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精神魔法【支配】 一

あれはたしか、俺が6体の魔王を倒し、188種のモンスターを絶滅させ、21の国を救い2つの国を滅ぼした後の話だ。


俺はこの異世界にやってきて、なぜかやたらと魔力だけはあるんで、戦えば無敵で魔王や軍隊を相手にしても苦戦することはなかった。


けど、当時の俺はすごく貧乏だった。


今から思えば、懸賞金がかかってるモンスターを追いかけたりすればよかったんだが、情報収集をすることがめんどくさかったので、てきとうに、気が向くままにひとりで戦っていた。


強いことは間違いないので、軍隊にでも入ればそれなりに出世できたのかもしれないが、だめだったね。もといた世界で働いてた時に、つくづく俺は集団行動が苦手なんだって思い知らされたからだ。体育会系のノリとか、俺にとっては拷問だから、軍隊なんて絶対に合わないって当時は思ってた。


というわけで、だれも俺が戦ってることすら知らなかったから、何万ものモンスターで編成された魔王軍を攻撃魔法で凍結させても

「今年は冬が早めにきたおかげで助かった」

と人々は言う。


単独でダンジョンを攻略して魔王を倒しても

「なんか寿命的なもので魔王は死んだらしいよ」

ってなるんだ。


ある時、宿屋の料金を滞納して追い出されそうになったとき、さすがにこれじゃいけないと思った。


とりあえず俺の存在を誰かに知ってもらおうとコーンネール王都に出向いたら、“ワイバーン討伐パーティー募集”という張り紙があった。


読んでみると、200近い個体からなるワイバーンの群れが暴れまわっていて、王国の村や町が襲われ、大きな被害が出ているとのことだった。常駐の軍団が何回か討伐に向かったそうだが全く相手にならず、犠牲者は増えるばかりとのこと。


なるほど、と、だいたい察しはついた。

ワイバーンは群れを形成するモンスターだが、通常はどんなに大きな群れでも10匹を超えることはない。それが200の群れを形成しているということは、これまでにない強力なボスが現れたということだ。しかも、軍隊が太刀打ちできないとなると、頭もなかなか切れるらしい。


だが、俺の攻撃魔法の敵ではないだろう。

俺はその場で討伐隊に申し込むことにした。


手続きの時に役人から、

「魔術師ぃ? きみがぁ? なーんか弱そうだけどだいじょうぶなのぉ?」

とか、言われたっけな。


パーティー入隊試験というのがあり、その場でお前の力を見せろと言われたので、王都に巨大隕石を降らせ、それを下から雷の矢で撃ち抜いて粉砕してやったら一発で試験に合格した。


巨大隕石が空にいきなり出現して爆発したんで、王都全体が大騒ぎになったけどね。


集まったパーティーは俺含めて5人だった。それぞれ個性的な連中だったが、もう今から何百年、何千年と前のことなんで、名前は覚えてない。


俺以外のメンバーは、勇者、拳法家、僧侶(女)、魔術師(女)だ。


5人集まってまず最初にやったことは“営業”だった。


金持ちの農家とか商人とかをみんなで訪問して、支援の約束を取り付けるんだ。「魔物を退治してやるから金をくれ」ってことをオブラートに包んで表現するんだよ。でも俺はトークが苦手なんで、営業は他の連中にまかせてた。

勇者と僧侶がやたらコミュニケーション能力が高かったんで、俺は後ろからそれを見てるだけで、ひとことも発言しない感じだった。


訪問した金持ちどもは、みんな支援を約束してくれた。

その場で大金を渡してくれる太っ腹もいたが、そういうお金はパーティーのお金ということで、装備を買ったり、あとは酒場での飲み代に消えていった。


何週間も営業活動を続けてたら、やがて俺たちのうわさが王都全体に広がって、王に謁見する機会を得た。騎士となり、王国の正式なワイバーン討伐隊に任命されたらとんでもない金額の支援を約束される。

ひかえめに表現しても、すごい出世だ。

俺以外の4人はすごい興奮していた。


謁見の前日は、もうすでに勝ち組になったような気分でみんなはしゃいでた。

その夜も酒場で飲み会をやってたんだが、本音を言うと、俺はこれに参加したくなかった。そもそも俺は酒が飲めないから飲み会なんて面白くないし、このパーティーメンバーのノリも嫌いだった。


なんだか意識高い大学生が集まったイベントサークルみたいな感じだった。


おまけに、勇者は魔術師と、拳法家は僧侶と良い感じになってたんで、5人パーティーのなかで俺だけが浮いてる感じになってしまった。


というわけで、みんながはしゃぐ飲み会の席で、俺だけつまらなそうな顔をしていたら、勇者が声をかけてきた。なんだかんだいってあいつはリーダーだったからね。それなりに俺に気をつかっていたみたいだ。


