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回想~8887

作者: にせこちゃん

 神に与えられた数字が1。亜神に与えられた数字が2である。3は誰だったのかな。長嶋茂雄?まあそれでもいいだろう。とにかく我々ナンバーズにとって、どの数字が与えられるかがすべての運命を決めると言っても過言じゃない。あんたは何番だ?567778324?そりゃご愁傷様。


 場末のファクトリーで産まれた俺の宿命の数字は8887。型落ちの因果操作機じゃこれが限界だったんだろう。我ながらなんとも垢抜けないナンバーだよ。なかなか男らしい数字だって?はは。褒めてくれてありがとよ。あんたもよく見りゃいい数字だ。


 ちなみにどうでもいいことだが、8888のやつは縁起がいいとかで中国人が大昔に製造済みだ。数秘学的には大して意味のない数字だったから、アフリカかどこかの戦場で早々に破壊されたらしい。


 俺は一応素数なんで昔風の戦闘ならそこそこ居場所はある。天空を駆ける神々のような連中には指先も届かんがね。


「19」の話をしようか。


 あいつ──あいつなんて言える立場じゃないな俺は。「19」は当時五番目か六番目の数秘学的達成だった。人類の英知の結晶ってやつだ。


 時は大計算機時代だ。とにかく巨大なリソースをコンピュータにぶち込むのがあたりまえの大らかな時代で、人類も今よりずっと豊かだった。あんたも画像は見たことあるだろう?都市がまるごと計算機だったんだ。恐竜みたいな冷却塔がそこら辺ににょきにょき生えてて、そりゃ壮観だった。


「19」は倒産寸前の赤字企業が一発逆転を狙って製造しちまったナンバーでな。ほとんど奇跡さ。10代の素数では人類史上初じゃないかな?そのあたりの事情ももう秘匿事項なんだろ?やれやれ。教団の専制ここに極まれりと言ったところか。主人(マスター)!あの写真出してくれないか。


 右から二番目が「19」だよ。この写真、ずいぶん日に焼けちまってるが、「19」はとにかく笑ってるのはわかるだろう。反対側の端が俺だ。当時は写真に笑って写るなんて恥ずかしいと思ってたんだが、こうしてみると仏頂面がみじめなもんさ。若気の至りってやつだな。


 俺がチームに選ばれた理由?欠員だ。「19」と組んでた連中の損耗率は異常に高かった。そうじゃなきゃ俺なんかにお鉢は回ってこないさ。


 初対面は……どこだったかな。ブリーフィングか何かの場だったんじゃないかな。もう昔のことで記憶も損傷してるからな。


「19」はそりゃあ人気はあったさ。仲間も敵も何人も殺したが、それでもみんな「19」が好きだった。英雄ってのはそういうものなんだろうな。俺もずいぶん暴れたもんだ。H557軌で「筆記屋(オートマトン)」どもとやりあった時は……まあこの話はいいか。


 ああ!思い出したよ!「19」の最初の記憶だ。町が疎開でどんどん寂れていってな、「19」の行きつけの雑貨店だかが閉店するらしいとか、周りの友達と話してたのを盗み聞いてたんだ。それが一番古い記憶だと思うな。直接会話するのはずいぶん後のことだったはずだ。


 妙なことばかり覚えてるもんだな。面と向かって何を話したかなんて一つも覚えちゃいない。そうそう「19」は夏になると検算の打刻がメチャクチャにずれるんだ。なんの数的特性だか知らないが、本人は冷却のせいだと思いこんでて、毎年同じぼろぼろのうちわを持ってきて自分をあおぐんだ。笑えるだろ。


「1569」、「2301」、「5556」、みんないいやつだった。ああ、「322」なんてのもいたな。弱いくせに3桁だって妙に強がってな。まあ大体は死んだ。「2301」からたまに手紙が来るくらいだな。へー、あんた「10004」とは知り合いか。俺とはあまり付き合いはなかったが、あいつもなかなかいい腕だ。

 

 それで「19」だ。いちおう公式には張家口であいつはで死んだことになってる。なに?今の公式発表は違う?アルハンゲリスクだって?冗談だろう?教団の奴ら、嘘をつくにしてももう少し考えてからにしてほしいもんだな。当時のアルハンゲリスクあたりに「19」とやりあえるやつなんているわけないだろう。未だ詳細不明の対素数戦術?もうメチャクチャだな。あんたも物書きなら気をつけたほうがいいぜ。


 手短に、結論から行こうか。「19」が死んだのは東京だ。殺ったのは「52」のチーム。この目で見た。間違いない。


 信じられないって顔をしてるな。まあ、東京みたいに極端に数字の詰まった場所で2桁同士の派手な戦いがやれるわけないって考えるのが普通だよな。だが、事実だ。


「52」についてはどれくらい知ってる?そうだ。スルガ研のエースだ。出力はまあ、2桁なんだから当然あの頃の一級品だったが、それよりも何よりも頭のいいやつでな。「劫H」を最初に達成した野心家だよ。「ドゥンビアの5」の解も出してる。


