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4.当面の目標を決めました。

「と、言ってもなあ……」

 神殿内で、自分に当てがわれた部屋へ案内され、ようやく人心地がついた頃。

 わたしの頭は未だに状況の整理に励んでいた。

 コーリング女史には高く評価されてしまったような気がするが、正直、まだ実感が湧いていないのだ。

 急に思い出してしまった前世の記憶と、これから自分の身に起こること。

 もう全部が全部、受け止めるには大き過ぎて、まだわたしの心の真ん中にまでは届いていないというのが現状だ。

「乙女ゲーのヒロインに転生ヤッター!にならないこの感じ……そもそも推しゲーではあるけれど、推しキャラもいるけれど、いや待て待て推しキャラが現実にいるとか認められない二次元でいい三次元はイヤだ無理つらい……」


ーーーー呪われろ呪われろ呪われろ!


 思い出してしまった前世の記憶。

 その中でも殊更に強いこの感情。

 死に際の、いちばん鮮烈な思念は、怨嗟だ。

 悔しい、恨めしい、許さない!

 あの日、私は駅のホームから突き落とされた。

 特急の通過する直前、背後から近付いて来ていたあの男は、

「お前さえいなければ……!!」

 そう叫んで、私を突き飛ばしたのだ。

 驚いて咄嗟に振り返ったが、追い詰められた男の狂った笑みに自分の運命を悟ってしまった。

(クソ野郎…!!呪われろ……!!!!)

 足がホームから離れ、落ちていく自分に真っ直ぐに向かってくる光が、体を打ちつける強い衝撃になって意識が飛んで、そうして、あの時祭壇で目を覚ましたような気持ちだった。

 あんな男呪われればいい。

 思い出した記憶に引きずられて、強い気持ちで念じてしまう。

 簡単に死ぬなんてつまらない終わり方は許さない。

 あの男は、就職した会社の同期だ。

 大手通信会社で、お互い営業に配属された。

 営業なんて男社会で、女性というだけで見下されることも多かった。

 雑用、上司の添え物、ホステス役、腹の立つことにこちらはそういう仕事ばかりを振られるのに、あの男は入社時から期待のエースで、良い仕事を回してもらっていたように思う。

 それでも文句も言わず、歯を食いしばってコツコツと仕事をした結果、私も少しずつ実績を上げられるようになった。

 それまでの間は、おそらくあの男ともそれなりに友好関係を築けていたと思う。

 そもそもそれまでのことで男性への心証がマイナスからはじまるようになっていた私にとっては、女性にモテて、仕事もできるような男が人格者であるはずがないという先入観があったため、それなり止まりの信頼しかおいてはいなかったのだが、上部だけは同僚として立てておけばいいくらいの扱い方をしていたのだ。

 それがおかしくなりはじめたのは、私が大口の契約を取ったあたりの頃だ。

 それまでなかなか首を縦に振らない担当者だったのを、私は自力で口説き落とした。粘り勝ちしたとも言える。これくらいできなくては男社会で生きていけないという意地もあった。

 こちとら結婚も出産もすでに諦め、自分で老後の分まで稼いでやろうという気概で働いているのだ。その頃にはセクハラにも毅然と対処する術を身につけ、鋼のメンタルとさえ噂されるようになっていた。

 この大口の契約は、あの男も手を焼き、結局諦めて手放した案件でもあった。

 それを私が取ってきたとあれば、内心、面白くなかったのだろう。

 すごいじゃないかと手放しで称えた裏では、「枕で取った」だの、醜い妬みの悪口を盛んに振り撒いていたらしい。

 そんなものは、想定内だ。

 やはり馬脚を現したかと内心で見限っていたのだが、あの男は何を思ったか、こちらを潰すことに決めたらしい。

 表面上は取り繕いながら、私の足を激しく引っ張る心算に、こちらは早々に気がついていたので淡々と対処していった。

 それはもう呆れるくらいのしつこさで、やがては自分の仕事が疎かになるまで、あの男は嫌がらせを続けてきた。

 それらひとつひとつの証拠を私が丁寧に集めているとも知らずに、最終的には、その証拠をもって会社に訴え出て、あの男は会社を去ることになった。

 それまで順風満帆、会社の取締役のご令嬢との婚約まで決まり、出世間違いナシのエリート街道を邁進していた男の凋落。

 めちゃくちゃ面白い見世物だった。

 その頃には鋼どころかダイヤモンドの硬度を誇る私のメンタルだったが、男性への不信感はこれ以上ない程に深まっていた。

 挙げ句、逆恨みとも言えるオチに、取り戻しようのないところまで男性不信は陥った。

イマココ。時系列で言うところの現状は、これ以上落ちようがないところなのに、現実は非情だ。

 好きだったものまで嫌いになるような展開。

 男性は、二次元だけでいい。

 余計なことはひとつも言わない。

 設定どおりの、シナリオどおりの思考と感情しか持ち得ないなら、こちらを傷つけることはない。

 それが、現実になってしまったら、彼らは予定調和のシナリオから逸脱し、余計なことをするに違いない。

(そんなの許せない……!)

 好きだったからこそ、そんなもの認められない。

 会いたくない。知りたくない。

 けれどわたしが聖女になるかぎり、きっと乙女ゲームのシナリオがはじまった後は必然に。

 恋愛なんてきっとはじめられない。

 わたしはまた失望することになる。

 そして最後には世界を守るために永い眠りにつくのだ。

 その終わりは避けられないのか、そう頭を抱えたところで、

「ノーマルエンド……、そうだ、それだっ」

 ふと、思い出したのはゲームの一周目。

 まだ要領を掴めず攻略キャラの好感度を上げきらず、聖女王になるまでのステータスにも足らず、ただ聖女になって、女性騎士に囲まれて終わるエンドがあった。

 なんなら女性騎士たちは、前世の男子禁制の劇団のような様相で、通称「タ◯ラ◯カエンド」と呼ばれていたノーマルエンド。

「これしかない……!!」

 一筋見つけた光明に、わたしは縋るような気持ちで今後の身の振り方を決めたのだった。



思ったより導入部分が長くてラブコメの様相にならないので、もうそろそろ攻略キャラを出したいです。

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