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177.救出策

177話目です。

お待たせして申し訳ございません。


そのあたりの理由も含めて、あとがき及び活動報告にて告知がございます。

「乱戦になっちまったか」

「はい。ですが大崩れしているわけではなく、兵たちは善戦しております。このまま正面からでも押し切れるとは思いますが、敵の出方に不安があります」

 歯噛みするヴェルナーへ進言したミリカンは、敵が真正面から何の策も無くぶつかって来たかのように見えていることに疑問を感じていた。


 それはヴェルナーも同じだ。

「それ以前の問題だ。こっちの部隊はなぜ動かない? デニスやイレーヌは何をやっている」

 相手の動きが読めないからこそ、出方を見てから次の行動を決めようと考えていたのだが、最初の行動指針からすでに機能していない。


 本来の予定であれば、すでに側面攻撃が始まって敵を圧迫しているはずだったのだが。

「イレーヌのことですから、何か問題があったとしか……」

「わかっている。誰も彼女が命令に背いているとは考えていない。しかしな」

 ヴェルナーの護衛兼、爆薬投下係として傍にいたアシュリンが慌てた様子でイレーヌをフォローすることばに、ヴェルナーは嘆息と共にその頭を撫でた。


「その“何か”がわからないのが問題なんだ」

 前世で使っていた無線などの通信装置がどれだけ有用であったか、ヴェルナーは骨身にしみていた。

 今の時点では狼煙以上の連絡手段を確立できていない以上、いくら焦っても情報は待つしかない。


「ですが、このままではこちらの消耗も無視できません」

 ミリカンが言う内容に、ヴェルナーは頷きで返した。

 ラングミュア王国側が優勢と言っても、まったく損害がないわけではない。戦闘が長引けばそれだけ犠牲者も増えるだろう。

「……非常対応策を使う。アシュリン、遠投の準備をしてくれ」


「陛下!?」

 ヴェルナーの宣言に、アシュリンは思わず問い返してしまった。

 彼が言っている策というのは、ブルーノが発見できない際にはアシュリンが投げ込んだ爆薬で敵を混乱させ、戦闘を優位に運ぶ、あるいは戦意を喪失した敵を追い返すというものだ。


 ブルーノは何としても助けるものだと思っていたアシュリンは、それに驚いてしまったらしい。

 だが、ミリカンは狼狽える彼女の背中を叩いて止めた。

「よさぬか。現状を考えれば仕方の無いことだ。このまま前線の兵士たちがいたずらに損耗することよりも、今は一刻も早く戦闘を終わらせることが肝要だ」


 必ずしもブルーノが巻き込まれるというわけではない、とミリカンは語る。

 だが、それは裏を返せばブルーノが巻き込まれる可能性もある、と言っているようなものだ。

「アシュリン、気が進まないなら……」

「い、いえ! ……申し訳ありませんでした、自分は……自分が、やります」

「……わかった」


 一抱えはある量のプラスティック爆薬をヴェルナーから渡され、アシュリンは大きく息を吸い込んでから、投げやすいようにぐにぐにと丸く成型しなおして、右手に構える。

「敵の中央当たりに落ちるように投げてくれ」

「はっ!」

 短く答えたアシュリンは、兜をしっかりと着けなおすと、ぐい、と右腕を大きく後ろにしならせた。


「っせいっ!」

 掛け声と共に投擲されたプラスティック爆薬は、勢いよく戦場の空を飛んでいく。

 誰もそれに気づいた様子はない。戦いの最中、頭上を飛んでいくものに目を向けるような余裕など、誰も持っていないのだろう。

「さて……」


 今回は地面に埋めたり、特殊な形状に成型したりした場所での爆発ではない。

 ヴェルナーは落下と同時に起爆すべく、右手を差し出して指を弾く用意をしていた。ミリカンと同様、投擲を終えたアシュリンもヴェルナーの様子を注視していた。

「お待ちください! 味方に動きが有ります!」

「なに?」


 その声はアシュリンと共にヴェルナーの護衛に当たっていた騎士のものだった。彼が指差しているのは、ヴェルナーが陣を強いている場所から見て左側、デニスたちが兵を隠して待機していたあたりだ。