 新進気鋭のチームってやつだ。その分生意気なやつも多くて評判はよくなかった。まあ俺はほとんど敵側からしか見てないからな。中から見ればまた違うんだろうが……そうそう、あそこの副将格だった「750」とはその後少し話したことがあるよ。無礼な態度じゃなかったが、内心何を思っていたやら。

 

「19」は今から思えば限界だったのかもしれないな。「ムタイ=李予想」がついに突破される前夜だ。旧時代のビッグネームを狩ってやろうって連中が次々に名乗りを上げてた。スルガ研だけじゃない。国内だけでも奉額塾にオガサワラ検儀に(かわうそ)隊、外資の名前を出すとやばいが「P」とか「H」、算鍵とかの珠算系もまだまだ元気で、「筆記屋オートマトン」に見切りをつけた連中も妙な動きをしてた。


 俺が詳しいって?この程度ででかい顔はできねえな。当時の人間なら全員知ってることだ。あんたもう少し勉強した方がいいぜ。


 そう。最初にやられたのは「423」だ。そこはちゃんと知ってるんだな。新潟だよ。女殺しのハーシャッド数でなあ。俺はあまり好きじゃなかったが、まあ俺よりは確実に強かっただろうな。


 報復はすぐに決まったよ。「19」は……どんな反応をしてたかな。すまんな。大事なことだろうに。


 遭遇は12月3日の早朝。場所は……俺の場合は芝浦だった。「19」がどこかはもちろん知らん。


 スルガ研の連中は最初から東京でやる気だったとしか思えないが、これも向こうの連中に聞いてみないとわからないな。あんた取材しないのか?全滅?25年前か。てっきり上手く教団に入り込んでたと思ってたが。相手は誰だ?サミュエルソンの2番隊か。ありそうな話だ。


 戦闘の詳細については話したくない。墓まで持っていかなきゃならんこともあるし、あんたを信じないわけじゃないが、教団に睨まれたくないんでな。検算できるやつもどうせいないだろうから解だけは教えておいてやるが、「56688:2:992999214:11」だ。そうだ。少なくとも367回以上の「肆」をやってのけてる。論評は勝手にやってくれ。少なくとも俺はこの解は好きじゃない。「19」にはもっとふさわしい死に場所があったはずだ。


 結局、「19」は美しい数だったよ。まったく忘れられちまうのも正直悔しいからこうして話してるわけだ。俺みたいなやつが一緒に戦場にいられたのは幸運さ。数字がまだ、存在する意味を感じられた時代だよ。「3201792178217421452045015」なんてやつが今はのさばってるんだろ?「19」とやったらどうなるかな。意外と「19」が勝つかもしれんぞ。


 俺の話はこれで終わりだよ。年寄りの繰り言につきあわせて悪かったな。しかしあれだな、あんた「19」になんて何で興味を持ったんだ?「23」とか「115」とか、もっと人気のあるナンバーがいくらでもいるじゃないか。フリーのジャーナリストなんだろ?もっと商売っ気出さないと。ははは。余計なお世話だったかな。


 コーヒー代くらいこっちが持つよ。うん。また何かあったら電話ででも聞いてくれ。記事が出たら教えてくれるよな。期待してるよ。


 ああそうだ。あとは外部のやつだが「16689」あたりが何か話してくれるんじゃないか。俺は面識はないが、生きてる中では(かわうそ)隊の一番の古株だろうし、当時スルガ研とは付き合いがあったはずだ。取材拒否?ふーん。





 テープはここで終わっている。教団崩壊後に世に出たA級機密の中で最も不可解と呼ばれる資料である。「567778324」なる取材者の詳細は不明。「8887」「52」他のナンバーは存在が確認されている。


 さて、読者諸兄も疑問に思っておられるだろう。一体ここで語られている「19」なるナンバーは何者なのか?


 単純な数秘学的事実として、「19」なる数字は存在しない。「19」という数字は単なる認識上の錯覚に過ぎず「18」に続く数字は「20」である。よって、「19」などというナンバーも現実に顕算できるはずがないのだ。


「数の墓」にも「19」などという数骸のための棺はなく、このテープは単なるフィクションと見るのが当然である。だが、A級機密中、このテープだけが明らかに異質であり、教団内での取扱いも群を抜いて厳重であった。


 昨今、「19」という数字の実在を主張する反数秘学的運動が一部で蠢動(しゅんどう)しているのは、、このテープの公開によるところが大きい。「19」なる「幻の数字」が若者たちの心を惹きつけているとしたら、それは戦後社会の歪みの一つの現われなのかもしれない。私のような戦前の人間としては、空恐ろしいものも感じるのだが……

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