ねこが愛したこの世界
おは。吾輩はネコである。
自分で言うのもなんだが、案外イケてるミケネコだ。
ぽかぽか陽気でお昼寝したい。
今日はどこで休もうか。
サイレンの音が聞こえた。
あのけたたましい警告音は耳障りだ。
でもあの音がないと、うっかり車にひかれちゃう。
後ろの扉があいた。
患者さんをストレッチャーに乗せて、搬送しようとしてる。
人間の邪魔をしてはならない。
そろりと横切ろうとしたら、一人の隊員と目が合った。
「「……」」
ネコの世界では目と目が合うのはご法度だ。
ケンカをしたくもないのに、相手に警戒心を抱かせてしまう。ならば――
「にゃ~ご」
「!」
愛嬌は大事、隊員にネコ語で挨拶しておいた。
これだけやれば充分だろう。やり切った感じする。
隊員からの舐めるような視線をものともせずに、吾輩は病院を横切った。
***
そんな吾輩に一大事件が起きる。
以前と同じく、病院の前を横切ろうとしたらあのときの隊員を見つけた。ちっちっち、と言いながら近づいてくるいい大人に吾輩は油断して気づかなかったのである。
「か、かわいい……」
「……」
「よしよし」
大きな手が頭をなでるのは気持ちがよくて、ついつい目を閉じてしまった。野良ではまずありえない行為だろう。だがしかし、吾輩だからこそ駆け引きできなかった。
気づいたら車の中だなんて思いもしない。
吾輩は男に連れ去られたのである。
「にゃ、にゃ~お……」
「大丈夫だよ、すぐにお家に慣れるからね」
助手席に乗せた吾輩は驚いた。
かごが上手にシートベルトで固定されている。
「きみって首輪がないだろ。だったら、俺の家の子になるといい」
野良には野良のライフスタイルというものが。
「名前どうしようか。ルークとかどう」
生意気言ってすみませんでした。
吾輩って言ってるけど、正真正銘メスである。
「フシャーッ!」
「怒った。女の子か。メロンとかどう」
「ニャ……」
「フルーツの王様って意味らしい。きにみあうんじゃないかな」
メスだけどメロンに決定なのである……って、前見て運転しろ。いまガガガガ、ゴゴゴッて激しい音がしたぞ。車が縁石に乗り上げて無理やり走行しているのでは? 無謀にもそのまま走行とは、こいつやりおる。
家に到着したときに、吾輩も一緒にぶつかった箇所を見るとタイヤのホイール部分にキズが見つかった。とくに落ち込む様子もない度胸あるこの男に、吾輩はご主人と認めることにした。
「こら、逃げるなメロン」
「ニャ~!」
前言撤回したい。
家に連れてくるなり、吾輩を風呂などに入れようとしたのである。
引っかいてネコパンチしたが、男に首根っこを掴まれた。
万事休す。吾輩メロンは、男にすべてを洗われた。
「メロンがこんなに可愛いと、これじゃぁ雄ネコがほっとかないなぁ」
「にゃ~ん」
鏡を見ると吾輩ってこんな感じだったの? という美ネコに驚く。褒めてつかわすぞと、吾輩の頬ずり攻撃をすれば、男の表情筋が崩れていた。
「メロン、ほれほれ」
おもちゃの猫じゃらしごときで、吾輩がつられるとでも……おかしい。この動きは獲物そっくりではないか。
「運動したあとはご飯な。ほら、メロンの小松菜ツナ盛りご飯だよ」
塩分控えめか……贅沢は言えぬ。
もりもり食べた後はご主人と遊んだ。