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24.結論は爆発で

24話目です。

よろしくお願いします。

「なんという……」

 絶句している王の前でヴェルナーはさらに数回の爆発を起こすと、出入り口周辺に固まっていた造反者たちは残らず吹き飛ばされた。

 近衛騎士と切り結んでいた者たちも、あまりの状況に動きが止まっている。

「何をしているか!」


 ヴェルナーの大声が謁見の間に響いた。

「敵は動きが止まっている! さっさと排除しろ!」

 ようやく我に返った近衛騎士たちは、先ほどまでの元気をどこかに落としてしまったようで完全に萎縮してしまっている相手を次々に討ち果たしていく。

「では、父上。私は他の方々の無事を確認して参ります」


「待て」

 口調が戻ったヴェルナーが謁見の間を辞する旨伝えると、王は短い言葉で引き留めた。

「今の爆発は……ヴェルナー、お前の魔法か」

「ええ、そうです」

 じっとヴェルナーの顔を見て、王は口を開いた。


「……今回の件はお前の手柄とする。しかし詳細は公表せず、その魔法についても口外を禁ずる。その力、二度と使ってはならん」

 この場にいた近衛たちにも口止めをする、と王は言う。

「理由を聞かせていただきましょう」

「余計な事を考える者が出ないようにするためだ。マックスの事を考えれば当然の処置であろう。理解できぬお前ではあるまい」


 王が言いたい事はヴェルナーにも分かった。

 ヴェルナーの能力が高く、また大きな成果を上げたとなれば問題の多いマックスを廃嫡し、ヴェルナーを担ぎ上げる勢力が現れる可能性は高い。王はそれを危惧しているのだ。

「そこまでして、マックスを王にする理由があるのか?」

「先ほどもそうだが、口の利き方に注意せよ。余はお前の父であり、また王である」


 ヴェルナーはしばらく待っていたが、王はそれ以上何も言わなかった。伝えるべきは以上だとも言いたげに手を振ってヴェルナーの退場を促す。

 その時、また一人の人物が謁見の間に現れた。

「……失敗したか!」

 一人の貴族らしき男性であり、片手に抜き身のサーベルを持っていた彼に一人の近衛騎士が近づき、問う。


「失敗とはどういうことだ?」

「私が手引きして門を開けさせ、これだけの人数を城内に入れたと言うのに……」

 男は王を指差し、吠える。

「王がまだ生きている! これでは何の意味も無いではないか!」

 不敬な、と近衛騎士たちが男を捕縛しようとした瞬間、遠くから爆発音が聞こえた。


 それに反応して萎縮した騎士たちの動きが止まると、男は騎士たちの間を走り抜けて王へと迫る。

 必死に追いすがった騎士たちに取り押さえられ、男は床に這いつくばりながらも王を見上げ、睨みつける。

「お前は誰か」


 つまらないものを見るような目で王が尋ねると、男は準男爵コンラート・ケッシンガーと名乗った。

「準男爵風情が……余に刃を向けようとはな」

「同じ事を、お前の息子も私に言った!」

 コンラートはマックスの腰巾着の一人であったが、自領と家格を馬鹿にされ、結果として排除された人物だった。


 父親の危機ではあるが、ヴェルナーは冷静に状況を見ていた。

「なるほど。ようするにマックスの傍若無人が今の状況を呼んだのか」

 スド砂漠国王子ミルカは、元々繋がりのあるマルコーニ子爵あたりからのつながりでコンラート・ケッシンガー準男爵の事を知り、利用したのだろう。

「ヴェルナー、控えよ」


 父の言葉に、ヴェルナーはいきなり玉座を蹴飛ばした。

 重い玉座はびくともしないが、王は不機嫌を露わにヴェルナーを睨みつけた。

「流石に頑丈だな……色々考えていたが、結局あんたは現実を見る事無く決まった方向以外を見て回る事も出来なかった。何が起きていて、何が変わっているのか」

「何を言っている。早く去れ」


 玉座がある壇上から下り、王へと振り返ったヴェルナーは優雅に一礼する。

「残念無念。俺をこのまま放っておいてくれるなら別に良かったんだが、俺に無茶苦茶な制限をかけようと言うのであれば、俺としてもそれなりの対応がある。では、()()()()()

