第3話 とりあえず騒いでみよう
早朝に鷹王栄人に依頼をした後、栄人が依頼を果たしてくるまで待っているしかない未久留本人は何をしようか悩んでいた。
およそ徒歩でこのフェデラチア西部からスレイブまで行くだけでも3日は日にちを要する。片道で、しかも向こうに着いてから美鈴を探すところを含めないのにそれだけかかるということは、実際に栄人が帰ってくるのにはおそらく15日は絶対にかかるだろうと未久留は予測していた。それまでの間にただ無事を祈っているだけというのは、いくらなんでも退屈だろう。
未久留は何か暇が潰せそうなものがないか、狭い家の中をうろうろとする。
何かないかな・・・・・・あれ?
未久留は家の中の部屋の片隅に、見慣れない藍色の手提げ鞄が壁によりかかっているのを発見する。未久留はその見慣れない鞄をまじまじと見ているうちに、頭の中のもやもやした煙のようなものが払われたような変な感覚を感じた。何かを思い出したのだ。
あれ、この鞄って・・・・。それに確か今日って・・・・!
嫌な予感がし、そうでないと願いつつもその鞄のそばにあったカレンダーをおそるおそる見る。例えるならば黒○ゲ危機一髪に残り3本くらい残った状態で剣をタルに突き刺す時のようだ。
未久留はカレンダーを見て目を一瞬見開かせる。
学校へ新しく行く日、入学式が行われる4月7日の部分に赤でマルがしてある。そして今日は4月7日・・・・。
嫌な予感は見事に的中。今日は新しい学校、蒼城学園の入学式だった。
どうしよう、急いでいかなきゃ!まだ時間はギリギリ間に合う・・・・あ、そうだった。一馬を迎えに行かなきゃいけないんだった。
幸い時間はまだ間に合うものの準備をしてから、フェデラチアでの唯一の友達である皆城一馬をわざわざ家まで迎えにいかなくてはならないことを思い出す。
あわてふためきながらも未久留はどうにか準備を整えて、持ちなれない鞄を手に急いで外へと出る。
おぼつかない走りで急いで一馬の家に向かう未久留だったが、気持ちでは半分ほどあきらめていた。
遅れちゃったから一馬はたぶん先に行っちゃってるかな・・・・。
それでも一応諦めずに息をあらくしても走り続け、ようやく一馬の家にたどりついた。ざっと未久留の家から一馬の家まで1キロメートルはあるだろうか。
未久留は一馬の家のドアを2回ノックしてから開ける。
ドアを開けると家の中にはのんびりしてたと言わんばかりの長身の若い男が1人、格闘競技でも始めるのかと言うようなポーズを構えて中央の机の前に立っていた。机の上にまだ湯気がでている味噌汁などがでているところから、今から朝食をするところだったと見て取れる。
未久留は一馬がまだ家にいたという安堵感と、何をやっているのかまったくわからないという疑問が入り混じっていた。
「えーと・・・・一馬、何やってるの?」
「ん?おぉ未久留か、よかったー!いやそれがな、俺は快適な食欲そそる美味しい朝ごはんを食べようとしていたわけだ。それでもってそこに、ノックをしてからこちらの返答を待たずにドアを開けて入ってきた奴がいたから、てっきり俺は朝ごはんに何か強い恨みでもある奴が俺の朝ごはんを奪おうとしてきたのかと思ってな!俺はあわてて戦闘モードに入ったわけだ!」
「意味がわからないよ・・・・。それにそんな人いないって。」
朝っぱらから無駄にハイテンションな意味のわからない目の前の一馬に、未久留は呆れるように息をつく。一馬は決してふざけているわけではなく、真面目に言っているだけに頭を悩ませる。
それに、一馬のハイテンションさは未久留は嫌と言うほどわかっているが、それよりも疑問だったのは一馬がまるで今から学校へ行くという感じには見えなかったからだ。そんな素振りの欠片も見出せないようすである。
「えーと・・・・一馬、今日って何の日かわかってる?」
「え、今日?何かあったっけ?あ、もしかしてアレだな!?今日は味噌汁は白味噌じゃなければ駄目な日とかそういうアレなのか!?くそー、不覚だった!味噌汁をこよなく愛する者の一人としてこのような失態をするとは!ここはいっそのこと切腹でもするか・・・・いや、でもそれはサムライさんのすることだしな・・・・――――――――――」
いつまで続くんだろう・・・・・。
未久留は入学式のことを忘れ、延々と味噌汁について何やら語っている一馬の誤解を一刻も早く解かなければと強く思う。そして、自分もさっきまで入学式のことを忘れていたという事は秘密にしておくことにした―――――――――――――
蒼城学園校舎内、C組にて
入学式に遅刻ギリギリの時間に登校して、何とか入学辞退という最悪の事態だけは免れた一馬と未久留は、入学式を終えた後、C組の教室へと入っていった。
ホームルームまでの休み時間中、未久留は色々あって疲れたからか、生まれて初めて入る教室に入ってからはずっと自分の席で居眠りでもしているのかと疑うような姿勢でだらりと身体を休めている。机の横に置いてあった電子パネルには見向きもしない。
