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81.攻城戦

81話目です。

よろしくお願いします。

「ちっ、間に合わなかったか」

 ヴェルナーが城門正面へと襲撃をかける為に、イレーヌへ雷撃を命じようとした直前だった。

 城内から数十名の兵が、一人の偉丈夫に率いられてぞろぞろと姿を現したかと思うと、城門から砲身の大部分が突出していた大砲が下げられていく。


 露出している大砲を観察し、砲身か近くにいるはずの火薬持ちへ雷撃を行うつもりだったヴェルナーは舌打ちした。防御の為だろう兵士達の壁が完成していく。

「タイミングが最悪だな。あのまま馬鹿みたいに砲に頼ってくれていたらすぐに終わったのに」

 ヴェルナー達には時間が無い。町の外にはまだ大兵力が残っている。それらが混乱からたちなおり、街中の防衛に参加すると身動きが取れなくなるのだ。


「仕方が無い。強硬策で行く」

 言うが早いか、ヴェルナーはいくつものプラスティック爆薬を作りだし、アシュリンに渡して城門周辺へばら撒くようにと命じた。

「はっ!」

 返答もそこそこに、数百メートル先の城門やその両側面の壁、あるいは兵士達にこぶし大のプラスティック爆薬を投げつけていく。


「では、爆発で混乱している所に乗り込み、一気に城内に入り込む」

 兵数に差がある今は、狭い場所にはいって敵のトップを迅速に押さえる事を考えるべきだと説明し、ヴェルナーは右手の指を鳴らした。

 壁がはじけ、木製の城門が吹き飛んだ。

 さらに兵士達もはじけ飛び、それらのパーツに穿たれた周辺の兵士達も倒れている。


「行くぞ!」

 通りの反対側にいる兵士達にも合図を出し、城門まで残り百メートル程になると通りに飛び出して駆けだした。

 上を見ると、近すぎる場所に対して手の出しようがない様子で慌てる兵士達が見える。

「一気に通り抜ける。城に入って聖国の王に挨拶といこう」


「それは遠慮していただこう」

 死に損なってのた打ち回っている兵士達の中央で、一人だけ平然と立っていた男がいた。

「なにっ!?」

「ここを通すわけにはいかん。……まさか敵にも火薬を使うものがいるとは思わなかったが」


 身体を覆っていたマントを振り払うようにして広げた男は、腰に提げていた剣を引き抜く。

「どこの誰か知らないが、このブラッケがここにいる以上、お前たちを通すわけにはいかん」

「どうやって爆発を防いだ?」


「答える義理は無い」

 口を開いたヴェルナーへ向かい、ブラッケは兵士達を飛び越えるようにして剣を振り下ろしてきた。

 速い。鎧を着ているとは信じられない程の速度で迫る相手に対し、ヴェルナーは剣を構えてどうにか受け止める姿勢を作るのが精いっぱいだった。


「陛下!」

 アシュリンがヴェルナーの前に出る。

 背負っていた大槍を振るい、ブラッケの剣撃を押し返した。

「ぬうっ!? ……陛下、だと?」

 少女とは思えぬ膂力と、アシュリンが口にした言葉に困惑しているブラッケは、ヴェルナーとアシュリンを交互に睨みつけた。


「どうやら、話を聞き出さねばならぬようだ」

「残念だが、こっちはそんな余裕も無いんでね。話ならお前の王とさせてもらう」

「む……」

 再び攻撃の構えを見せたブラッケの前で、アシュリンとイレーヌがヴェルナーを守る様に立ちはだかった。


「あたしたちを無視してんじゃないわよ」

「陛下。ここは自分たちにお任せを」

 ヴェルナーはわずかに逡巡したが、何より時間が貴重な状況だった。

「……任せる。三人付いて来い! 残りはイレーヌ達を援護しつつ周囲の敵を警戒!」

 兵士たちはヴェルナーの命令通りに動き始めた。


「通さぬ!」

 回り込もうとするヴェルナーを妨害すべく踏み出したブラッケに、イレーヌの雷撃が飛んだ。

「ちいっ!」

 マントが、まるで意思を持っているかのようにうごいて雷撃を防ぐ。それでも迸る光はブラッケの足を止めるには充分だったようだ。


「妙な魔法を使う……!」

「貴方も同じよ。何そのマント。卑怯じゃない?」

 サーベルを振るって風切音を鳴らしながら唇を尖らせるイレーヌは、アシュリンと並んで構え直した。

「防御が固い相手でも、力で突き破る!」


