157.戦いの後に思う
157話目です。
食品衛生責任者養成講習参加のため、短いです。
申し訳ありません。
酷い結果になった、とヴェルナーは身体のあちこちに負った軽いやけどの痛みに顔を顰めながら、先ほどまでの戦場を見回した。
今は五十名ほどの歩哨を立たせて、残りは被害状況の確認や怪我人の治療、そして死者の埋葬などを行っていた。
イレーヌやアシュリンも傷を負い、常に最前線にいたのに何故か無傷だったブルーノが主に指揮を執っている。
「陛下。ご無事で何よりです」
「お前も、な」
ヴェルナーは笑顔で返したが、デニスは奥歯を噛みしめて、顔を伏せた。
「……民間人を五名、死なせてしまいました。中にはまだ五歳にも満たない子も……」
「お前のせいじゃない」
「ですが……」
「全ては敵の罠を見抜けなかった。まんまと嵌った俺の責任だ。お前は俺の指示に従った。そして少しばかり、敵の方が悪辣さで俺の想像を超えていた」
デニスの肩を叩く。
「お前も怪我をしているじゃないか」
「この程度、どうということはありません」
鎧を外し、包帯を巻いた肩からはまだ血がにじんでいる。傷を縫い付けているようだ。
「休んでおけ。お前に倒れられたら困る」
「ですが……」
「休め」
有無を言わさずヴェルナーが命じると、デニスは一礼して自分の道具がある場所へと戻って行った。
見送ったヴェルナーはその場に座りこむ。
周囲の兵士たちが組み立て式の椅子を用意しようとするが、ヴェルナーは断った。
「良い。お前たちも休んでおけ」
ヴェルナーは一人、これからのことを考えていた。
「他の地域はどうなっているのか……」
情報が欲しい、とヴェルナーは思った。
衛星を使った通信や本部からの情報や分析がこれほどありがたいと思ったのは、この世界に来て何度目だろうか。
「へっ、当時は制服組の鬱陶しい指示だとしか思わなかったんだがなぁ」
軍事と娯楽が技術を進歩させる。
特に軍事において、有事の際には予算が青天井となる。人を殺すための研究であるということに目を瞑れば、研究者たちにとっては最高の環境を民衆の反感無く用意できる。
「だが、そのために戦争をするというのは本末転倒だ」
平和な時期が欲しい。
ヴェルナーはそう痛感していた。
「まだまだ、自分が欲しい国を作るのには時間がかかる。戦争で人間を減らされていてはそれも覚束ないな」
で、あればどうするか。
「……さっさと終わらせよう」
ヴェルナーは一部の部隊を呼び寄せ、本国へ連絡を付けるように命じた。
「帝国を降伏させる。そのために一斉に動かなくちゃならん。全軍をまとめる。報告書を持って集合するように伝えろ」
言葉にした内容を書きつけ、サインを書き入れた書類を伝令の兵士に渡す。
「俺もお前も、さっさと国に帰って飯を食って眠りたいところだけれどな。このまま帰って“はい。終わり”ってわけにはいかんだろう」
ヴェルナーの言葉に、その通りです、と兵士は答えた。
「決着はしっかりとつける。そうして大手を振って城に帰るんだ」
運ばれていく小さな死体を見ながら、ヴェルナーは吐き捨てるように言った。
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