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120.救出劇

120話目です。

よろしくお願いします。

 オータニアは、集落の建物を確認して回りながら、森林国の住人について説明していった。「簡単に、ですけれど」と前置きして。

 森林国の住民たちは基本的に性を持たないそうで、自己紹介の時は単に名前を名乗るか、「さと」と呼ばれる集落や親の名前を出す、とオータニアは説明した。

 郷が森にいくつあるかはわからない、という。


「獣に襲われてなくなる郷もあれば、郷の中で有力者同士が仲違いして分裂したり、郷を出て新しく集落を一から作ることもあります」

 簡素な小屋なのは、駆除が難しい獣が付近に出没したり、周辺の森から食料が取れなくなったらすぐに移動するためらしい。

「放置した小屋に誰かが移り住むこともありますが……」


「放棄した場所に?」

「獣はいずれどこかに移動しますし、森の恵みは数年で回復しますから。でも、荒れてしまった集落は元に戻すのは困難です」

 簡単な野菜などは作ることもあるが、移動が前提なので食料は基本的に狩猟と採集に頼っている。


「森の恵みは豊かですが、同時に厳しいのです。森の住人として、森に生かされていますが、殺されることもあります」

「そういう生き方もあるんだろうな。……で、お前はそれが嫌だ、と」

 森と共に生きることを肯定しているような口ぶりであったオータニアだったが、ヴェルナーの言葉に頷いた。


「そうです。もっと広い世界が見てみたい」

 両手を広げ、オータニアは周りの木々をぐるりと見回す。

「どこを見ても木です。どこまで行っても」

「海を見たことも無いのか」

 ヴェルナーの問いに、オータニアは首を横に振る。


「か弱い女の子が、一人で森の中を進むのは自殺行為です」

「自分で言うな」

「でも事実です。わたしは自分の郷であるレスキナを出たことはありません。……出る勇気もありませんでした」

 族長と呼ばれる男の娘として生を受けた彼女は、敵対する郷の者たちに狙われる定めに合った。


「森の中に入るにも、何人もの護衛がいました。いえ、護衛というよりは監視です。変な男がついても困る、と父が言っていたのを聞いたことがあります」

 そう言って、オータニアは無理に笑って見せた。

「結局、わたしは森の一部族をまとめるための道具でしかないんです。でも、少し前に郷に来た旅人から聞きました。森の外には別の国があって、違う生き方がいくつもある、と」


