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25.後始末へ

25話目です。

よろしくお願いします。

 ヴェルナーはマーガレットとエリザベートを、ヘルムホルツ帝国の騎士たちと共にマーガレットの自宅であるフラウンホーファー侯爵邸へと使用人用の裏口から避難させた。

 同時に侯爵邸から兵を借り、城内をまとめるのを手伝ってもらうことにする。

 侯爵の私兵たちが来る前に、ヴェルナーはアシュリンとイレーヌを連れて、城内を駆け回って残党狩りを続ける。


 同時に、城内に残っていた貴族や騎士たちには王の死を伝え、謁見の間に集まるように伝えて回る。

 中には信じられない、とヴェルナーを軽んじて話を聞かないものもいたが、そういう連中は無視していく。

「信じられないというのは、わからなくもないけれど」


 イレーヌの言葉に、ヴェルナーは苦笑する。

「確かにな。だが、自分が予測できる範囲の外や、言っている相手次第でこういう反応をする奴は少なくない」

「しかし、ヴェルナー様はこの国の王子です。だというのに、あのような態度ができるとは。一体何を考えているのでしょうか?」


 ヴェルナーは、アシュリンの憤りを宥めるように言う。

「何も考えていない……と言いたいところだが、彼らにも行動原理はある。それは権力の在処を見極めるということだ。つまるところ、偉いと思っている相手を選んで、その人物に付いておけば安泰というわけだな」

「そして、ものの見事に外しているというわけね」


 アシュリンもイレーヌも、ヴェルナーが王権を奪取するという話をしたときに驚きはしたものの、あっさりと受け入れることができた。ごく単純に考えて、それが一番良いことだと思ったからだ。

