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幻惑魔法【複製】 七

翌日、町をドラゴンが襲撃した。


最初にドラゴンの姿を見た少年が大騒ぎして、ひとりまたひとりとその騒ぎに加わり、すぐに町全体が大混乱になった。

出現した時には空高く飛行していたその巨大な赤い竜は、次第に高度を下げ、町の人々を威嚇するかのように、町の建造物すれすれをすごい速度で飛び始めた。


風圧で家々が大きく揺れた。


まさか賞金首が自ら来てくれるとは思っていなかった賞金稼ぎたちは、一人残らず武器をとり、ドラゴンに対して攻撃を開始した。

彼らはとにかく高いところに上り、攻撃魔法を使える者はそれで攻撃し、使えない者は弓やボウガンで矢を放ち、それも持ってない者は剣やナイフや石を投げて攻撃をした。

それら魔法や矢や、その他もろもろが地上から天空に向かって逆向きに降りそそぐ豪雨のように放たれた。しかし、目標があまりにも速いスピードで移動するので、その大半は命中せず、運よく直撃した攻撃も、堅牢な竜の鱗を貫くことはできなかった。


ドラゴンは反撃とばかりにまた低空をものすごいスピードで飛行し、同時に口から赤熱の火炎を吐いて、賞金稼ぎどもを焼き払った。


ゴオォォォォ!!!! 


風圧と炎で、家の屋根などに上って攻撃を続けていた賞金稼ぎたちは、吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。


「あっちゃ~。『死人は出すな』って言っておいたのに、こりゃ、犠牲者は1人や2人じゃ済まんぞ……」

俺は頭をかかえた。


「ま、あたしは賞金さえ手に入れば文句はないけどね」

ラピアは特に動揺もせず、落ち着いて混乱する人々を眺めていた。


俺とラピアは町の城門のてっぺんで、レッド・ドラゴンvs賞金稼ぎ連合軍とのガチバトルを観察していた。


いや、というかバトルにすらなっていなかった。

圧倒的な戦闘力の差があった。

ドラゴンが少し反撃しただけで賞金稼ぎたちは戦意喪失し、命が惜しいと右往左往するばかりであった。

最初に赤い竜が出現した時にはお祭り気分だった町の雰囲気はすぐに絶望的なものへと変わり、今ではそこいらじゅうから悲鳴や泣き声が聞こえてきた。


暴れまわっていたドラゴンは町を離れ、いったん地平線のかなたへと姿を消した。


さて、ここで俺の魔術の出番だ。

俺は【複製】を発動し、大空にドラゴンのコピーを作り出した。


撤退していったと思ったドラゴンが再び出現したので、町はさらに混沌とした状況になった。

もはやドラゴンに立ち向かおうとするものはおらず、逃げるか、泣くか、放心状態で空を見上げる者しかいなかった。


「さて、と」

俺は立ち上がった。

そして背伸びをして、天空を駆ける幻影のドラゴンを見上げた。

「最後はいっちょ、ド派手にぶちかましてやりますかッ!」


「がんばってー」

ラピアが棒読みで俺を激励しながら手を振る。


俺は変性魔法【肉体強化】で、自分の脚力を増幅し、数百メートルの大ジャンプをした。

そして、ドラゴンと同じ高さになったタイミングで、必殺の一撃を繰り出す。


攻撃魔法【殲滅する炎】


それは大げさな名前に劣らず凄まじい魔法だった。

本来は何千、何万という大群を一度に燃やしたり、攻城兵器の代用品として使うようなものだ。ドラゴンとはいえ、一匹のモンスターに使うような魔術ではない。

しかし、これなら、誰もがドラゴンの肉体は炎によって焼き尽くされたと思うので、死体が残らないことに疑問を持つものはいなくなるだろう。


ズゴゴゴゴオォォォォ……!!!


【殲滅する炎】は、激流のごとくドラゴンに押し寄せ、その肉体を包み込んだ。


炎の大河が消え去った後には、ただ青い空があるばかりだった。



―――――――――――――――――――――――――――――



俺は大空から帰還して着地した。

「ふぃー、ひと仕事したら疲れたわー」

自分の肩をもんでたら群衆たちにいつのまにか囲まれていた。


「この男が……竜を!」

「すごい、すごいぞッ! あんなとんでもねえ魔術は見たことがねえ!」

「あのでっかい竜が、跡形もないとは……」

「英雄だ! この町の救世主だッ!」


俺を囲んだ男も、女も、子供も、老人も、ライバルであるはずの賞金稼ぎまでもが俺を称賛し始めた。


いやはや、こんなにほめられるのは慣れていないので照れてしまうが、たまになら悪くはない。

俺はそう思っていた。

さぞかしニヤニヤとキモい顔をしていたことだろうよ。


だがそのあとに起こった悲劇をその時の俺が知っていたなら、徹夜明けのブラック企業労働者のような悲観的な顔になっていたに違いない。

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