 王に背を向け、離れていくヴェルナーを王も近衛騎士たちも目で追っていた。


 ふと立ち止まったヴェルナーは、抑えつけられたまま呻いているコンラートを見下ろした。その相貌は貴族とは思えぬほどに荒々しいものになっていて、目には理性が見えない。

「狂ったか……ケッシンガー準男爵。貴方の境遇には同情もするが、今少し冷静であり、ほんの僅かでも違う方法を考える視野の広さがあれば、こうはならなかっただろう」

 答えは期待していないと言いたげに、すぐに視線を外してヴェルナーは謁見の間を出て行った。


「陛下。この者は王を狙った大逆犯。ですがこの場を血で汚すのは……」

「お前の良いようにせよ……ん?」

 王は、先ほどまでヴェルナーが立っていた場所、玉座の横に何かが置かれているのを見つけた。

「これは……?」


 王は思い出すことは無かった。

 ヴェルナーが十歳の誕生日で、多くの招待客の前で見せた粘土の事を。もし、彼がしっかりとその事を覚えていて、すぐに逃げ出していれば結果は違ったかも知れない。

 事実、ヴェルナーはそれだけの時間を、猶予を王に与えた。

 しかし、結果は彼の予想を超える事は無かった。


 人間の頭部程の大きさがあるプラスティック爆薬は、瞬時に王をその紅蓮の爆炎に飲み込み、さらには近衛騎士隊をコンラートと共に消し炭へと変えた。

 巨大な爆発は謁見の間に在る調度品を焼きつくし、全ての窓も扉も破壊する。

 衝撃は周囲に広がり、玉座の背後にあった石壁を吹き飛ばし、そこに待機していた護衛を瓦礫の下へと埋めた。


 王は死に、ある意味では反逆者たちの希望は叶ったと言える。

だが、その後に来るのは民主的な政治体制などでは無い。

 ヴェルナーはここで、自らが王となる事を宣言し、反対するであろう貴族たちと戦いながら、マックスを実力で排除する事を余儀なくされた。

 ラングミュア王国は、これから王子同士の戦いへと突入することになる。


●○●


 王は死んだが、その知らせが行き届くには時間がかかる。

 城内ではまだ各所で戦いが続いており、どちらの勢力も指揮系統が現状存在しない。反乱側はとにかく城内で破壊を行いながら高位貴族を狙って城内を駆けまわっている。

 対する城内の警備は重要箇所のみに集中している状況であり、それぞれの受け持ち場所以外には移動しない。


 そんな中、大きな爆発を起こした廊下では、反乱側の騎士たちが悶絶しており、爆風の影響を受けたヘルムホルツ騎士たちもフラフラになっている。

「やっば……」

 二人でかき集めたプラスティック爆薬を、アシュリンが敵側背後に投擲し、イレーヌの雷撃で起爆したのだが、予想以上に爆発が激しく、イレーヌは内心焦っていた。


 幸い、敵騎士の身体が盾になったおかげでヘルムホルツ騎士たちは大きな怪我は負っていないようだが、衝撃で眩暈がするのだろう。まだ膝をついている。

「イレーヌ。これはやりすぎだろう……」

「し、仕方ないわよ。あたしだって威力と量の関係まで知らないもの」

 アシュリンからの非難する目に、イレーヌは舌を出して自己弁護する。


 ちなみに、今イレーヌが起爆した分が、ヴェルナーが謁見の間にいるとき近衛騎士達の足を止めた爆発だった。

「自分も安易にイレーヌの案に乗った。怒られるときは自分も一緒だ」

「あんまり慰めになってないけど、ありがとう」

 それよりも、とイレーヌは雷撃に使ったサーベルを構え直した。


 廊下は両方からまだ敵が来ているのだ。

「あたしはこっち。アシュリンはあっち」

「わかった」

 ヘルムホルツ騎士の向こうから来る敵をアシュリンに任せ、イレーヌはエリザベートの部屋の前へと駆け戻る。


 すぐに二発の雷撃を放ち、敵の足止めをするが数が多い。雷撃で三人を倒したが、その死体を乗り越えるようにして迫ってくる者たちは、後ろから押されるようにして狂騒に包まれた様子だった。