 アシュリンが気合を入れて声を張り上げると、ブラッケは走り去るヴェルナーへと一瞬だけ目を向け、二人の騎士に対して構えた。

「仕方があるまい。少数の相手なら城内の者たちで処理できるだろう」

「あら、我がラングミュアの王を舐めて貰っちゃ困るわね。優男に見えて、世界で一番強いんだから」


「ラングミュア王だと……!?」

 目を見開いたブラッケに対し、イレーヌとアシュリンは自然とタイミングを合わせて飛びかかった。

 帯電したサーベルはマントに打ち払われ、アシュリンの槍による突きは剣を合わせてきたブラッケによって軽く逸らされた。


「やるな」

 反撃をしようとしたブラッケだったが、二人はすぐに武器を引いて体勢を立て直している。その助けに入ろうとした一人の兵士が、ブラッケの剣に斬り捨てられた。

「あっ!」

「このっ!」

「だが、まだ若い」


 味方がやられた事に、急いで踏み込んだイレーヌとアシュリンは、あっさりと攻撃を避けられて剣で武器を弾かれ、立て続けに拳で殴り飛ばされた。

 追撃を止めようとラングミュア兵たちは果敢に突撃したが、簡単に撃退されていく。

「恰好付けて任せてもらったのは良いけど、ちょっと危なくない、これ?」

 立ち上がりながら愚痴を言うイレーヌの肩を、アシュリンが軽く小突いた。


「馬鹿な事を言うな。これが自分たちの仕事だし、陛下のためだ」

 アシュリンは軽く首を振り、歪んでしまった兜を放り捨てた。

「それに、自分はイレーヌと二人なら誰にも負けないと信じている」

「そう言われたら、応えるしかないじゃない」

 膝に力を入れて、イレーヌもサーベルを振るって構え直す。


●○●


 アーデルは聖国王都入口の惨状を見るより早く、大軍がひしめいている王都西側の状況を目の当たりにする事になった。

 これは東側海岸から来たヴェルナーに対し、西側帝国国境から来たアーデルとの違いだ。町をぐるりとまわりこめば破壊された大門も見えるだろうが、爆発で減ったとはいえ数百名がいるという状況に意識が集中したのは仕方が無いことかも知れない。


「如何いたしましょうか?」

「報告があったラングミュアの軍はどうなってる?」

「不明です。町の中で戦闘を行っている可能性がありますが……」

 と、副官が報告をしている間に遠くから爆発音が聞こえてくる。

「ヴェルナー国王ね……」


 アーデルは断定したが、これは城の上部から放たれた大砲の発射音だった。もちろん、この場にいる者でアーデルの予想に異を唱える者はいない。

「とすると、ここで考えられる方針は二つね。外部の敵を排除して町へ侵入してヴェルナー国王と合流するか、距離を取って傍観するか」

「閣下、ラングミュアの軍勢を排除しなくてよろしいのですか?」


 副官の問いは当然と言えば当然で、帝国軍がここへ来た目的は聖国の併呑にある。ラングミュアの軍勢がいるならば奪い合いをするのが自然な流れではあった。

 しかし、アーデルにはその選択を選ぶ気はない。

「ヴェルナー国王と事を構えてみなさい。私も貴方も、兵たちと仲良くバラバラに吹き飛ばされて終わりよ。戦力差は基本的には数で考えるけれど、特殊な魔法を持っている相手なら話は別と考えなさい」


「しかし」

 副官は食い下がる。

「閣下の魔法も唯一無二の強力なもの。そのように差があるとは……」

「馬鹿ね。相性を考えなさい」

 アーデルの魔法は完全に接近戦向けであり、彼女にしてみればアシュリンのようなタイプであれば有利に戦えるかも知れない。


 だが、ヴェルナーのような広範囲に強烈なダメージを与える魔法に対しては無力だ。

「私の“腕”であれを止めることは不可能よ。貴方もいずれ部隊を率いて戦う時が来るのだから、戦力を数だけでなくその質で考えることも必要だと憶えておきなさい」

 そう語るアーデルは、結局ヴェルナーの援護になるように聖国王都へ攻撃を加えることにした。


「斥候を出して、王都全体を外から観察して状況を纏めなさい。弱い部分を探して攻略するわよ」

「はっ!」

 およそ一時間後、アーデルは報告を聞いて顔を歪めた。

「どうなってるの?」


 東側は門が破壊されて町中も壊滅状態。西側に集中して聖国兵がひしめいている状況だ。斥候が観察している間に、この聖国兵たちは隊列を整えて町中への流入を始めようとしていた。

