レイとメーさん
PVが…2000超えてる…ブクマも…増えてる?
冒険者ギルドに帰って来た。しかし、何故か施設内には同業者は一人もおらず、職員ロビーで待ちくたびれたとでも言いたげにお茶を啜るカンナがいるだけだった。疑問に思いカンナに尋ねてみると、
「今日は臨時休業にして他の人達には出払って貰ったわ。だから、その女の子の事と……まあ冒険者三人はどうでも良いわ。全部話して貰うからね」
そう言う事らしい。
ニムと冒険者三人組の扱いに差があるが、仕方ない事と思うことにして俺はカンナの向かい側に座る。ニムも俺の隣に座るが、椅子の座り心地が良くなかったのか少し浅く座り直した。
「じゃあ、何処から聞こうかしら…まず、その子は?」
「この子はニム。昨日話した俺が助けたドラゴンだ。中々良いネーミングセンスいいでしょ?」
「はっ?」
この「はっ?」はどれに対するものだろうか。ニムがドラゴンという事か、それとも俺のネーミングセンスか。仮に後者だったら俺は泣く。
「で、何処から攫って来たの? 偶に変な事するとは思ってたけど、まさか人攫いまでするとは……」
「待ってカンナ、変な罪押し付けないで……。本当にニムはドラゴンなんだってば。だよな? ニム」
「はい! レイさんの言う通りです! 火も吐けますし、空も飛べます!」
「……そう」
カンナは一応返事はしたが、その顔は十中八九信じていないものだった。
「まあ、今はそう言う事にしときましょう……。えっと、ニムちゃんだったかしら? 貴方は何処から来たの?」
「ずっと遠い所です。住処が襲われたので逃げて来ました。それで、怪我していたところをレイさんに助けて頂いて」
「そうだったの……ごめんなさい、辛い事を思い出させてしまって……」
「いえ、気にしないで下さい!」
元気よく返事を返すニムだったが、カンナは申し訳なさそうにしていた。
「もしかして……レイと同じ服装なのも……」
「服は持っていなかったのでレイさんから借りました。服って暖かいですよね!」
「ニムちゃん……」
カンナから涙が溢れそうになっていた。多分ニムが酷い家庭環境で育った子だと勘違いしているのだろう。
「そうだったのね……さぞかし辛かったでしょうに……。困った事があったら何でも言ってね?」
「ありがとうございます!」
ニムが元気の良い笑顔を返すと、堪えきれなくなかったのかハンカチで目元を抑え始めた。もう俺が修正を入れても無駄そうなので放置しとこうと思う。
「あ、良かったらお菓子食べる? クッキーぐらいしか出せないけど」
「おかし? くっきー? 何ですかそれ?」
「それも知らないのね……。クッキーっていうのは食べ物の事でね」
「食べ物ですか!?」
クッキーが食べ物と知った途端、ニムが興奮気味になりながらお腹を鳴らした。その音を聞いた途端、カンナは何処かに飛んで行く。きっと酒場スペースの厨房にある菓子類を取りに行ったのだろう。
「レイさん。レイさんの浮気相手、結構良い人ですね」
「ニム、ずっと言おうと思ってたけど、カンナとは幼馴染なだけだからな?」
「おさななじみ?」
どうやら、ドラゴンの間では幼馴染と言う概念はないようだ。
「幼馴染って言うのは昔から一緒にいる友達の事だよ。と言っても、俺は最初カンナの家に住んでたから、もう家族みたいなものになってるけどね」
「へえ……そうなんですか」
「五歳ぐらいの頃だったかな……俺がこの町に来たのは。初めて入った建物が偶然ここで、その時にカンナと出会ったんだ。それで、そのままカンナの両親が俺を引き取ってくれて」
「良い人達ですね」
「ああ、とっても良い人だよ。カンナもカンナの両親も」
言葉については親友が話していたので分かったが、文字と文化はさっぱり分からなかった。そこから始まり、数年かけて必死に勉強して文字と文化を学んだのだ。
「まあ、今の俺が居るのはカンナ達のおかげだよ。それが無かったら、きっと今でも何処かで野生児として生きていたと思う」
「……つまり、私とレイさんが出会えたのもカンナさんのおかげ、ですか?」
「そうなるね」
「な、なんて素晴らしい御方でしょうか!」
ニムの中でカンナの株が爆上がりしていた。
「カンナ様も、その御両親も……メー様と同じくらい尊敬します……。それと、今更ですがレイさんの御両親にもご挨拶を……」
俺の親はメーさんなのだが……と思ったところで、ニムが俺の本当の両親に会おうとしている事を察した。だが、残念ながら俺の両親は……
「一体何処で何してんのかな……」
行方不明である。
俺を捨てたのか、それとも俺が攫われたりしたのか、俺が物心ついた時には既にメーさんが隣にいて、周囲は樹木が生い茂る大森林だった。
ニムは俺の様子で何かを察したのか、両親関連の話はやめた。
「俺の親はメーさんだけだ。少なくとも俺はそう思ってる。だから、あんま気にすんな」
「その……寂しくなかったんですか? メー様の言葉はレイさんには分からない訳ですし……話相手がいないって辛いと思うのですが……」
「俺の友達に言葉が話せる人がいたから寂しくなかったかな。それに、生活の仕方はメーさんを見て見様見真似でやってたし、言葉が無くても何となくメーさんが何を言いたいのか分かってたから特に思う事はないかな」
