の底からこう思う。


今日は最悪の日だ。



「おお、元気なんよ」


「そうね」


「もっとおとなしいかと、思ってたんな。あの子。フロウリスだっけ?」


「そうね」


「・・・もちっと、反応してくれなんよ」


「そうね」


「・・・」

積極的に話しかけるレイを、軽く受け流しながらシェレンは、


(あの子も、エルフなのね・・・)


とフロウリスを見つめ、少し感傷に浸っていたりした。


「なんか俺、影薄いような気がするんよ。今から、あの喧嘩に混ざって・・・」


「死んでもいいならいけば?」


なんかもうぼろぼろになってしまっている四陰に視線を移し、やれやれと言わんばかりにため息をついた。レイも「ですよねー」と半分、自暴自棄になりそうな自分をこらえながら心で涙を流していた。


「...始めていいか?できるだけ無駄な事はさっさと終わらせたい」

裕翔がすっと席から立ち上がる。

あ、どうぞ、とフロウリスが少し照れくさそうに軽く頭を下げる。やはり視線は気になったようだ。


「鷲沢裕翔という。特技や趣味は特にない。...よろしく」


席に戻ると、北御門がくすくす笑っていた。

「何がおかしい」

「ううん、鷲沢君のことだけじゃないの。みんな緊張してたり、マイペースだったり。面白くて」

「...」


(我ながら、本当に変なヤツに出会ってしまったな)


「あれ、次、私みたいね」

と、北御門は綺麗な足取りで教卓に向かって行った。


「北御門由奈です。趣味は裁縫や料理で、好きな食べ物はモンブランを基本にケーキ類です。よろしくお願いしますね」

そういって、軽く会釈した。


席まで戻ると、裕翔に若干悪態ついた笑いで、

「ということで、今度おごってね」

「...固く断る」

「ケチね」


一通り、はちゃめちゃな自己紹介が終わったところで、今日の授業は終わりとなった。

「―――では、今日は自宅に下校となります。今頃言うようですが、真っ直ぐ帰るように。明日の諸連絡については各自電子パネルを見て下さい。使い方等が分からない生徒は呼んでください」



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