何かもう疲れちゃったな・・・・・。
ふと身体を上げて教室を見渡してみると、わりと他の生徒なども知らない人が多いためか、席を立たずに静かにしている生徒も多い。しかし、未久留と同じように学校へ走ってきて疲れているはずの一馬は、教室に興味津々なのか教室じゅうを珍しそうに見てまわっていた。すると、一馬が自分の机に置いてあった小型の電子パネルを手に持って未久留の方へと近づいてきた。
「おぉ、未久留!なんだか疲れて操る人がいないマリオネットみたいになってるぞ。何か大変なことでもあったのか?」
「え?えーと、今日の朝にちょっと色々とね・・・・。」
未久留の返答を聞いても、一馬は自分のことではないかのように、他人事のようにそうかそうかと頷く。色々と日常茶飯事に問題を引き起こしている一馬にとっては、今朝のことなどほんのささいな出来事だということなのだろうか。
すると一馬は、そうだそうだと思い出したように電子パネルを未久留の机の上に置いてみせる。
「なぁこの電子・・・パネラーだっけ?一体何に使うんだ?」
「電子パネルだよ、一馬。これは他の人からと色々な情報交換とかをするのに使うんだよ。じゃあ試しにメニュー画面を見てみようか?」
未久留は電子パネルの電源を入れる。するとメニュー画面の右下の部分にマスコットキャラクターみたいなものであろうと思われる女の人のキャラクターが小さくおじぎをして《こんにちは一馬様》と言っていた。今時はこのようなキャラクターが存在するのが流行りなのだろうか。
一馬はそのキャラクターを見た途端に未久留から電子パネルを奪い取って、しがみつくように電子パネルに顔を近づけて驚いている。
「ど、どうしたんだお譲さん!もしかして俺を呼んでるってことは誰かに閉じ込められて助けを求めているのか?まったく誰が一体こんなことをしたんだ!よし、待っていろお嬢さん。今助け出してやるからな!くそっ、全然開かないぞこの電子パネラー!」
「ま、待って一馬!その子はそこに閉じ込められているんじゃないよ!もともとその電子パネルに組み込まれた機能データなんだよ。」
どうにかして無理やり電子パネルをこじ開けようとしている一馬を、未久留は止めながらあわてて説明する。未久留が必死に止めようとしてきたのに気づき、一馬も一旦その動きを止めて未久留を見やる。
「機能・・・・データ?まぁなんだ、つまりそこにいるお嬢さんは機械にもともと入ってるメモリーってやつで人間じゃないってことなのか!?」
「うん、まぁ・・・そうだよ。」
「おぉ!そうなのか、そんなもんは初めてみたぞ!今時のテクノロジーってやつは進歩してるなぁ!つくったのは誰だ?ベルか?エジソンか?トーマスかー!?」
「い、いや古いよ。それにエジソンとトーマスって同一人物だよ・・・・。」
電子パネルの画面の右下にいた女性が機能データであることを聞いた一馬は、包み隠さずに驚いて一人で盛り上がる。ここまで異常なテンションであると、もしかしたら病気なのではないかと疑ってしまうほどである。これが本物のバカというやつなのだろうか。
「あ、そういえばお嬢さん、あんたの名前はなんていうんだ?ちなみに俺は皆城一馬!そんでもってこいつが未久留で・・・・・―――――――――」
「だ、だからその子は機能データなんだって!こっちからの声は聞こえないよ。それで、まぁ一旦じゃあ電子パネルの電源を切るね。」
未久留は電子パネルの電源をオフにする。すると、画面の右下にいた女性キャラクターが小さくおじぎをしながら《さようなら一馬様》と言っていた。そして数秒たってから画面が消え、女性キャラクターも消えた。非常によくできているなと、機械いじりが趣味である未久留は深々と感心する。
すると、一馬は何に驚いたのか、思わず大きく声をもらし、また電子パネルをしがみつくように持ち、顔を画面へと近づける。
「っておい!こっちの質問に対して一方的に会話を遮断するとは卑怯だぞお嬢さん!もしかして何か悩みでもあるのか!?よし、お兄さんが聞いてやるから戻って来い!俺とあんたならまだやり直せるって!」
「一体何をやり直すの・・・・?」
あ、相変わらず一馬は騒いでるなぁ・・・・。けど、飽きないからまぁ別にいいかな。
未久留は一馬の他の人とはまったく異質な考えに対して、若干呆れ困りながらも、その心の奥底ではあたたかい目で見守っていた。その見守っている未久留は、天に舞う羽衣のように煌びやかで、おだやかであった。
そして未久留は今自分のいる騒がしくも平和な時と、美鈴が今過ごしていると思われる辛く過酷な状況を比較して、自分が限りなく幸せであることを実感し、一刻も早く美鈴がこちらに救出されてくることを心から祈った。
どうも、鷹王です。
特に今回は話すようなことがないのでここで。すいません。
ではまた第4話でお会いすることができましたら、これ以上嬉しいことはありません。




