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67.新たな軍隊

67話目です。

よろしくお願いします。

 再び船上の人となったヴェルナーは、往路で目星を付けておいた港候補地を確認しながら穏やかな海を進んでいく。

その最中、船長であり船舶関係部隊の責任者となっている騎士オスカー・ルーデンを自らの船室に呼び出した。

「オスカー・ルーデンです」


 ドアの向こうから良く通る声が聞こえた事で、疲れにまどろんでいた頭を叩き起こされたヴェルナーは入室を促す。

「失礼します」

「忙しい所に呼びつけて悪かった」

「いえ。幸いに慣れた者ばかりが操船しておりますので、波も穏やかな今は特にやる事もございませんので」


 オスカーは騎士達が着る金属鎧ではなく、シンプルな革鎧を着ている。海に落ちた際に浮くような構造になっている、ヘルマンの自信作だ。しばらくオスカーがテストを行い、問題無ければ制式装備とする予定になっている。

 その装備をする対象は、新たに創設する海軍だ。

 ここで初めて、ヴェルナーは“海軍”という言葉をオスカーに伝え、創設の意思を語った。


「新たな軍を作られるという事ですか?」

「正確には分ける形になる。オスカーに任せている兵士達を中心に、さらに今の兵士達から選抜して船舶専任の部隊ができると思って良い。船が増えるのに合わせて人数も増えるがさしあたって一千名を考えている」

「せ、千名……」


 敵性によって多少の増減があるものの、今オスカーが率いている部隊は大凡五十名。それが二十倍に膨れ上がった数字だ。

 将の肩書を持つ者が率いる最大の人数であり、それ以上となると複数の将が率いる連合軍となる。通信手段に乏しいこの世界では、それ以上では部隊としてまとまりある動きなどできないし、管理も難しい。


「勿論、船を動かすだけが仕事じゃないぞ。各所に作る港へ配属される警備兵や各軍船の管理も仕事に入る。今後船に関する何かがあれば、全てその仕事は海軍が行う事になるだろう」

 ヴェルナーは今の軍トップであるミリカンはそのままで、その下にそれぞれ陸海の軍を率いる大将を置くという組織図を考えていた。ちなみに、近衛であるデニス・ジルヒャーは軍組織の外に置かれ、ファラデーやイレーヌといったヴェルナーが選抜した複数の騎士は彼の部下、近衛騎士としてデニス同様軍の組織図からは外れる。


 陸軍の将については人選が終わっていない。他国との戦闘における実戦部隊となるため、実力や指揮官適正の他に性格も重要になるのだ。ミリカンとオットーが候補を出しているが、まだ決定には至っていない。

「二つ、意見を聞きたい」

「はっ!」


「千名の兵士の八割、八百名にスドとの往復が出来る程度の操船技術を教え込むのにどれくらい期間がかかると思う」

「八百となると……適正にもよりますが、半年もあれば問題ないかと」

「随分と短いな」

 想定以上に早い結論に、ヴェルナーはその理由を尋ねた。


「すでに軍務についている者たちであれば基礎体力はついております。オールを操るのも実のところはそう難しい事ではありません。問題は号令をかける者の指示に合わせて、他の者と一体となって動けるかどうかにあります」

 船酔いに関する事は、ヴェルナーも知っている事だろうとしてオスカーは省いた。

「陸上でも息を合わせる訓練は可能ですので、交代で船を操るようにすれば問題ありません」


 数ヶ月の訓練の間に、オスカーはバンニンクやタイバーから吸収した訓練法をあれこれと試したらしく、一定のカリキュラムまで作っているようだった。色ボケの評価が強かったヴェルナーは、想定外に優秀で熱のこもった仕事ぶりに驚いた。

 尤も、ある程度はバンニンクと過ごす時間が長い事も影響しているのは間違いないだろう。

「では、もう一つ」


 ヴェルナーは人差し指を立てた。

「千名の、それも複数の任地にばらけた部下を指揮するに必要な能力とはなんだと思う?」

「そうですね……各地の情報を収集し、適切に仕分ける事務能力でしょうか。私であれば、訓練も兼ねた往復便を作ったり、任地を定期的に変更するようにします」

 そうする事で人と一緒に情報も巡る事になり各地の監視にもつながる、とオスカーは言う。


 彼の言葉を聞きながら、ヴェルナーは腕を組んで目を閉じていた。思い出されるのは帝国内にいたオーラフだ。ああいうのは長く同じ場所で権力を持っていると発生するとヴェルナーは考えていた。

 オスカーがいう転勤方式は悪くないと思われる。

 いずれにせよ完全な不正の監視は難しい。今できる方策はこの程度だろう。


「では、オスカー・ルーデン」

「はっ!」

「お前を海軍大将に任ずる。ボー・バンニンクをラングミュア王国兵の一人として組み込み、副官としよう。ラングミュアに戻るまでに今回チェックした場所の工事計画と人員の配備計画、それと訓練スケジュールを作っておけ。バンニンクと共に王都へ同行しろ」


 つらつらと並べられた命令に、オスカーはキョトンとしている。彼自身は騎士の中では中堅でしかない。それが大将格に抜擢されるとは思っていなかったようだ。

「どうした? 断るなら早く言え。人選し直す必要が出てくる」

「えっ……ああ、いえ。断るなどとんでもない! あ、ありがとうございます!」

 涙をいっぱいに溜めた目で胸を叩いて敬礼するオスカーは、大役に臨んで気おくれはしていないようだ。


「タイバーはヘルマンの補佐にする。そのヘルマンは技術部からの出向で海軍属扱いにするからな。……副官がバンニンクだからと言って、職場で妙な真似をするなよ」

「……」

 視線を泳がせるオスカーに、眉間を押えたヴェルナーは口を開いた。

「即答しろよ! ……実績ができれば、バンニンクを騎士爵に引き上げる事もできる。そうすれば結婚するのにお前の親も納得しやすくなるだろう」


 騎士爵への引き上げは、そのままヴェルナーからの信頼を得たのも同じだと騎士を始めとした貴族や兵士たちは感じていた。

 もちろん、貴族に成れるという部分も大きいのだが、ヴェルナー戴冠後の組織改革の中で誰もが良い地位を目指している中で、頭一つ飛び出す機会でもある。事実、騎士爵に引き上げられたファラデーたちはエリートである近衛に組み込まれている。


 そんな新興騎士に、外国人であるバンニンクが成れたとすれば、爵位以上に貴族社会では大きく評価を受けた者と取られるだろう。

「陛下……!」

「約束をしたわけじゃない。全てはお前やバンニンクの仕事を見せて貰ってからの話だ。わかったらさっさと作業にかかれ。バンニンクにはお前から伝えるように」


「はっ! 失礼します!」

 軽やかな足取りで退室するオスカーに少々不安を覚えつつも、ヴェルナーはとりあえず準備は進んでいる事に大きく息を吐いた。

「後は陸の方だな。ミリカンが“心当たりがある”とか言っていたが、さて……」

 ミリカンは信頼しているが、彼が選ぶ人物が当たりとは限らない。


「ラングミュアに帰れば会えるだろう」

 レオナの件もあり、あまり期待しないでおこうと思ったヴェルナーだった。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


今回は少し短くなってしまいました。申し訳ありません。

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