 その人物は男性で、オータニアと同じように日に焼けた肌をしていた。ヒラヒラとした服を着て、女性を連れていたという。

 ヴェルナーはオータニアの説明に何か引っかかるものを感じたが、確定的な情報も無いので話を続けるように促した。

「それで、森の外に……というより、この国の外に出たい、と」


「陛下……」

 デニスがヴェルナーへと耳打ちする。

「森林国の長の娘とすれば、外交問題に発展しかねません。ここは慎重なご判断を」

「オットーみたいなことを言うようになったな」

「言わざるを得ない状況です」


 デニスの言うことももっともだ、とヴェルナーは理解を示しながらも、オータニアの話を聞いているうちに同情心が生まれたことも否定できない。

 同じ女性であるイレーヌやアシュリンも、先ほどの言葉は忘れてオータニアに同情的な視線を向けているのがありありと分かる。

「あっ」


 連れていくこと自体は難しくないが、と考えているヴェルナーの前で、オータニアが突然立ち止まった。

「あれだと思います」

 集落をぐるりと半周するほど歩いたところで、一つの小屋を指さした。

 数名が閉じ込められているにしては小さな建物だが、オータニアは間違いないだろうと言う。


「屋根の上に特徴のある枝が突き立てられていますね。あれは忌み物の印で、捕まえた他の部族などを閉じ込める小屋に立てるものです」

「……お前の言う通りだとすると、ちょっとまずい状況だな」

 小屋から離れた場所に、この郷の者たちと思われる、毛皮をなめした服を着て、簡素な木の槍や弓を持った男たちが十名ほど屯していた。


 それだけであれば、時間を置いて人がいなくなるのを待つという選択もあったが、まだ小さいながらも小屋に火が点いているのが問題だった。

 男たちは燃え始めた小屋を指さしながら何か話し合っている。このまま放置するつもりなのか、あるいは彼ら自身が火を点けた可能性も高い。

 いずれにせよ、すぐにでも消化するか中の者たちを助け出さねばならない。


「陛下……!」

「わかっている! デニス、イレーヌ、アシュリン、周囲の敵は任せた!」

 極力相手は殺すな、と命じたうえでヴェルナーが飛び出した。

「おい、誰だ!?」

 すぐに見つかったが、ヴェルナーは無視して全力で走る。


 背後で数名が動き出す音が聞こえ、ほとばしる雷撃の音と共に、一人の悲鳴が聞こえた。

「ちっ!」

 小屋に近づくと、オータニアが閉じ込められていた小屋と同様、頑丈な鍵がかかっていた。ナイフで殴りつけても開きそうになく、アシュリンを呼ぶには立ち位置が悪い。

 ヴェルナーはナイフを取り出すと、その先端にプラスティック爆薬を少量だけ張り付けた。


「量は間違っていない……はず!」

 投擲。

 まっすぐに飛んだナイフが鍵へと突き立った直後、ヴェルナーが指を鳴らした。

 扉の中央で構造物がはじけ飛び、小さな破片が周囲へと飛び散る。

「うおっ!? 何事だ!?」


 集落の男たちが、轟音に驚愕している。

 周囲で喧騒となっていた戦闘音も一時的に止まった。

 ヴェルナーはその変化に反応する間もなく、爆発が収まった直後のドアに向かって、思い切り体重を書けた蹴りを喰らわせた。

「おい、誰か中にいるのか!」


 ナイフは壊れてしまったので、ヴェルナーは拳を構えながら小屋へと踏み込む。

「誰か……」

「殺されてたまるか!」

 怒りの籠った声が聞こえたかと思うと同時に、ヴェルナーの頬を頑強な拳が打ち抜いた。

「はぁ、はぁ……やってやったぜ……うん?」


 蹴倒されたドアを避けたラングミュア海軍ブルーノ・ブレナンは、自分たちを始末するつもりらしい“侵入者”を殴り飛ばしたのだが、ややあって、自分の重大なミスに気付いた。

「船長、そいつ……いや、その御方は……」

「へ、陛下……? うっ」

 愕然としているブルーノの喉元へ、駆け付けたデニスが剣を突き付けた。


「ブルーノ・ブレナンだな。陛下は御自ら救出に参られたというのに……」

「も、申し訳ございませんでした……」

 悪気があったわけではない、とデニスは判断し、完全に伸びているヴェルナーを背負った。

「事態が変わった! 強行突破する! 走れるな?」

「もちろん!」


 枷は全て壊していたブルーノたちは、デニスの言葉に力強く頷いた。

「処分は陛下が回復されてから決定する。心しておくように」

「うっ……」

 デニスがくぎを刺すと、ブルーノはばつが悪そうに顔を顰めた。

「二人とも、敵を無力化しろ! 陛下を無事にお連れするのを最優先とする!」


 アシュリンとイレーヌが返事を返し、数倍の数がいる敵を早々に倒してしまった。

「すげぇな」

「感心している場合か。行くぞ!」

 オータニアが待っている場所へ向かって走り出したデニスに、ブルーノたちがついていく。

 その後ろでは、小屋全体に火が回り始めていた。


「ギリギリだったか。さすがは陛下、ご判断も的確だった」

 デニスは呟き、後ろからついてくるブルーノたちへと目を向けた。

「本来なら反逆として死罪が妥当だが……」

 ヴェルナーであれば、笑って許すのではないだろうか。デニスはそう確信していた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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