「どうした? なんか暗いじゃーん」

なれなれしい言葉で言う。

やめてくれ。そんな感じであからさまに気をつかわれると逆に居心地が悪いわ。


「疲れた」

俺は答えて、疲れたアピールをするために大きくため息をついた。


「大丈夫か? 明日はいよいよワイバーン討伐任務の式典だ。明るい顔しとけよ」

勇者がサワヤカスマイルを浮かべながら俺のせなかを手でさすった。

やさしさはありがたいが、ちょっとキモいからやめてくれ。


「暗くもなるだろ。最近はずっと昼は営業、夜は飲み会だからな。なんで異世界に来てまでこんなブラックな環境で働かなきゃならないんだ」


「営業も遊びも大切だぞ」


「いつになったらワイバーンと戦うんだよ」


「準備を万全にしてからだ。装備を整えるのにも大金がいるんだ。それに、ほら、あれをみてみろよ」

ふと見ると、奥の席で僧侶が酒を片手に金持ち連中と話し込んで笑っていた。初対面なのにああいうことができるのは素直にすごい。


「あいつらは、ここらの地区の有力者だ。こういう場面でパイプを作っていくことが、あとあと役に立ったりするんだよ」


「そんなもんかねえ……」


すると後ろからガハハ! という下品な声が聞こえてきて後頭部を軽くたたかれた。


「いってえな」

振り返ると、ムキムキの拳法家が、顔を真っ赤にして酔っぱらっていた。


この拳法家は暇さえあれば筋トレをしているストイックな男に見えて、その実、酒好きの女好き。遊ぶとなればはっちゃけて、いろいろな意味で俺にはついていけなかった。


「おうケイン! 前から思ってたんだが、おまえ、もっとからんでこいや! つまらんぞ!」

鼓膜が痛くなるような大声で俺をディスる。


「いや、俺は酒が飲めないし、どうもこういう場は昔から苦手で……」

ああ、早くこいつどっかいってくれないかな、と思いながら俺は言った。


「違う! 俺が言ってるのは、ふだんのお前の態度っちゅうもんよ! もっと積極的にだな……」


そこから拳法家のありがたい説教がはじまった。「成長がどうだ」とか「人脈がどうだ」とかそんな話だ。それに勇者も加わって、2人から俺が一方的に説教されている図になった。


すると、魔術師が俺たちのテーブルにやってきて、不機嫌そうな顔で俺の隣に座った。


この魔術師はとにかく顔がかわいかった。だから仲良くなれればうれしいなって思ったのだが、俺は最初から嫌われてた。

なんでかというと、お互い魔術師でダブってたからだ。

たった5人のパーティーに魔術師がふたりもいると見栄えが良くない。しかも俺はあきらかにこの女魔術師よりも魔力が高かったんで、自分の立場が脅かされるとでも思ったんだろう。


「おう! お前もケインに何か言ってやれや」

と拳法家がはっぱをかける。


魔術師はむすっとした表情をそのままに横目で俺を見て言った。

「ケインってなんか仕事が適当な気がする。営業も私たちに任せっきりだし」


「トークが苦手だからね。へたに俺が口出ししたら、まとまる話もまとまらない」

自分で自分をフォローしてみる。


「っていうか、あんたパーティーで戦うのに慣れてないでしょ。戦ってるの見たことないけど、なんとなくわかるもん。チームプレー苦手でしょ。うふふ」

魔術師は、まるでこちらの急所をつかんだかのように、小悪魔じみた笑いを見せた。


「おいおい、魔術師どうし、仲良くしろよ」

と勇者が苦笑い。


「ガハハ! 言われちまったなあケイン。こりゃ、飲むしかねえべ!」

やたらとうれしそうな拳法家が俺の口にジョッキを押し付けて酒を飲まそうとしてきた。


「いや、だから俺はアルコールはだめなんだって……」

酒から放出されるアルコールの臭いでもうすでに俺の気分は悪くなっていた。


俺はこの世界にやってくる前からアルコールは本当にだめだった。

ひとくちでダウンして翌日は二日酔いという感じで体質的なものなのか、どうしても受け付けなかった。それはこの世界に来ても同様だった。わずかな量の酒で足腰が立たなくなる。もちろん、精神を集中することができなくなるので魔術も使えなくなる。


拳法家は嫌がる俺の口に、腕力にものを言わせて無理やりに酒を流し込んだ。俺の体には常に回復魔法がかかっている状態だったが、アルコールには効果がないようだ。すぐに思考がぼやけ、次に視界がぼやけ、最後に意識がぼやけた。


くっそ、こいつら、いつか痛い目を見せてやるぞ。

なんてことを、途切れかけの意識で考えていた。

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