表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/178

130.いるはずのない者

130話目です。

よろしくお願いします。

 森林国内における対立構造は変化した。

 主流派は完全にヴェルナーの支配下に置かれ、ブルーノやオータニアを幽閉していた郷を筆頭に、対立している者たちは完全に劣勢になった。

 そう思われたが、戦闘は簡単には終わらない。

「まだ、ジーモン・ヨアヒム以下六名が見つかっていない」


 長やオータニア、他にもレスキナの郷の住人や近隣の郷にも確認を取ったが、有力な情報は入っておらず、ヴェルナー以下ラングミュアの兵士たちはじりじりと焦りを感じていた。

 森で長く生き延びる手段を持っているとは思えず、また何者かに捕らわれているとしても、いつ処刑されるかわかったものではない。

 一日が過ぎれば、それだけ絶望感は高まる。


 そんな中、ラングミュア恭順側の郷が襲撃されたという情報が入り、デニスとブルーノが五十名ほどの小集団でレスキナの男たちと共に応援に向かった。

 そして、五日ほどして勝利して戻ったデニスが、一つの情報を持ち帰った。

「敵の中心である郷に捕らわれている外国人がいる?」

「恐らくは。不確定な情報ですが、我々と同じ色の肌をした数人の男を捕らえている、と敵の一人が吐きました」


「その男は?」

「手当はしたのですが、戦傷が酷く……死亡しました」

 情報を吐かせるために多少は痛めつけたかも知れない。焦りはデニスもブルーノも感じていただろうから、やり過ぎた可能性もあった。

 しかし、ヴェルナーはそれを確認しようとしない。自分でもそうしていただろうから。


「死んだ男はハーパラという郷から来たらしい。場所はわかるか?」

 オータニアを呼び、デニスが聞いたと言う話を聞かせて確認すると、彼女は頷いた。

「わかります。襲われた郷からおおよそ一日も森を歩けば、行けます」

 オータニアの説明によると、森林の南西部、西の帝国と南の聖国どちらにも近い場所にある郷らしい。


 それを聞いて、ヴェルナーは立ち上がる。

「ここで敵の本拠地を叩いておこう。この情報が空振りでも、森の平定ができれば探しやすくはなる」

「陛下の影響力が広がれば、恭順にせよ敵対にせよ、捕縛しているとするならば交渉の材料として持ち出してくる可能性もあるかと」


 デニスの言葉に頷き、ヴェルナーは全員に戦闘準備を命じた。

「今日の夜から出発する。二日で到着する予定だ。食料は最小限で良い。レスキナの郷や周囲の郷からも人数を出してもらう」

「わかりました。父に伝えます」

 オータニアの返答を受け、ヴェルナーは自らも出発の準備を始めた。



 二日後、強行軍で午後に入るころには到着したヴェルナーらラングミュア兵と主流派の森林国戦士たちは、即座に戦闘に入る。

 見張りが森にいるだろうことも考え、森での戦闘に慣れていないラングミュア兵がうまく身を隠すことも難しいと判断したヴェルナーは、相手が何かしらの準備をする前に郷を制圧してしまおうと考えたのだ。


「俺たちが正面から攻める。お前たちは裏へ回れ。突撃前に矢で攻撃をして相手をこちら側に逃げるように誘導するんだ」

 森の戦士たちはそれぞれに手製の弓を掴み、ヴェルナーに指示された通りに森を抜け始めた。

 その動きは敵の郷に察知される可能性が高いが、それはそれで陽動になる。


 郷の者を囮にするような作戦だが、森へ逃げ込むことが可能な彼らに任せた方が成功率は高い、と判断した。

 しばらく待って、郷の中から騒動が聞こえて来たと同時にヴェルナーたちも突撃する。

 民間人も混じっている以上、ヴェルナーは爆発を使えなかったのでサーベルを利用しての接近戦となる。


「陛下は後方でお待ちください!」

「駄目だ! ジーモン・ヨアヒムがいる場所を探す必要がある! アシュリンとイレーヌは俺に続け! 他は正面で壁を作って押し込むんだ!」

「お任せを!」

 息巻いて飛び出したのはブルーノだった。


 ひげをそり、髪も短くなったブルーノと部下たちは、率先して前線を構築する。捕らわれていたことでうっぷんが溜まっていたのが、まだ発散されていないこともあるが、何よりも同僚であるジーモンたちが捕らわれている可能性があるということで発奮しているのだろう。