メーさんは喋れない。けれど、その代わり体を揺らしてジェスチャーで懸命に表現しようとしてくれるので、今はそれだけで何を言いたいのか理解が出来る。
ニムは何故か最初から理解出来ていたが。
「ニムはモンスター同士だからメーさんの言ってる事がわかるの?」
「はい、私達は頭の中で言葉を浮かべればそれで会話出来るので。ただ、メー様の様にしっかりと話が出来るモンスターは少ないです。洞窟で会ったあの蜘蛛もかなりカタコトでしたし。そもそも、意思疎通出来るメタルスライムって言うのを私は初めて見ました」
どうやらモンスター界から見るとメーさんは変わり者に部類させるらしい。防御力がやけに高いなとは思っていたけど、まさかレア種だったとは。
メーさんの謎は深まっていく。
「そっかー、メーさんは特別だったか。だから俺のスキルも通じるのかな……」
「レイさんのスキルですか」
何となく呟いて見ただけだったが、ニムが興味を示した。
スキルなんて人間には最低一個は備わっているものだが、ニムには珍しい物なのだろうか。
「私、気になります!」
ニムの瞳はキラキラしていた。かなり興味があるらしい。
「まあ、俺も自分のスキルについてはよく分かってないんだよね……」
「そうなんですか?」
「うん。名前が『憑依』って言うのと、相手の力を借りれる事ぐらいしかね。発動条件も効果対象もさっぱり分からない。メーさん以外に発動した事はないし、一体限定なのかな?」
「なら、私がメーさんに聞いて見ましょうか?」
ニムの一言により、俺の体に雷が落ちた。
「その手があったか……」
何故もっと早く気づかなかったのだろう。
ニムがいれば、スキルの事から俺が赤子の時に何をしていたかまで丸分かりではないか。
「ニム、お願い出来るか?」
「わかりました!」
俺がお願いすると、ニムはメーさんとの意思疎通を開始する。
いつも通りメーさんが上下左右に揺れると、ニムは「ふむふむ」と頷く。今回は長話だったのか、メーさんは過去最長に揺れており、動きも激しかった。
そして、しばらくするとメーさんの揺れが止み、ニムが一度息を吐く。
「何か分かった?」
「一応レイさんのスキルについては……。ただ、レイさんとの出会いについては内緒にしたいそうです」
「そっか…」
何か俺に隠したいことがあるのだろう。これはきっとメーさんの優しさだ。だから、今は何も聞かない事にする。
「すみません……お役に立てなくて……」
「気にしないで良いよ。てか、俺のスキルについては分かったんでしょ? ならそれだけ十分役に立ててるよ。ありがと、ニム」
昨日の夕飯の時とは違い、しっかり名前を呼んでお礼を言う事が出来た。
そんな胸の内に広がる温かさと嬉しさに浸かっていると、
「ニムちゃん、お待たせしたわ! クッキー以外にも色々作ったから食べてちょうだい!」
カンナがクッキーの他にスープや肉料理やらを持って帰って来た。
俺の事についてはまた後でになりそうだ。カンナが持って来た料理に目を見開きながら、俺はそんな事を思う。
「私の奢りよ! じゃんじゃん食べて!」
「良いのか? こんな量……」
「気にすんじゃないわよ。それと、あんたも食べときなさい。どうせクエストと一緒に色々厄介事持ち帰って来てるんでしょ? 今の内に精力付けときなさいよ」
「……ありがと」
冒険者三人組やビッグスパイダーがいた事、洞窟の奥で新たな道を見つけた事などカンナは知らないだろうが、何かあった事は察してくれたらしい。さすが幼馴染。
女神のような幼馴染に感謝しながら、俺はカンナが作ってくれたスープを啜る。隣を見れば、喉に詰まらせないか心配になるほどの勢いでご飯を食べるニムの姿が……
「ニム、食べカスついてる」
「ふえ?」
「ちょっと待ってて」
ポケットからハンカチを取り出し拭いてあげた。ニムは擽ったそうにハンカチを受け止める。
そんなやり取りをしていたら、急にカンナがクスりと笑いだした。
「あんた達、昨日会ったばかりの割には仲が良いわね」
「レイさんとは夫婦ですので!」
「まだ結婚はしてないけどな」
「言わないお約束です!」
「騒がしいわね……」
カンナはそう言うが、やっぱり顔は笑っていた。
「あっ、そうだ。クエストの手続きしなきゃ。はい、カリニア草」
「……うん。確かにカリニア草だわ。いつもいつも仕事が早いわね」
「すぐ近くだしな」
無理なく歩いて行ける距離にあるクエストは楽で助かる。
「はっ! あのクモの糸を……ああ、飾るんでしたよね。そうでした」
「うん。よく耐えたね」
カリニア草を見てクエストでの出来事を思い出したのだろう。一瞬糸玉を燃やしたい衝動に駆られていたが、何とか踏みとどまってくれた。
それと、クエストで思い出したが一つやっておきたい事があったのだった。
「ニム、ステータスカードを作ろう」
「ステータスカード?」
ニムは聞きなれない言葉に首を傾げていた。
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