「あったまおかしいんじゃないの?」

 ちらりと後ろを見ると、何とか立ち上がったヘルムホルツ騎士たちと共に、アシュリンも獅子奮迅の戦いをしている。


 悪い事は重なる。

「先ほどの爆発は!?」

 と、エリザベートの部屋から黒い鎧を纏ったマーガレットが出て来たのだ。

 場所も悪い。イレーヌと敵の丁度中間だ。

「マーガレット様! 危ない!」


 急いで走り始めたイレーヌだったが、足の速さでは大人の男には流石に勝てない。マーガレットに迫る敵は騎士では無く平民たちだったが、その手に剣や棍棒武器を握りしめている。

「うおおおお!」

 相手が女の子だと言う事はお構いなしで、狂乱の雰囲気を纏った敵はそのままマーガレットへ向かって武器を振り下ろした。


「ていっ!」

 勇ましいとはとても言えないマーガレットの掛け声が聞こえると、彼女の周囲に近づいていた大人たちが揃って飛んで行く。

「……はい?」

 信じられない光景を見たイレーヌは、まだまだ近づいて来る敵に対して攻撃するのも忘れ、マーガレットの動きに釘付けになっている。


 イレーヌに見られている事に気付かないまま、マーガレットは凶悪なシルエットのモーニングスターを軽々と振り回し、一人を叩き潰して一人を弾き飛ばした。

「とうっ!」

 さらには鎧の肩にある刃をしっかり利用したタックルを行う。それも体格からは考えられない程の威力があるようで、血を吹き上げながら敵は転がって行った。


「マーガレット様!」

 ようやく我に返ったイレーヌが守る様に立つと、マーガレットはホッとしたように息を吐いた。

「危ない真似はおやめくださいな!」

 敵集団に向けて雷撃を数発放ったイレーヌは、さらに目に見える壺いくつかにも撃ち込むと全て爆発し、完全に敵の足を止める事に成功した。


「助かりました。流石に実戦は初めてでしたから」

 肩で息をしているマーガレットは、近くで見ると震えているのが分かる。相手が平民であったから良かったが、本職の騎士であれば斬られていただろう。

「私の戦いは如何でしたか?」

 ヴェルナーの目標を知ってから、マーガレットは自らの能力である軽量化魔法をしっかりと習熟していた。


 重い鎧もモーニングスターも軽々と振り回せる彼女は、訓練を行う中で攻撃の瞬間だけ本来の重量に戻すという技術を覚えたらしい。

「これで、私もヴェルナー様の隣で、同じ目標を目指す事ができるでしょうか?」

 不安そうに聞いてくるマーガレットに、イレーヌは脱力する。

「きっと問題ありませんよ。あたしの時よりもずっと立派な戦い振りだったもの」


 安堵するマーガレットに、イレーヌは一つ納得するものがあった。

 戦う理由がちゃんとあれば、人はそれだけ強い心を持てるのだろう。

「手っ取り早いのはマーガレット様みたいに素敵な殿方を見つける事なのだけれど……」

 と、戦闘中に暢気な事を考えていたイレーヌは、爆発の影響を越えて再び進み始めた敵を前に再び身構えた。


 だが、戦闘はすぐに終わる。

 小さな爆発がいくつも続いたかと思うと、廊下を塞いでいた敵は残らず爆散した。

 幾つもの死体が数も分からない程にはじけ飛び、血肉に濡れた道を駆け抜けて来たのは、ヴェルナーだ。

「大丈夫か? ……っと、マーガレット。君も戦っていたのか」


 驚いた顔をしながらも、ヴェルナーは軽い足取りでマーガレットとイレーヌの横を通り過ぎていく。

「王は死んだ。これからは俺が良いように国を動かすぞ」

 何を言われたのか、イレーヌは一瞬わからなかった。

 その間に、ヴェルナーはプラスティック爆薬を投擲してヘルムホルツ騎士やアシュリンが対応している敵も始末する。


「……ど、どういう意味ですか?」

「そのままの意味だ」

 弾かれた指に呼応するように爆発が連続して続き、すっかり敵がいなくなった廊下は凄惨の一言だった。

「俺がこの国の王になる。……悪いが、イレーヌ・デュワーもアシュリン・ウーレンベックも、もう少し付き合ってもらうぞ」


 なるほど、とイレーヌは納得した。

 ヴェルナーについて行けば、戦いの場に困ることは無さそうだ、と。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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