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8.聖女の力を試されています。

 目指せ立派な聖女!ノット聖女王。

 心持ちも新たに、わたしは日々の勉強に励むことにした。

 ビビの「占い」には確かに動揺したが、「今のわたし」には充分な程度、ということだと思い直すことにしたのだ。

 そもそもお祈りしたくらいで品位が上がるなんて現実的ではないし、ついこの間まで平民の娘だったわたしに、一朝一夕で聖女王どころか聖女に足る振る舞いが身につくわけがない。

 神官の仕事は雑用からのスタートで、実務を知るにはまだまだ先のお話だ。

 駆け出しの聖女候補として相応よりちょっと上くらい、今のわたしのレベルはそんなものだ。

 ステータスなんてゲーム用に極端に割り振ったもの、現実にはないのだから気にしたって仕方がない。気にしたら負けだ。もう気になんて絶対にしないぞ!

 そう強く思い込んで、わたしは目下の懸念を振り払った。

 心配事がなくなれば、あとは聖女教育のための課題をひとつずつこなすだけだ。

 やっぱり、ひとつひとつのことが身に入るのが尋常じゃないくらい早い気はするが、そこは前世の社会人経験に十代の集中力が合わされば無敵というか、はじめから要領よく効率的に勉強する術を持っているのだから当然なのだろう。


「明日から、模擬の魔獣討伐をはじめていただきます」

 毎日の聖女講座の終わりに、コーリング女史が告げた。

「模擬、ですか?」

「本来、聖都では魔獣がほとんど発生することはありません。外つ国からの要請や、冒険者からの依頼に応じて、討伐に同行するのが勤めとなります。

 ですが、いくら鍛錬を積んでいるとは言え、いきなり聖都の外に、魔獣討伐に同行させるとういわけにもいきません。

 ディアナ・ブランシュ、そもそも魔獣とは如何なる存在ですか?」

 白髪の老神官は、今日も顔が厳めしい。

 銀縁の眼鏡の奥はニコリともせず、日常会話にも常に聖女教育の一環となる問答が含まれる。

 もちろん、優等生を自覚するわたしに死角はないけれど。

「女神の力の負の余剰があふれ出し、ヒトの不安を模った姿に変化したものです」

「そのとおり。そのほとんどが獣や異形の姿を取り、人々の生活を脅かします。触れれば皮膚の爛れや腐食の呪いがかかり、土地の精霊を衰弱させてしまう」

 女神エル=ディル=マーレの眷属として、大地にはあらゆる精霊が宿っている。

 人間の暮らしを手伝う、よき隣人としてその力を貸してくれているが、その精霊の力が弱くなれば、その土地は死んでしまう。

 魔獣は、その精霊の力を奪い、人間にも仇なす存在だ。

「聖都は女神の加護が強く、畢竟、強い精霊に守られています。

 聖都に魔獣が発生しないのは、元となる負の力、淀みが強くなる前に、光輝の力に霧散してしまうためです。

 これがどういうことかわかりますか?」

「聖都にも、淀みは発生する、ということですか」

「たいへん結構。

 聖都にも、淀みは現れる。

 貴女にはそれが消える前に見つけ出し、祓うことからはじめてもらいます」

 コーリング女史の言う模擬とは、言葉から想像したものとはまったく違うようだ。

「見つけるところから、ですか?」

 範囲の広さに、思わず聞き返してしまう。

「些細な淀みから禍いを察知する力も、聖女には

求められますよ」

 この広大な敷地に溢れる強い光輝の力から、僅かな淀みを探り祓う、これはなかなかの難題を課されたような気がする。

 こんな時ばかり、コーリング女史の目がイキイキとしてくる。鍛えがいのある生徒への、熱意のこもった眼差しだ。

「ノルマはあるのでしょうか」

「これは訓練の一環ですから、出来るなら出来るだけ」

 当選確実の次期聖女として、強い力と類稀な能力を発揮するのを期待している目。

「まあ、これは歴代の聖女様方にもなかなか不評な課題でしたから、貴女はどれほど出来るでしょうか」

 その期待に応えると、笑わない女傑の貴重な微笑みが見られる。

 例え報酬がたったそれだけでも、コーリング女史の言葉に「やってやるよ」と沸き立ってしまうのは前世の営業職の性だろうか。

 それとも難易度の高いクエストをすべてこなしたいゲーマー根性か。

「ご期待に添えるよう努めます」

 脈々と根付いている負けず嫌いな魂がどちらのものだとしても、新たな課題に奮起しているわたしの様子を、コーリング女史が頼もしそうに見つめていた。


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