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体こそ猛き剣なり  作者: かもめし
法外ギルド
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其の二

 仮に、シュタロスの予想が当たっていたとして、


(逃げた先の手がかりになるようなものが無いものか・・・?)


 このことであった。

 そこで、今しばらくスーフォの街を探索することにしたのだが、


「潔癖のお嬢さまに悪いんでね」


 アインは、エリシアへ嫌味を込めて吐き捨てるや、そそくさとその場を後にしてしまう。


「ごめんね」


 頭を下げたカオンも、その後を追って去っていってしまった。

 果たして残った三名で、スーフォの街・・・もとい廃墟を探索することになった。

 しかし探索と言っても、建物の殆どは完膚なきまでに崩壊しており、目ぼしいものなど無いように思われた。

 だが・・・。

 一軒だけ、それほど形を崩していない廃屋があったのである。


(これは却って怪しい)


 とシュタロスは見た。

 果たして廃屋へ踏み込んでみて、一行は瞠目した。

 所々に焦げ目のある板張りの床。それいっぱいに、真っ赤な円陣が描かれている。


「これは・・・」


 呟くと同時に身を屈めたシュタロスが、じっくりと円陣を調べる。

 指で撫で、臭いを嗅いだ彼は、


「ネズミか何かの血か」


 独り言つるや、今度はその円陣に描かれている奇妙な図形を見て、僅かに目を開いた。


「それは・・・?」


 背後から、エリシアが不思議そうに図形を見る。

 エリシアにも、テアナにも、その図形に見覚えは無かった。

 しかし、シュタロスは知っていた。


「これは恐らく・・・古文字が刻まれた魔法陣さ」

「まほうじん・・・?」


 テアナが首を傾げるのへ、


「簡単に言うと、魔法を発動するために必要なおまじないみたいなものです」


 と説明してくれた。

 実のところ、エリシアたちと出会った時、テアナは「魔法」すらも知らなかった。

 パラダガルドにおいて、魔法とはさほど珍しいものではない。

 呪文を唱えれば、何もない所に火を起こしたり、体の傷を癒したりと、超常的な現象を引き起こすことが出来る。

 尤もこれは、呪文を唱えた者の実力ではない。

 呪文とは、飽くまで自然に対し、


「力をお借りしますよ」


 と、丁寧にへくりだって了承を得るための言葉にすぎないのである。

 故により強力な魔法を発動するためには、より強い自然への敬いと畏怖の念が必要となってくるわけだ。

 因みに、その信仰心のことをパラダガルドで「マナ」という。

 やがて時代は進み、魔法の扱いが「戦争における主流な武器」となっていくと、


「戦場でいちいち呪文を唱えている暇はない」


 戦地に赴く者たちから、このような不満が上がった。

 これを解決するために生まれたのが、「魔法陣」である。

 これは、術者のマナを込めた「呪い文字」を、予め紙に書いたもので、あとはこれに手をかざせば、魔法が発動するのだ。

 携帯でき、長々とした呪文を唱えなくても済むというので、大流行した魔法陣であるが、これにも弱点はあった。

 一つは、当たり前であるが、


「使用できる回数に限度がある」


 ということだ。

 魔法を駆使するたびに、紙に書かれた魔法陣は薄れ、やがて消えてしまう。

 魔法の種類や術者の持つマナの総量によって、その使用回数は変動するので、


「あとどれくらい魔法が使えるのか・・・?」


 術者は戦場の中で、魔法陣の薄れ具合を見て、おおよその把握をするしかないのである。

 二つ目の弱点は、


「紙さえ持てば、誰にでも魔法が使用できる」


 ということである。

 すでにマナは魔法陣に込められているので、それが書かれた紙がもしも敵の手に渡ってしまうと、相手が強力な魔法を使用できる、ということになるのだ。

 実際、


「ゲブリ(パラダガルドに生息する、低級の魔物)に魔法陣の書かれた紙を奪われた上級魔術師一行が、そこから一転して全滅した」


 このような例もある。

 更に三つ目。これはつい最近になって判明したことであるが、


「魔術師に書かれた文字は、昔の物の方がより強力なものとなる」


 ということ。

 言葉や文字は、時代を経るごとに進化していく。

 我々人間の世界とパラダガルドは、そこは共通しているらしい。

 これは諸説あるが、


「自然そのものは昔から変化しない(=すでに進化の頂にいる)ので、古の言葉が最も効果がある」


 というのが最有力らしい。

 我々人間に置き換えると、


「年配に若者言葉が通じない」


 と同じようなことだろうか。

 話を戻そう。

 血で描かれた魔法陣を入念に調べたシュタロスは、


「どうやらこれは、亜空間への転移魔法らしい」


 と言った。


「あくうかん?」


 テアナが首を傾げると、


「早い話が、魔法によって一時的に作られた、仮の空間の事さ」


 シュタロスが説明をしてくれた。

 更に彼は魔法陣を撫でつつ、


「本来、魔法陣は誰かが触れればすぐに発動するが・・・これにはロックがかかっているらしい」


 そう言った。


「ロック?」


 今度はエリシアが首を傾げる。


「術者が定めた条件の事さ。これをクリアした者でないと、この魔法陣は起動しない。何者か知らんが、そんな芸当が出来るとは・・・大したものだ」


 シュタロスが感心したところで、なにとなくエリシアが魔法陣の中へ足を踏み入れた。

 と・・・。

 魔法陣が、真紅の光を放ち始めたのである。

 それと同時に、テアナの体だけが魔法陣の外へ弾き飛ばされた。


「テアナ!」

「テアナさん!」


 叫んだエリシアとシュタロスの体が、光の粒子となって、弾け飛ぶ。


「これは、一体・・・?」


 瞠目するテアナ。

 その頭上へ、弾丸の如く飛来する影があった・・・。

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