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体こそ猛き剣なり  作者: かもめし
序章:崩壊
3/15

其の二

 化け物がシャオレ国へ強襲をかけたのは、その日の夜である。

 城壁や門扉を打ち壊して侵入する未知の化け物を前に、シャオレ国は一瞬にして大パニックとなった。

 無論、国として何もしないわけにはいかぬ。

 そこで、王家直属の騎士団が出動した訳だが、これが戦いと言えるものにすらならなかった。

 剣で突き刺し、魔法で焼いても、化け物は死ぬことがない。

 一方で化け物たちは、その身の丈に合った棍棒で戦士を叩き潰し、あるいは生きたまま口の中へ放り込んでいく。


「もっ、もう駄目だぁ!」


 遂には逃げ出す戦士も現れ、統率の取れなくなった騎士団は、もはや国を守る機能を失っていた。

 そして・・・。

 同胞の骸が転がるシャオレ国の城下町を、息を切らして駆けている者がいる。

 騎士団最高齢の剣士・シュタロスであった。

 茶筅のようにまとめた白髪に、(しわ)の目立つ肌。鎧の下には程よく引き締まった肉体を隠しているシュタロスは、御年二百六十歳。エルフの平均寿命が三百歳程度なのだから、彼は矍鑠(かくしゃく)とした老エルフだと言えよう。

 しかし、そんなシュタロスの胸中は、絶望に満ち溢れていたのである。

 ちらと、シュタロスが別の方向を見やった。

 そこに見えるは、煙と炎とを空高くに伸ばしている城。

 シャオレ城である。

 そこには、シャオレ国の王・バルバロットや、娘のリーガレット。そして避難をしてきた国民が、別の場所へ《転移》するために身を寄せているはずだ。

 シュタロスは、彼らが《転移》する時間を稼ぐため、城下町に繰り出し、一匹でも多くの化け物を引き付け、城から遠ざかっていたのだ。


(だが、それも無駄な事であった・・・城がああなったということは・・・奴らの魔の手が城に届いてしまった、ということなのだから・・・)


 燃え盛る城から、後方へと視線を戻したシュタロス。

 三匹の化け物が、我先にと《得物》目掛けて迫っているのが見える。

 石畳となっている道の幅は、化け物からすれば一匹通れるかどうかというものだが、奴らは左右に並ぶ建物を棍棒で打ち壊し、無理やりに道を広げていた。


(もう、いかぬ・・・)


 膝が笑い、今にもよろめきそうになる。

 背後からの化け物共の足音が、ゆっくりなものとなる。どうやら、獲物をじわじわと追い詰めることに快楽を覚えているようだ。


(おのれ・・・!)


 遂にシュタロスは倒れ込んでしまった。

 化け物共が、一斉に吠えた。

 ゆっくりだった足音が、急速に迫ってくる。まるで地鳴りのようだ。

 すぐ傍まで化け物共の気配を感じ、


(無念・・・!)


 シュタロスが、固く目を瞑った・・・その時である。

 ひゅん・・・と、風を切る音が聞こえたかと思うと、化け物一匹の悲鳴が響く。

 何事かと顔を上げると、前方に、馬に乗ったまま弓を構えるエルフの少女が見えた。

 少女を、シュタロスは知っていた。


「エリシア!」


 シュタロスが、少女の名を叫ぶ。

 シュタロスと同じく、シャオレ国の騎士団に属する戦士・エリシアは、こくりと頷くと、続けて三本の矢をまとめて放った。

 無傷の化け物二匹が、腕や腹でその矢を受け止める。

 その隙に、馬を走らせたエリシアはシュタロスに近づくや、手を伸ばし、


「さぁ!」


 と声をかけた。

 シュタロスも、満身創痍ながら、その手を取る。

 火事場の馬鹿力とでも言うべきか。華奢な体つきであるエリシアは、片腕でシュタロスの体を引っ張り上げると、これを背後に乗せ、化け物たちへもう一本、矢を放った。

 再び、丸太のような太い腕で矢を受け止めようとした化け物だったが、その寸前に、矢が煙へと変化し、これがムクムクと膨れるや、化け物たちの視界を遮った。

 矢に、「煙幕」の魔法を付加しておいたようである。

 棍棒や腕を振り、なんとか煙を払おうとする化け物たち。

 その間にエリシアは手綱を操って馬の方向を転換するや、化け物たちを背に、一気に城下町を駆け抜けた。

 木の枝のように右へ左へと伸びる道を、エリシアは迷うことなく選んで進む。

 化け物たちの顔面を覆っていた煙が、やっと消えた時。エリシアたちはすでにシャオレ入り口の門を抜け、広大な草原に馬を走らせている。

 二匹の得物を失った化け物が、青筋を浮かべて咆哮を上げた。

 そして、最初にエリシアの矢を受け、目の痛みに悶えている化け物を見るや、これに棍棒を振り下ろし、ただの肉塊へと変えてしまったのである。

 もはやシャオレ国に、生きているエルフの姿を見ることは出来なかった。

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