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プロローグ① 荒れ果てた館

リュセールの町はずれ、ひとけのない荒れた道を、一人の少女が歩いていた。


名前はノエル。

少女は不幸な人生のまっただ中にいた。


数年前に家族が吸血鬼に殺され、天涯孤独となった。


生まれ育った村の施設に預けられたのだが、15歳になった彼女は規則により施設を出なければならなくなった。

通常なら村で住み込みの仕事を見つけてそこで働くのだが、少女が吸血鬼に襲われた家の唯一の生き残りであることを知った村人たちは、みな彼女を引き取ることを嫌がった。

行き場をなくした少女は、しかたなしにわずかな有り金を持ってリュセールに出てきたのだ。


町に到着したノエルは宿屋に滞在しながら仕事を探してみたが、15歳の少女にできることは少なく、応募すら断られる仕事ばかりであった。

すぐにお金が底をつき、途方に暮れていた時、一つの求人を見つけた。


住み込み可

応募資格、特に制限なし。


ノエルは迷わずその求人票を掲示板から引きはがし、職業紹介所の職員のもとへと持って行った。


「あのぉ……これに応募したいんですけど」


中年の職員は、その求人票を見るなり、眉をひそめた。

見てはならぬものを見てしまったかのように。


職員の反応を見たノエルは急に不安になった。そういえば、この求人だけ1年以上前のものだ。

ほかの求人は1か月以上前のものさえほとんどないのに。


「ももも、もしかして、これ、なにか危ない仕事なんですか?」


「うーん、危ない、というか……」


「じゃあ……いかがわしいとか?」


「いかがわしいってか、このケインさんがね……。ああ、ケインさんってのはこの館に住んでる人なんだけど、ちょっと、いや、すごく変わっていてね」


「こわい人……ですか?」


「怖くはないけど」


「どんな人?」


「魔術師だよ」

職員は言ってはならぬ秘密を打ち明けるように言った。


魔術師はそれほど珍しい存在ではなかったが、魔術を犯罪に悪用する者がいたり、その一方で、衛兵や軍隊に所属し、人々をモンスターどもから守る善良な魔術師も存在した。

要は本人の人格次第ということだ。


「こっ、怖くないです! 魔術師くらい、私の村にもいました」

ほんとのことをいうと、いなかった。

とにかく、住み込みの仕事にありつきたかった。


「いや、魔術師ってのが問題なんじゃなくて、あの人、たまにおかしなこと言うんだよなぁ」


「どんな?」


「『俺は40の魔王を倒した魔術師だ!』、とか」


「……は?」


その魔術師とやらは冗談でそれを言っているのだろうか。

またはうそをついて自分を大きく見せたがるタイプの人間か。


魔王が40? 


ノエルが知っている魔王はただ一人だ。

それも、80年前に勇者とその仲間たちに滅ぼされたと聞いていた。


話を聞くと明らかにおかしそうな人であったが、とにかく今は寝床を確保することが最優先だ。

結局、少女はそれに応募することにしたのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――



そして今、ようやくノエルはケイン氏とやらの館に到着した。

それは町はずれにあり、ほとんど森に囲まれるようなへんぴな場所にぽつんとたたずんでいた。

館は巨大であったが、屋根も壁もボロボロで庭も荒れ果ていた。


幽霊屋敷、というのがふさわしい外観の館だ。

ノエルはもう帰りたくなったが今さら後には引けない。

朽ちて崩壊寸前の門をくぐり、館の中へと入っていった。




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