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1.今世では諦めました。

初投稿です。よろしくお願いします。


(呪われろ呪われろ呪われろ!)


 落ちていく間に、自分を突き飛ばした男の昏い笑みと視線があった。

 驚愕と、絶望と、言葉に出来ない呪詛______

 全部圧し潰す勢いでプラットフォームには煌々としたヘッドライトの特急列車が滑り込んできた_______


***


 一人目をどこから数え始めればいいのか。

 私が小学校に上がる前に女を作って、母と姉と私を捨てて出て行った父親だろうか。

 それとも、両親の破綻した結婚生活を目の当たりにして、自分はそうならないと決意した姉が捕まえた誠実そうな男が、とんだ束縛の重い、果てはモラハラめくような男だったことだろうか。

 自分だけで数えてみても思い出すだけでひどい有様だった。

 はじめて付き合ったのは高校三年の終わり。受験のために辞めたアルバイト先の、大学生の先輩に久々に会って、なんとなく付き合うことにった。そんなに親しくはしていなかったけど、女子校に通っていた私には数少ない身近な男性だったし、見た目もそこそこ爽やかな好青年。最初はメールや電話で話したりして、そのうちにちゃんと好きが伴うようになるんだろうと思っていた矢先、付き合いはじめたのがなんとなくだったように、終わりも呆気なくきた。高校卒業と同時にその関係は解消された。二ヶ月もない期間。

 曰く、「女子校の子と付き合ってみたかったんだけど、思ったより普通だったし、もう卒業したら女子高生じゃないよね」というクソみたいな理由で。

 ヘラヘラ笑って言われて、

「別にこっちも大して好きでもないんで、かまいませんよ」

 と真顔で返した。暗に期待していたのとはお互いに違ったんだろうという円満な別離、にしたはずなのに、後でめちゃくちゃ悪口を言いふらされていると元アルバイト先の友達に聞かされた。つまらない、可愛げがない、このあたりは許容できる。だけどその先が最低だ。たった二ヶ月足らずの清い交際にも関わらず、ありもしない性行為について下手だのなんだの吹聴していたというのだ。さらに聞いたところによると、私の他にも付き合っていた「女子高生」が何人もいて、そちらはそちらで友達に貸してあげたり、そういう撮影をして喜んでいたという。なんというクソ男。実害はほとんどなかったにしても、一発殴ればよかった。これが一人目。

 二人目。大学で出会った同級生。顔も普通だし、性格も温厚。告白されて付き合ったけれど、一年もすればしっかり情も信頼も湧くというもの。それがどうしたことか。

 なぜ、お前は、私の親友と浮気をしてるんだ。

 その親友というのも大学に入ってからできた友達だったが、話も合うし、ケンカなんてしたこともなかった。そういえば、彼を紹介してくれたのがその女友だちだったな。だから彼とのことをいろいろ相談に乗ってもらったり、三人でご飯を食べに行ったり、遊びに行ったり、旅行したり、……おやおや?回想の様子がどうもおかしいな。

 なるべくしてなったということか、そもそも彼は、本当は彼女のことが好きだったんだとか。

 この一年とはいったい。

 その女も女で、人のものになってはじめて彼が好きだと気づいた、と。

 え、浮気じゃない。本気。本気のやつ。私が外野。もう好きにすればいい。部屋にある彼のものをすべて捨て、私のものも捨てさせた。もちろんその後にはなんの情も残らない。

「彼とのこと、相談にのってほしいの」

 と女友だちの顔をしたアクマが言ってきたが、真顔で存在自体スルーした。

 この辺りからもう、たぶん予感はあった。自分の男運のなさの。それでもまだ、こういうことはよくある話なのだろうと、自分を納得させていた。

 三人目。大学で始めたバイト先の社員さん。よくあるチェーン店のカフェで、二十代半ばの雇われ店長。店長といえど中間管理職って感じで大変そうなのに、丁寧に仕事を教えてくれて、親切で優しい彼は二人目のときの愚痴なんかもよく聞いてくれていた。その流れもあって、二人目のことで落ち込んでいたのを慰めてもらって、だんだんと……と、まあここまでもよくある話。

 様子がおかしくなってきたのは、付き合いだして半年くらい。連絡が付きにくくなった。返信はくれても素っ気ないとか、めちゃくちゃ遅いとか。仕事が忙しいからと言われれば、ただのアルバイトは黙るしかできない。不信感を持ちはじめたある日、その理由は、呆気なくもたらされた。

「子供生まれたんだって?」

 カフェのエリアマネージャー、つまり三人目の彼の上司がお店に見回りに来るなり、彼にそう言ったのだ。

 お子さん。なるほど。

「結婚してもう二年くらいだったか?」

 結婚。なるほど。そりゃそうだ。お子さんだもの。

「ええ、おかげさまで」

 私がその話を聞いているのはもちろんわかっていただろう彼は、なんの焦りもなくニコニコと照れたように笑いながら上司との歓談を済ませたのだった。

 そしてその後、

「言ってなかったっけ?」

 なるほど。常套句。

 よくあるよくある。ドラマで見たことある。ドラマと言ってもお昼時ワイドショーの再現ドラマ。まさか我が身に起こるとは。

 ここで食い下がって「二番目でもいいの!」と言えるような可愛げはない。あっという間に下がっていく好意のメーターを脳内で冷静に眺め、

「知っててオレと付き合ってたんだろ?」

 とまだ関係を続けること前提みたいに話してくる男の顔をへのへのもへじにする方法を考えていた。

 その日をもってバイトは辞めた。面倒ゴトは避けたい。奥さんが乗り込んできたらどうする。再現ドラマの見過ぎだろうか。

 突然辞めた私のことは、言いたい放題していたらしい。どうも勘違いさせちゃったみたいで、告白されて丁寧にお断りしたんだけどけっこうしつこくされてて云々。××ばいいのに。

 ここまで立て続けにハズレをひくと、もう自分の男運のなさを自覚するしかなかった。自分の人を見る目も信じられなくなる。

 これはもう潔く今世での結婚、出産を諦めたほうが平穏無事に生きていけるかもしれない。

 そう悟りを開いたわたしの慰めは、いわゆる二次元になった。もともとジャンル問わず本は読んでいたから、そちらの道も自ずと開けた。

 乙女ゲームはいい。

 二心がないとわかり切った誠実な男性が、自分だけに心を注いで甘やかな言葉をくれる。

 シナリオどおりの予定調和。好きになったキャラは余計なことはひとつも言わないし、こちらを裏切らない。

 多少の意地悪、ツンはあっても、すぐに幸せでくすぐったい「イベント」だけが起こる。

 ヒロインに都合のいい展開と、優しい世界。

 彼らは画面以上にこちらに近づかないから、こちらを傷つけない。

 もちろんなかなかハードな内容のゲームも中にはあったが、私にはそういうややこしい性癖はないので、所謂王道、でもできればゲーム要素のあるものを好んだ。ノベルゲームだと選択肢だけ決めて後は読んでるだけなので、よほどのシナリオじゃないと飽きてしまって入り込めないのだ。

 三次元の憂さを晴らすように、私は二次元にのめり込んだ。大学卒業までは、新しく見つけたバイトで稼いだお金を、乙女ゲームを買ってプレイするために注いでこれまでの傷を癒やしていたのだ。


 _______そんな私も就職し、ついに決定的な出来事を起こす四人目と出会ってしまった。



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