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体こそ猛き剣なり  作者: かもめし
寄り道一つ目:皆川道場
13/15

其の七

 小杉金之助が、皆川道場の仮の道場主となってから七日が経った。

 未だ門弟はいないが、それでも金之助は腐ることなく、稽古の日々に励んでいる。

 そこへ、林太郎が訪ねてきた。

 神剣を抜いての稽古をしていた金之助は、その手を止め、深く頭を下げて林太郎を出迎える。


「で、どうです。道場主としての生活は」

「やはり大変です。稽古だけでなく、口入れ屋からの仕事もしなければならないので・・・」

「おゆみから聞きました。料亭の中庭の草むしりから、商家金蔵の警護までやっているそうで。よくもまぁ、七日のうちに色々と引き受けましたね」

「まぁ、先立つものがないと、どうしても不安でしてね」


 と、談笑していた二人だが、そのうち林太郎が真剣な顔となり、


「そう言えば、夜駆の伝右衛門なる盗人が捕まったとか」


 言った時、湯呑を握っていた金之助の手が、微かに止まった。

 それに気づかないのか、林太郎は更に言葉を続ける。


「その盗人、押し込み先では誰も殺さず、女も犯さず、まして金のないところからは盗まなかった、とか」

「・・・」

「して、そ奴が捕まった次の日に、お前は盗賊改め方の役宅に呼び出されたとか」

「・・・」

「一体、どのようなわけで?」


 暫しの沈黙。

 内心、焦りを感じた金之助であったが、それを面には出さず、努めて笑顔で、


「その伝右衛門なる男を、十年前に千住大橋で助けたことがありまして」

「ほう」

「無頼浪人に囲まれていたところを、私が割って入りました。尤も、その時はまさかに、あの男が夜駆の伝右衛門だとは思いませんでしたが・・・」

「なるほど」

「その時のお礼を言いたく、わざわざ私の名前を出し、役宅へ呼び寄せたそうです」

「ふぅん・・・」


 またしても、沈黙が訪れる。

 林太郎は、白湯を啜ったところで、


「吉中宗次郎は、今頃どこで何をしているのやら・・・」


 溜め息交じりに言ったので、またしても金之助は心内で驚いた。


「・・・吉中さんのことです。今は落ち着いて、諸国の道場を巡って、代稽古でも頼まれているのではありませんか?」


 考えに考え抜いて出した言葉であった。

 林太郎は、開け放たれた戸から見える中庭の景色に見とれつつ、


「そうだといいんですがねぇ」


 言うと、また一啜り、白湯を飲んだ。

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