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131.思い出した大目標

131話目です。

よろしくお願いします。

 一度征服した郷については、森林国の戦士たちに任せることにして、ヴェルナーらラングミュアの軍勢はじりじりと国の南西部、帝国兵が向かったと思われる方向へと進んでいた。

 案内役にオータニアを連れているのは、彼女をレスキナの郷に残しておくと、長が余計なことを考えるかも知れないと考えたからだ。彼女を人質にするなどの方法が取れなければ、長が万一反逆を行ったとしても、一撃のもとに粉砕することができる。


 ヴェルナーたちには鬱蒼とした森にしか見えないが、オータニアはあちこちを見回しては確実に歩を進めていく。

「よく道がわかるな」

「森の民は動物が使う道や何度も使う道がわかります。例えば」

 オータニアが指さした先は、ヴェルナーには他の森と違いが判らない。


「ここは何度も人が通っているので、邪魔になる枝が切り払われていて、草も踏まれていますよね」

「ああ、なるほど」

 言われて初めてわかる程度の変化だが、人為的な手が加えられた部分だと言われると確かに枝が鋭い刃物で切られた跡がある。


 オータニアは慎重に観察を続け、帝国兵たちが逃げた方向を懸命に予測して先導する。

 ヴェルナーたちが彼らを追うことに決めたのは、捕縛した敵からの証言で長に反発する郷は帝国からの支援を受け始めていたらしい。

 帝国の助力もあって長に対する戦闘準備が進んでいたところで、ヴェルナーが主流派を掌握したために一気に崩れたようだ。


 ラングミュア兵が拷問された時にどこまで情報が漏れたかはわからないが、彼らからは大した情報は漏れていないだろう。まず知らないはずなのだから。

 だが、騎士であるジーモン・ヨアヒムはラングミュア王国中枢の状況をある程度は知っている。そこから情報が洩れれば、本国の方が危険だ。

 そのため、ヴェルナーは急いで帝国兵を取り押さえ、状況を確認する必要があった。


「帝国の狙いは、どこにあるのでしょうか?」

 傀儡に森林国を押さえさせることで何かの利権を得ようとしたのだろうか、とデニスは疑問を持った。

「それもあるかも知れないな。帝国もグリマルディ王国を押さえたことで海岸を得た。港は俺たちが破壊したが、時間をかければ再建もできるだろう」


 そのためには大量の木材が必要だが、肥沃な大地を持つ帝国は広い農地は持っていても森は大した面積が無い。

 石材を主に使った建物がメインだが、それでも木材は消費する。

 毎日の調理や鍛冶などにも必要なのだ。森林国を“資源の輸入先”として見ていたはずの帝国が、侵略は諦めて協力者として接触し始めた可能性もある。


 そしてもう一つ。聖国の存在だ。

 現在の聖国は宗教派閥で分裂はしているものの、ラングミュア王国が海側から陰に支援していることもあり、帝国に対して猛烈な抵抗を続けている。

 攻めあぐねた帝国が、森林国の協力を得て森を通り抜け、北方からの侵攻を行うことで戦況を有利に進めようと考える可能性は充分にある。


「森林国を掌握する協力をする。その代わりに人員を出させ、森の道案内もさせる、か」

 聖国と森林国を使った、ラングミュアと帝国の代理戦争か、と思ったが、このままラングミュアが支援のみに徹するのであれば、高みの見物ということも可能だ。

 しかし、それでは聖国はいずれジリ貧になり、背後にいるラングミュアの存在が露見するだろう。


「陛下。間もなく国境のようです」

 オータニアと共に戦闘を進んでいたアシュリンが、振り向いて報告を入れる。接敵の可能性を考え、ヴェルナーはその場で一時休息を決めた。

 兵士たちが素早く敷物を用意し、椅子を組み立てる。

 そこへ腰を下ろしたヴェルナーに、イレーヌが水筒を差し出した。


「ありがとう」

「いえ。……先ほどから、何か考え込んでおられるようですが……」

 水を一口飲んだヴェルナーは、不安げな顔を見せるイレーヌに笑みで返す。

