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幻惑魔法【複製】 三

「あのドラゴン、くっそむかつく!」

ラピアはそう吐き捨てて酒をがぶ飲みした。


何回も出し抜かれたせいでかなりイライラしているようだった。俺は強引につき合わされて、酒場でぶどうジュースを飲みながら愚痴を聞いていた。


「ほんっと、人間を馬鹿にしてるとしか思えない! ドラゴンとはいえ、ただのモンスターよ? ちょっと大きいだけの赤い蛇よ? 生意気だっつうの!」


「ドラゴンの知能は個体にもよるが、たいていは人間よりも高い。長年生きてるから経験も豊富で出し抜くのは難しい」


「ケインは相手を過剰評価しすぎ。嘘でもいいから『ドラゴンなんてザコだ!』って思わなきゃ。気持ちで負けちゃだめだってば」


「まーしかし、あいつはマジで厄介な奴だ。まるで俺たちが何を考えてるか全部わかってるみたいだ。心の中を読まれているような……」


「ねえ、“心の中を読む魔法”ってないの?」


「あるよ。使いにくいから俺はあんま使わないけど」


「それを使ってあいつが私たちの戦術を読んでるってことは?」


「ないね。射程距離が極端に短い魔法だ」


「どのくらい短いの?」


「今の俺たちくらいの距離が限界ってとこかな」


ラピアは大げさなため息をついて、またぐいっと酒を流し込んだ。



―――――――――――――――――――――――――――――



ラピアはものすごく酒に強かったが、それでもその晩は飲みすぎだった。

ふらふらと歩くことすらままならない様子で支えてやらないと倒れてしまう。

あげくの果てには「吐ぐぅ~!」と涙目で言うので路地裏に連れて行ったら、すごい勢いで吐き始めた


彼女がげろげろやっているのを見ていたら。背後に気配がした。

振り向くと、2人の男がいた。

服装は旅人っぽいが、背中に立派な剣を背負っている。雰囲気的には賞金稼ぎというよりは、軍人や衛兵に近いものを感じた。


「俺たちに何か用かな?」

俺の問いかけを無視して2人はラピアに近づいた。


「オランピア・ベルタンだな?」


呼びかけられたラピアは酒を吐く作業を一時中断して、げっそりとした顔で2人を見た。

「……いまあたしがなにやってるか、見りゃわかるでしょ? あんたらデリカシーってもんがないの?」


「裁判の結果は知っているな?」


「知らないし、知りたくもないね」


「ならば、いまここで教えてやろう」

2人は同時に剣を抜いた。


「オランピア・ベルタン。複数の重大な犯罪の咎により、貴殿を死罪に処す!」

男たちは同時にラピアへと斬りかかった。


いきなり斬りかかるとは物騒な奴らだ。

ほっといたら俺の相棒が二本の剣によりずたずたにされてしまう。

俺はとっさに攻撃魔法【衝撃】で、ラピアを吹っ飛ばした。


ばしゅん!

「あわわああぁぁぁぁ~!!!」


少し位置を動かして斬撃を回避させてやるつもりだったのだが、加減を間違えてすごい勢いでどこかへと飛んで行ってしまった。

まあ死んではいないだろう。


「貴様はなんだ、邪魔をするのか?」

2人が剣を構えたまま俺をにらみつけた。


「事情がわかんないんで、とりあえず説明してほしいんですけど」


「このっ! 何様だァ!」

2人のうちの片方がブチ切れて斬りかかってきた。

性格が短気なのだろうか。


俺は攻撃魔法【圧迫】を発動した。

これは目標に対して周囲から魔力で圧を加えて行動不能にするという魔法だ。

しかし少し締め上げるだけのつもりだったのだが、またまた力加減を間違えて、人体が耐えきれない圧力を与えてしまった。男の肉はブチブチとちぎれ、骨という骨はボキボキと砕けた。


 ぐちゃっ

 

人体がつぶれる嫌な音が路地裏に響き、やがて血と肉の塊でできた泥沼ができた。


「うわっ、やばっ、グロっ! で、でも、先に手を出してきたのはそっちだからな! 俺は自分の身を守ろうとしただけだからなぁ!」

残った男に対して弁解する。


男は涙目で命乞いをしはじめた。

「ま、待て! 殺さないでくれ! 説明させてくれ!」



―――――――――――――――――――――――――――――



俺は襲撃者の生き残りを酒場に連れて行って話を聞くことにした。


そいつはおびえ混乱して話をできるような状態ではなかったので、酒でも飲ませて落ち着かせようと思ったからだ。


「もう、だいじょうぶか?」


「……ああ」

取り乱していた男は、酒をぐびっと飲み込んで落ち着きを取り戻したようだった。こういうのを見ると、酒を飲める奴がうらやましくなる。


「相棒はすまなかった。殺すつもりはなかったんだ」


「あんなおぞましい魔法は初めて見た。もう2度と見たくないし、見るべきではなかった」


「なら忘れろ。で、お前らは?」


「あ、ああ。私たちはガベット王国の特務親衛隊だ。まあ、早い話が何でも屋のようなものだ。汚れ仕事が多いが」


「王国の親衛隊がどうして自治領に?」


「あの女、オランピア・ベルタンを追ってきた。奴は犯罪者だ」


「罪状は?」


「犯罪幇助だ。あの女はいわゆるやり手の情報屋だった。それも、とてつもなく悪質な情報屋だ。複数の犯罪組織に情報を売り渡していたんだ。我々はあの女をとらえようとしたのだが、うまく逃げられてしまった。その結果、本人不在で裁判が行われて死罪の判決がおりた」


「悪の情報屋ってことか。でも、自分で悪さしたわけじゃないんだろ。何も殺さなくてもいいんじゃないの?」


「私はまったくそうは思わない」

男は断言した。


「私には古い友人がいた。衛兵隊長だったのだが、職務に忠実で家族を大切にする、心から尊敬できる男だ。汚職に手を染めず、悪事を決して見逃さない、そんな男だった。しかし、だからこそ敵も多かった」

いつのまにか男の手が怒りで震えていた。


「オランピアは、犯罪組織に対して、彼に関するすべての情報を売り渡した。家族構成から使用人の年齢と特徴、自宅の間取りまですべてな。そしてその情報を利用して犯罪組織は暗殺者を雇い、私の友人を殺した。私は現場となった彼の自宅を調査した。ほんとにひどいものだった。見せしめだ。彼は死ぬ前に拷問を受けていたし、彼の妻や子供たちまでも……」


それはラピアが犯した罪のほんの一部でしかなかった。


親衛隊員はラピアがどんな情報を犯罪者どもに流し、それがどんな悲惨な結果をまねいたのか語り続けた。それらをすべて聞いていると夜が明けてしまうかのように思われたので、俺は途中で話を切り上げた。


ラピアをどうしたものか、俺にはわからなかった。

とりあえず話をしなければならない。

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