「ここはお任せを!」

 デニスが声をあげてブルーノに続くと、他の兵士たちも前に出て壁を作る。


「任せた」

 イレーヌたちを連れたヴェルナーは側面から抜け、建物を探して回る。

 扉が開いているものは無視して、郷の周囲を回るように動いていくと、途中で郷の住人達と何人も行きかうが、戦う意思が無ければ無視した。

 この世界、まだまだ戦闘は未成熟で現代戦のように戦闘員と非戦闘員を区別して攻撃することは無いが、ヴェルナーは極力民衆を傷つけないようにしている。


「どけ!」

 傷つけることなく、怒鳴りつけるだけで戦う意思が無い女性や子供は逃げ散っていくので、道がふさがれることは無い。

 時折、隠れていたかのように武器を持った男が飛び出してくるが、それはヴェルナー自身やアシュリン、イレーヌの二人が即座に排除する。


「どこにいる……!」

 ヴェルナーは自分が焦っていることを感じながら、押さえられないでいた。

 前世での戦闘で、ゲリラに捕らわれた部下を助けに行くこともあったが、ほとんどの場合は凄惨な拷問を受けて殺されていたのだ。

 幾度も見た光景が、脳裏に思い出される。


「陛下、あれを……!」

 イレーヌが指さした先にあったのは、閉ざされた小屋などではなく、背を向けて逃げていく数名の姿だった。

 半数は肌や服装から森林国の者たちのように見えるが、残り半数は違う。

「……帝国軍!?」


 ヴェルナーの声が聞こえたのか、一人がちらりと振り向く。

「止まりなさい!」

 イレーヌが気絶する程度の威力で雷撃を放ったが、同時に相手はナイフを放り捨て、雷撃はそちらに誘導され、敵には当たらずに終わった。

 その間に建物の陰に隠れてしまった相手は森に逃げ込んだらしく、追いかけても姿は見つけられなかった。


「どういうことだ?! 帝国が何か関わっているのか!」

 混乱するヴェルナーは、とにかく情報が欲しいと口にして、アシュリンとイレーヌは近くにいたラングミュア兵に敵の捕縛を命じた。

「……陛下」

 前線にいたはずのデニスがヴェルナーの前に来た。


「どうした?」

「戦闘はほぼ終わりました。挟撃は成功し、敵にはほとんどが死亡。数名が投稿しております。そして……こちらにお越しください」

 気づけば、戦闘の声はすっかり収まり、数名を追い回しているらしい声が遠くから聞こえてくるだけになっている。


 自分が熱くなりすぎていることを自覚しながら、息を吐いて冷静さを取り戻したヴェルナー。

 デニスに促されるまま、戦闘の跡が激しい郷の中心部を抜けて奥の方へと向かう。

 そこでは、一つの小屋の前でラングミュア兵たちが歯を食いしばって立っており、開かれた扉の前を空けていた。


「そうか……」

 見覚えのある光景だ。

 怒りと悲しみをないまぜにしたような表情は、前世でも見たことがある。ヴェルナーには小屋の中の状況がわかってしまった。

 それでも、確認せねばならない。


 重い足を前へと進ませ、ヴェルナーは虫が飛び回る小屋の中へと踏み入った。アシュリンとイレーヌは外で待機させている。

「……ブルーノを呼べ。念のため、確認させる」

「はっ」

 背後にいたデニスが離れていくと、ヴェルナーは小屋の中に転がる死体を見回して拳を握りしめた。


「間に合わなかった、か。だが」

 死体の数は五人。一人足りない。

 じっと死体を見ていたヴェルナーの横に、駆け込んできたブルーノが小屋の状況を見て「畜生」と呟いた。

「……ジーモンの部下です、陛下。間違いありません。ですが……」


「足りないのは、ジーモン・ヨアヒムの死体か」

 ブルーノが頷くと、ヴェルナーは小屋を出た。

 そこには、ラングミュア兵たちが整列している。

「……ジーモン・ヨアヒム船長だけが未発見だ。彼の部下たちは……死んだ。殺された」

 両手や身体の跡を見る限り、拷問を受けたのは明確だった。中には目をくりぬかれた者もいる。


「ここにいる人数は少ない。だが、急いで動かなければならない状況には変わりない。引き続き、森での戦闘を継続する!」

「はっ!」

 騎士、兵士全員の声が響く中、ヴェルナーは見かけた帝国兵の存在が気になっていた。

「……捕縛した郷の者たちを尋問する。すぐにだ」


 無傷ではないかもしれない。だが、ジーモン・ヨアヒムだけでも救ってみせる。

 ヴェルナーは、業火のように怒り狂う心を押さえ、落ち着いた声で捕縛した者たちを連れてくるように命じた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