「大したことじゃない。俺が……いや、ラングミュアとしてはどうするのが一番利益になるかと考えていただけだ」


「利益ですか。……陛下のお考えはわかりませんが、どうか陛下の良いようにお進みください。その道を作るために、あたしたち騎士がいるのですから」

「頼もしいな」

「ええ、頼りにしてくださって構いません」

 笑みを浮かべ、イレーヌはサーベルの鞘を叩く。


「陛下は充分に民や臣下のために動いておられます。兵士たちも、それはわかっております。ですから、陛下には時には遠慮なくご自身のお気持ちに素直になっていただきたいのです」

「殊更にそういう話をするあたり、何か気付いたことでもあるのか?」

「はい。あたしなどが言うのも無礼かと思ったのですが……」

「構わない。言ってみてくれ」


 意見されたからといって怒ったりはしない、とヴェルナーは明言する。

「……陛下は、王になられてから何か遠慮されておいでのようにみえます」

「遠慮?」

「王妃殿下のお二人はもちろん、あたしたち騎士や兵士、そして民衆へお気遣いなさっておられることは素晴らしいことだと思います。ですが……」


 続きを離すことをためらったイレーヌだが、ヴェルナーがじっと言葉を待っているのを見て、口を開いた。

「陛下は王であらせられます。どうか、あたしたちのことなど気にせず、覇を唱えるも平和を目指すも、どうか自由に振る舞っていただきたいのです」

 イレーヌは言ってしまった、という顔をしていたが、ヴェルナーは大笑いしていた。


「あっははは! そうか、そうか!」

「へ、陛下」

「いや、良く言ってくれた。やはりイレーヌを連れて来たのは正解だったな。俺もここ数年は妙に息苦しいと思っていたんだ。それはオットーの奴が用意する書類仕事のせいだと思っていたが……ふむ、そうじゃないんだな」


 自分で自分の言葉に納得し、立ち上がって大きく頷くヴェルナーに視線が集まる。

「俺が王に生まれて、この力を得た時に決意したことは何か、いつの間にか忘れてしまっていたらしい。俺は自分が王となり、自分勝手にいきたいと思っていたんだった」

 我ながら馬鹿なことだ、と吐き捨てる。

「全員、聞け」


 改めてヴェルナーは部下たちに語り掛ける。

 イレーヌは緊張し、デニスは真剣な目を向ける。

 オータニアは不安げであり、その隣にいるアシュリンはいつものまっすぐな目を向けて来た。

「どうやら、聖国と森林国、そして帝国の戦いが始まるようだが……これを機に、ラングミュア王国も本格的に参戦する」


 緊張感が、騎士と兵士たちに奔る。

「最終的に、この大陸を制覇する。もう別の国に遠慮するのは終わりだ。ラングミュア王国がこの大陸唯一の国になる。どうだ、楽しそうじゃないか?」

「御意のままに」

 デニスが真っ先に膝を突き、ヴェルナーへと首を垂れる。


 他の者たちも次々に膝を突き、オロオロとするオータニアはアシュリンに手を引かれて膝を突いた。

「作戦を変更する。帝国兵を追い、ジーモン・ヨアヒムを探すが、そのまま聖国領へ入り東の港を目指して進む。そこから一旦国に帰るが……」

 ヴェルナーは聖国と書いた円を作り、その西に帝国、北に森林国、と書き入れた。


「聖国を戦場として帝国兵を誘い出し、補給線が伸びたところを叩く。その前に、森林国と聖国を即座に我がラングミュア王国領として併呑を進める」

 無茶苦茶な策だった。

 だが、この場の誰もがヴェルナーの魔法があればできるのではないか、と考えている。

「では、早速だが進むとしよう。これからは忙しくなるが……皆、存分に戦功をあげてくれ。いくらでも機会はあるが、のんびり戦いを続けるつもりはないからな?」


 全員が静かに頷きながら、明確となった目標に闘志が燃え上がるのを視線で示していた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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