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151.足枷として

151話目です。

よろしくお願いします。

「ほう、そうか」

 ギースベルトは部下からの報告を聞いてほくそ笑む。

 以前の戦闘で鹵獲していたラングミュア兵の装備を着せた密偵に偵察させることに成功し、ヴェルナーが特に子供に対する非道に怒りを覚えているという情報を掴むことに成功したのだ。


 ヴェルナーの暗殺も狙えるかとも思ったが、事を急いて失敗し、情報も得られないでは本末転倒であるとして偵察のみにしたのが功を奏した。

「ならば、連中を釣り上げるのに駄目押しとして使える物が決まったということだな」

 ギースベルトは地図を見て、聖国内で自分たちの野営地に近い村や町を見ていく。

「この村はどの程度の規模だ?」


 質問に一人の副官が百名程度であると答えると、それでは駄目だ、とギースベルトは別の町を指差す。

「そこは五百名程度の規模です」

「では、ここに三百向かわせて、女子供を連れて指定の場所で待機しろ。全員、死なない程度に怪我をさせ、殺さずにおけ」


 残りの大人は殺して良い、とギースベルトが指示をすると、副官が息を飲んだ。

「よろしければ、閣下の御考えをお聞かせいただけますでしょうか」

「わからんか? 女子供が酷い目に遭っていることに対して憤る王ならば、その現場を見せてやれば釣り上げが可能なのだろう。その餌だ」

「では、子供は死体にするべきではありませんか? 生きていれば逃亡や抵抗の手間があります」


 質問した者とは別の副官が問う。ギースベルトの幕僚である彼は大将の影響を多少なり受けているらしく、子供を使う作戦そのものについては異議がないらしい。

「重要なのは“助けられるかも知れない”という状況だ」

 報告からヴェルナーが非常に人道的で、敵に対しても怪我人であれば甘い措置をとることを知ったギースベルトは、死人では意味が無いと言った。


「ああいう連中は“自分が命を救えるかも”という可能性があれば飛びつく。それを利用する。お前らも知っているだろう。怪我をした連中を抱えた部隊がどれだけ動きが鈍るか」

 王であるヴェルナーが庇護すると決めたけが人はすでにいるが、さらに多くの子供たちを抱え込ませれば当然動きは鈍る。

 庇護者が王でなければ見捨てる可能性もあるが、トップが決めた救助者を騎士や兵士が見捨てるとは考えにくい。


「機動力を失った相手なら乱戦に持っていくのは容易い」

 あとは、いかに接近するかということだな、とギースベルトは言った。

「罠を設置する暇を与えず、誘導して、襲う」

 捕まえた子供たちを配置する場所の近くを指差したギースベルトは笑っていた。

「残りの部隊は全員ここで伏せさせろ。待機状態で、火を使うことは許さん」


●○● 


 ヴェルナーの部隊が、怪我を負った百名近い女性や子供たちを発見したのは、ギースベルトが命じてから丸一日が経ったころだ。

 陽が沈みかけたころに女性たちを保護したラングミュア王国軍は、その有様を見て一様に顔を顰めた。

「酷いな……」


 デニスやブルーノは唾を吐き捨てるように言い、ヴェルナーの命令を待たずに保護を開始した。

 兵士たちはそれぞれに食事や薬の用意をして忙しく立ち回っている。

 そして、ヴェルナーは立ち尽くしたまま考え込んでいた。

「罠、なのは間違いない……」


 確実に不利な位置に立たされている、という実感はあったが、だからと言ってヴェルナーには民間人を見捨てて即時撤退など命令できるはずもなかった。

 前世で常に人道を守る側に立って戦ってきた彼にとって、それは選択肢としてあり得ないことだ。

 周囲を見回す。


 ヴェルナーの視界には、帝国方面である西側は平地。南側遠くに森が見え、北には山地がかなり近いところへ迫っている。

 陽が暮れかけていて山は稜線がわかるのみだが、どうやら樹木が生い茂っているらしいことはわかった。

 じっと観察を続けながら、ヴェルナーは迷いに迷っていた。


 しかし、この場での治療が必要な者が多数いる。移動の決断はできなかった。

「……この場で野営する。歩哨は多く立てて斥候も増やせ」

「はっ!」

 命令を受けてイレーヌが伝達に走る。

 兵士たちはヴェルナーの決断を「さすがは陛下」などと口々に賞賛する。弱き者、傷ついた者を見捨てないことに感動しているようだ。


 対してヴェルナーの表情は暗い。

「アシュリン」

「はい。陛下」

 護衛として近くに立っていたアシュリンに声をかけた。

「深夜から明け方にかけて襲撃がある可能性が高い。兵士たちを動揺させる必要は無いから、中級指揮官までには注意喚起を」


 もっと準備をするべきではないか、とも考えたが、兵士の不安は保護している子供たちにも伝わるだろう。

 傷の痛みに泣き叫ぶ子供たちの声を聴きながら、ヴェルナーは最善手を探して目を閉じていた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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