 そうこうしているうちに、最も損傷が激しいホールへとたどり着いた。

「うわあ……」


 イレーヌが声をあげたが、破壊の状況から誰がやったかわかったらしく、それ以上は言わなかった。

 まだ戦っている騎士たちがいたが、アシュリンとイレーヌが参戦し、またヴェルナーもナイフを抜いて戦ったことで、残党もすぐに片付いた。

 ホールで戦っていた騎士は多くが騎士爵などの下級貴族が多く、ヴェルナーが伝えた事実に驚きつつも、彼に従うことを了承した。


 ホールにある瓦礫や死体はさしあたってそのままで、少数の番を残して戻ってくる貴族や到着予定のフラウンホーファー兵を迎えるために残すことになった。

「残りは、城内を確認して騎士や兵士、侍女たちをすべて謁見の間へ。数は減っているから、全員入るだろう」

 反乱側の生き残りがいたら、抵抗するなら殺し、投降するなら捕縛して連れてくるように、とヴェルナーが命じたところで、ホールの瓦礫から声が聞こえる。


「おおい! 誰かいないか!」

「生き残りか!」

 崩れた階段の下、瓦礫の隙間から聞こえる声に全員が駆け寄り、主にアシュリンがその力を使って軽々と瓦礫を片手で投げ捨てていく。

「すげぇ……」


 誰かの驚愕する声が聞こえたころ、一人の騎士が顔を見せた。

「助かった……これは、ヴェルナー様ではありませんか!」

「デニス・ジルヒャーか。よく生きてたな」

「先祖代々受け継いだ鎧のおかげです」

 引きずりだされた騎士デニスは軽傷で、仲間の騎士たちと笑い合っている。


 ヴェルナーが城を掌握するために動いている話を聞くと、デニスはふらつきながらも立ち上がり、胸を叩いて敬礼を行う。

「畏まりました。デニス・ジルヒャー、殿下のためにさっそく行動します」

「怪我は大丈夫か?」

「昔から頑丈な性質ですので、問題ありません」


 どうやら魔法というわけではなく、純粋に昔から怪我をしにくいらしい。

「それは良かった。デニス、お前が生きていたのは俺にとっても幸運だったと思う」

「はっ! 光栄です!」

 それから城内の騒動が完全に鎮静化し、簡単に片づけられた謁見の間に城内の生き残りが集まったのは二時間ほど後のことだった。


 そこでヴェルナーは一時的に王権を引き継ぐことを宣言した。

 マックスについてはまだ触れず、あくまで緊急時の指揮を執るためであると説明することで動揺を小さくし、反発を抑える。

「なにはともあれ、まずは片づけだな」

 主にヴェルナーの爆薬による被害が大きかったのだが、侯爵からの応援もあり、数日で城内は落ち着きを取り戻した。


 ようやく城内の被害が収まり、王の葬儀が行われる準備に入れるかというところで、マックスからの先触れが城へと届いた。

 マックスとカール・ブシュケッター大将が率いる軍が、一時的に戻ってくるということだ。文面から、どうやら王都の状況を聞いて慌てて戻るようだ。

「到着は七日後予定か……」


 ヴェルナーは、国を握る最後の仕事を前にして不敵に笑う。


●○●


「ラングミュア王都の火災騒動は三十軒の貴族屋敷を全焼させ、十軒弱を半焼させたようです。城内は一時の混乱も収まり、第二王子ヴェルナー・ラングミュアの指揮によって急速に状況は収束しました」

「やってくれたか。やはり、ヴェルナー殿は期待通りの男だった」

 報告を聞いて、スド砂漠国王子ミルカは手を叩いて歓喜の声を上げた。


 その様子を見て、報告の内容を読み上げた護衛の女性は首をかしげた。

「しかし、城内の被害は甚大で、多くの美術品が失われており、階段など構造物も相当の被害が出ているようです。下級貴族や民衆の力というのは、馬鹿にできません」

 貴族街の炎上や王城での騒動に関し、ヴェルナーは王都内の各所に状況を知らせる立札を立て、告知を読ませる者を雇って配置した。


 告知内容としては、一部の暴動により“王城と貴族だけ”被害を受けたとされ、一部の工作により城も損壊を受けたが問題は無いというものだった。

 王の死については触れられていない。

「城を破壊できるような魔法を使える者などそういない。ヴェルナー殿は自分の能力をまだ城内の者以外には教えたくないのだろう」


 体良く反乱者に責任を押し付けたことに、ミルカはにやりと笑う。

「あいつはなかなかずるい男だな。だからこそ、余が協力してやった反乱をも利用して城の最上位者の位置を掴めたのだ」

 機嫌よく酒杯をあおるミルカは、以前も投宿したマルコーニ子爵の屋敷にいる。

 ヴェルナーとの接触後、王都を離れたミルカは帰国しなかった。王都に監視を置き、マルコーニ子爵領でのんびりと状況を観察していたのだ。


「それで、例の馬鹿な方の王子はどうした?」

「はい。予定通りに正面からはぶつからず、夜襲と挑発を繰り返して人数を三分の二ほどに減らしております」

「では、もう兵は国へ帰せ。余が労いの言葉を口にしたと伝えよ」

 一礼した護衛が出ていくのを見届けると、ミルカは目を閉じて背もたれに体を預けた。


「新たな王に贈り物をせねばならんな。さて、何が良いだろうか……」

 うとうとと心地よい眠気に身を任せながら、ミルカは呟く。

「そうだった。女を贈る約束をしていたな。約束は果たさねば、な……」


●○●


 マックスの帰着予定を知ったヴェルナーは、王都にいる貴族たちを集めた。

 会場は彼の誕生日パーティーが行われたダンスホールだ。当時のような飾りはなく、片隅には城内補修のための資材が積まれているような状況だ。

 集められた人々の中にはヘルムホルツから来ているエリザベート・ヘルムホルツ王女もいる。他にはエックハルト・フラウンホーファー侯爵や娘のマーガレット、そしてヴェルナーと弟ミエリオの母親である第二王妃アロイジアもいる。


「一体何をするつもりなのですか、ヴェルナー」

 そう言ったのは、マックスの母である第一王妃ユリアーネだった。彼女は城内にて王の死を知らされてしばらくは自室に籠っていたのだが、数日経ってようやく顔を見せるようになった。