「ようやく始めたか。しかし、これでは混戦が続くばかりだな」

「いえ。動きが妙です。敵を包囲するというよりは、突破を図っているかのような……」


 ミリカンは手庇を作って遠くを見ながら、騎士が指差していた方角を確認して呟いた。

「人数も、本来の数より増えているようにみえますな」

「増えている? 逆側にいたイレーヌの隊と合流したのか?」

 でなければヴェルナーが率いる本隊の他に、ラングミュアの軍勢はここに居ないはずだ。いたとしても、待機しているマーガレットたちと輜重隊、そしてその護衛部隊くらいだ。


「しかし、突破だと? 一体何が起きている?」

 疑問符を浮かべたヴェルナーの下へ、イレーヌが送った伝令が到着したのは直後のことだった。


●○●


 イレーヌたちと合流したデニスが、敵中央への突破攻撃を慣行したことについて、この時代では『命令違反』とは取られない。

 通信技術が発達していない以上、その場にいる者の中で最高位の指揮官が変化する状況から最善の方法を判断するのが一般的であるからだ。

「だからと言って、無茶が過ぎるとは思わないか!」


「無茶も承知! でもここで退いたら陛下も危険になります!」

 デニスの叫びに、イレーヌも負けじと大声で返していく。

 彼らは自分たちに割り振られていた兵士たちを率いて、イレーヌが連続で放つ雷撃を追いかけるようにして敵の中央部に大穴を開けて突撃を敢行していた。

 目標は、敵の中央部に見える箱馬車だ。


「やはり、私は方向転換すべきではないかと思うんだが……」

 合流した部隊における最高位の騎士はデニスであり、最終決定権は彼にある状況だが、策はイレーヌが提案したものだった。

 デニスはプラスティック爆薬については知っていても、火薬について精通しているわけでもない。馬車の中に火薬があると知らされても、その扱いについてはわからない。


 そのデニスに、イレーヌは二択を迫った。

 彼女の雷撃によって馬車ごとブルーノを吹き飛ばすか、あるいは敵中央を無理にでも突破してブルーノを救出するか、の二択を。

 デニスにもイレーヌにも、ヴェルナーの危機をそのままにして、間に合うかどうかわからない伝令に全てを託すという選択は無かった。


 危険性を考えれば、イレーヌの雷撃による爆破処分が一番なのだろうが、デニスは騎士としては甘いのだろう。後者を選択した。

 しかし、それでも不安はある。

 特に目の前でイレーヌがバシバシと放つ雷撃についてだ。

「やり過ぎではないか?! もしそれが馬車に当たったら……」


「そんなに下手ではありません! それ、道を開けなさい! 開けないなら黒焦げになりなさい!」

「だが、兵士たちも不安に……」

「うふふふふふ……黒い死体が積み重なる……あたしが作る美しい死体で、戦場に漆黒のラインを引いて見せるわ!」


 完全にハイになっている様子のイレーヌから目を逸らし、デニスはもう触れないことにした。少なくとも、イレーヌの動きを止められるような実力を持っている者はデニスを含めてここにはいないのだ。

「赤い死体になりたいなら、あたしの前に出て来なさい!」

「……全員、彼女の後方から左右をカバーして敵の攻撃を防げ。殺す必要は無い、道さえ開けて、充分な広さが取れれば良い」


 淡々と指示を出しながら、デニスは敵兵たちの向こうにわずかに見える箱馬車の屋根を見ていた。

「ブルーノめ……。無事に助け出したあと、陛下にたっぷりと絞ってもらうからな」

 ついでに、戦場でのイレーヌについても念のため伝えておこう、と剣を振りぬいて一人の敵兵を斬り捨てながら、デニスは大きく息を吐いた。

お読みいただきましてありがとうございます。


告知の件ですが、本作『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く!』が

講談社様の新レーベルKラノベブックスにて書籍化することになりました。

イラストレーターは拝一樹先生です。

詳しくは講談社ラノベ文庫編集部ブログ等でご確認ください。


今後とも、拙作をよろしくお願い申し上げます<(__)>

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