「……半月の陣形で東側から反包囲する。敵は西の大門から町の中へ入ろうとするでしょう。そこに殺到して一気に敵を討つ」


 幸運な事に、街中の戦闘に気を取られていてアーデル達の軍を察知した様子は見えない。今の地点で隊列を整えて吶喊すれば、敵の意表を突くことが可能だろうとアーデルは判断した。

 兵力も敵の1.5倍はある。

 整列は素早く、およそ十五分で突撃の体制は整った。


「帝国の持ち味は息の合った攻撃にある! 隣の戦友を見ろ! 共に戦い、共に生き残る為に貴様らは隣同士に並んでいるのだ! その隊列で行け! そしてその隊列で戻って来い!」

「応!」

 槍衾が並び、後方には弓兵が弦を引き絞っている。こうして一千名の突撃体勢は整った。


●○●


「そら、どけどけ!」

 ヴェルナーは手作りのライフルに球を込めては発砲を繰り返して、城の中を駆け抜けていく。

 火薬の破裂に似た音を立てては、あっさりと聖国兵を倒していく姿に、火薬の存在を知っている聖国の者たちは完全に怯えていた。


 中の一人にライフルを向けて道を訪ね、兵士達を連れて謁見の間に向けて駆け抜けていく。

 豆粒のようなプラスティック爆薬と共に球を込め、さく杖で奥まで押し込む。何度も繰り返し訓練した動きは、流れるように性格だった。

 シャッ、と小気味良い音を立ててライフル内を滑るさく杖は、柔らかなプラスティック爆薬の感触と共に止まる。


 最初のうちは「面倒くさい。アサルトライフルが撃ちたい」と思っていたヴェルナーだったが、今では一連の作業が何かの儀式のようで気に入っていた。

「こちらのようです!」

 一人の文官を蹴り倒した部下に声をかけられ、ヴェルナーは先導する彼に付いていく。

 すでに階段を四階まで駆け上がってきたところだ。


 その時、頭上から爆発音が鳴り響いた。先ほども聞いた、屋上の大砲が火を噴いた音だ。

「砲撃だと? 一体何を撃っている?」

 アシュリン達がまだ戦っているとしても砲撃できる角度では無いはずだ。であれば、別の敵が砲の射程内に入ってきたことになる。

「可能性があるのは帝国か。やれやれ、急がないと……いや、待てよ?」


 ヴェルナーはあることを思いついた。

 それは彼の政治指導者としての“悪知恵”だったが、土壇場で思いついたにしては悪くない考えだと思えた。少なくとも、ラングミュアにとって余計な負担が無くなる。

「陛下、こちらです!」

 考えているうちに、部下の一人が豪奢な扉の前にたどり着き、そこにいた護衛の聖国兵を斬り伏せていた。


 気が急いていたのだろう。あるいは、ヴェルナーが来る前に中の様子を確かめようとしたのかも知れない。

「待て! 何があるかわからないうちは……」

 扉に手をかけたところで、ヴェルナーは声をかけたが、遅かった。

「うぁっ……」


 扉を開き、覗き込んだ部下の頭部が弾かれるように後方にずれた。

 そのまま、仰向けに倒れた部下の額に空いた穴を見て、ヴェルナーは舌打ちした。

「銃を作っていたか……!」

 見覚えのある形の死体だった。その威力も推測できる。

「扉の前から離れろ。壁に背を付けて待機」


 冷たく、落ち着いたヴェルナーの指示に肩を震わせた二人の部下たちは、すぐさま言われた通りに動いた。

 二度、三度と扉を貫通する銃撃が放たれるが、壁は通らない。

「銃は持っていても、使い方は分からないらしいな」

 ヴェルナーはライフルを構え、もう片方の手にはプラスティック爆薬を掴んでいる。


「良いだろう。突入の実戦を見せてやるとしよう」

 ラングミュア王国とランジュバン聖国。二国の王の邂逅は銃撃戦から始まった。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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