 その間にマックスへ急を知らせる手紙を送ったようだ、とヴェルナーはオットーから知らされている。


「あなたは王太子ですらない立場でありながら勝手を行っていることを恥じなさい。それに、マックスが戻ってきたときにしっかりと迎える準備をしなければなりません」

 ラングミュア王国では女性に統治権が与えられることは仮でも存在しない。王族も貴族も、その当主としての権利は男性でなければ与えられることはないのだ。

 そういう意味で、緊急時である現状国内での執政を行う権利はヴェルナーにあるのだから、王妃ユリアーネの非難は的外れでもある。


 ヴェルナーの実母であるアロイジアは、まだ七歳のエミリオと並び、その小さな手をしっかりと握って不安げな表情を見せている。

「兄であるマックスが王都へ戻っている途上である、という知らせがあった」

 あえてユリアーネを無視する形で、場にいる者たちへ向かってヴェルナーは口を開いた。

「六日ほどで到着する予定のようだ」


 ざわめきが広がる。中には喜びの声を上げている者がいるが、下級の騎士たちはあからさまに暗い表情を見せている。王への特攻を敢行したコンラート・ケッシンガー準男爵の例にもあるように、やはり下級貴族に対するマックスの態度は常軌を逸していたのだ。

「だが、俺はマックスを城に迎え入れるつもりはない」

「どういうつもりですか!」


 ヴェルナーの言葉に大きなざわめきが広がり、同時にユリアーネが立ち上がる。

「マックスを排除して、俺がラングミュア王国の王になる。これは決めたことであり、反論は受け付けない」

「何をトチ狂ったことを言っているのですか! これは反逆です! ヴェルナーを捕えなさい!」


 叫ぶユリアーネの声に、一部の騎士は戸惑いながらも踏み出そうとしたが、同僚に止められた。

 そして、フラウンホーファー侯爵の拍手が響く。

「私はヴェルナー殿下……いや、陛下が次代の王として立つことを支持する」

 娘を王妃にするためか、などと非難の声が響くが、その数は少数だ。


 騎士が動かないことに困惑するユリアーネを横目に見たヴェルナーは、侯爵に一礼して口を開いた。

「俺は公平な人間だと自負している。帰ってきたマックスを迎え入れたうえで暗殺することは難しくない。だが、その方法は使わない」

 暗殺という言葉に、立ち上がって興奮していたユリアーネは力なく座った。


「そこで、だ。俺はマックスに地位をあきらめてどこかで静かに暮らせという手紙を送った。それで納得して身を引いてくれるならありがたいのだがね」

 肩をすくめるヴェルナーに、ユリアーネが叫ぶ。

「そんなこと、認められるわけがないでしょう!」

「その通りですね……それに、いきなり私が王となっても納得しない者も多いでしょう」


 粉々になってしまった玉座が据えられていた場所に立ち、ヴェルナーは全員を見回した。

「君たちに三つの選択肢を用意した。一つは俺の下につくこと。二つ目はマックスの味方になること。三つ目は傍観者になることだ」

 そして、ヴェルナーは明言した。マックスが提案を受け入れない場合は、正面から戦うことを。

「さあ、選べ。ラングミュア王国の歴史に残る一戦に参加するか、日和見を決め込むのか」


 翌日には、マックスに味方すると決めた貴族たちが王都を後にし、どちらにも味方しないことを決めた者たちは自分の屋敷に籠って状況を見守る姿勢をとった。

 そしてさらに翌日、ヴェルナーに味方すると決めた貴族たちや王国騎士たちが王都の外で隊列を作っていた。

 ヴェルナー自らが、その先頭に立つ。


「では、侯爵。留守を頼みます。マーガレット、すぐに帰ってくるからエリザベートとゆっくり過ごしていてくれ」

「お気をつけて、ヴェルナー様……」

 武運を祈る、とキスをもらったヴェルナーは、号令をかけて軍を進める。

 兄を討つための、そして王国を完全に掌握するための戦いに向けて。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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