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155.その身を晒して

155話目です。

よろしくお願いします。

 戦闘は、ラングミュア側のみが一方的な消耗をしているというわけでは無い。

 ギースベルトの命を受けて民間人を含む方の部隊を追う帝国軍。彼らはヴェルナーが率いるラングミュア本隊から猛追を受けていた。

 とはいえ、ヴェルナーの部隊も先ほど一部が分かれたばかりなので、足止めができるほどの攻撃はできていない。


「くそっ、乗って来なかったか!」

 ヴェルナーの誘導策に乗らず、民間人を追う方向へ向かった敵に対して、ラングミュア側としては追いかけざるを得なかった。

 デニスが率いる部隊は民間人を護衛している都合上、反転攻勢に出るわけにもいかず、盾を持った兵士を殿に据えて逃げ回るしかない。


 敵を追いかけるヴェルナーの本隊は、イレーヌの雷撃と、ヴェルナーの爆薬を使ってのアシュリンの投擲と爆破は強力だが、弓での追撃も含めてどうしても敵の向こうにいる自軍の存在は無視できない。

 混戦とまではいかないが、それでも敵をまとめて爆破する機会は訪れそうにない。

「ひどい戦いだ」

 ヴェルナーの言葉にイレーヌが「申し訳ありません」と答えた。


「いや、俺自身に向けて言ったんだ。お前はよくやってるよ……ん?」

 後方から声が上がり始める。

 振り向いたヴェルナーは敵の別動隊が、自軍本隊に対して側面から攻撃を仕掛けてきたことに気づいた。

「陛下、これは……!」


 イレーヌが声を上げると、ヴェルナーは苦々しい表情を見せた。

「俺を狙っているな」

 明らかにヴェルナーの場所へ向かって突撃をしてくる敵本隊。

「挟み撃ちをするつもりか?」

 そう考えたヴェルナーだが、前方にいる敵部隊は方向転換をする様子は無い。この世界の軍隊の常であるが、どうやら命令系統が崩れているらしい。


 連携が取れない。

 これは分隊同士が一つの戦場にいる状況では厳しい状況だ。狼煙や笛などで連絡する方法もあるだろうが、どうやらそれもうまく機能していないらしい。

「だが、そう楽観できる状況でもないな」

 自分を狙う敵の勢いは早い。そして前方で追われているのは民間人だ。巻き込まれれば帝国兵は区別なく殺すだろう。


 ヴェルナーは、先ほど敵を誘い込む方向へと向かわせた部隊へと目を向けた。

「気付いてくれたら良いのだが……いや、それじゃあ駄目なんだ」

 期待することも任せることも重要だが、無謀な願望は戦場では禁物だ。ヴェルナーは知っていたはずのことを忘れていた自分に嫌気がさした。

「危機というのは、本当に人間を焦らせるものだな」


 幸い、と言ってよいかどうかはわからないが、敵はこぞってヴェルナーを目指して迫ってきている。

 であれば、逆に後から来た敵の本隊を誘導するのは容易いはずだ。

 問題は、誘導している間に自分が殺されてしまわないかどうかという点にある。

 目立つようにしなければ誘導にならないが、あまりに無防備では矢の集中砲火を浴びるだろう。


「全体で動くべきだとは思うが……」

 先ほどの誘導に乗らなかった相手だ。

 完全な勝機が見えない限りはヴェルナーの誘いには乗らないだろう。

 ヴェルナーは一呼吸おいて、現状を整理する。

「先頭はデニスが率いる部隊だな」


 そして、帝国兵の一部隊がそれを追い、さらにそれを追うヴェルナーの本隊を、今や帝国の大部隊が襲撃しようとしている。

「二重三重の追いかけっこか」

 あとは、一部のラングミュア兵の部隊がヴェルナーたちから離れている。

 彼らはヴェルナーから受け取ったプラスティック爆薬を指定の場所へ埋設したあと、戦場を離脱する役割を担っていた。


 予定通りであれば、そろそろ埋設は完了しているはずだ。

「……良し。反転攻勢に出る!」

 アシュリンが何か言いかけてやめた。

 この判断はデニスらの部隊と彼らに守られている民間人を見捨てるに等しいからだ。

「アシュリン。言いたいことはわかるが、とにかく今は敵の足を止めることが重要だ。敵本隊を止めて敵将に撤退なり降伏なり命令を出させる」


 だから急がねばならない、とヴェルナーは言う。

「敵の動きは鋭いくさびのような陣形で俺をまっすぐに狙ってくる格好だ。これを受け止めるために俺は矢面に立って敵の戦闘を引き付ける。イレーヌとアシュリンは別行動だ」

「それは、危険です!」

 イレーヌの反対意見に対して、ヴェルナーは首を横に振る。


「命令だ。この戦いはお前たち二人がいかに早く敵将を討ち取るかにかかっている。……頼んだぞ」

「……わかりました」

「陛下……ご無事で!」

 イレーヌとアシュリンが連れ立って部隊をまとめるために離れると、ヴェルナーは残った護衛騎士たちと共に密集し、周囲にいた兵士たちに道を開けさせた。


「呼吸を合わせろ」

「はっ!」

 騎士たちの返答を受けると、ヴェルナーは剣を抜いて掲げる。

「ラングミュア王国国王、ヴェルナー・ラングミュアだ! 俺の魔法を知って尚、挑むというならかかってくるが良い!」


 名乗りが届いたののだろうか、ヴェルナーには敵の足が一層速まったように見えた。

「さあ、来い。お前たちが目指す大将首はここにあるぞ」

 前線の空気を前進でびりびりと味わいながら、ヴェルナーは敵の矢が周囲に届き始めても、ギリギリまで動かずに敵を待っていた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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