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118.発見。そして捕らえられた男たち

118話目です。

よろしくお願いします。

 戦闘中の集落と思われる場所に進みながら、ナイフを振るうヴェルナーは手近な大木に新たな傷をつけた。

 戦場は確かに近づいているが、戦闘は集団同士というよりは、集落の各地で個人あるいは少数で戦っているらしい。音があちこちから聞こえてくる。

「軍隊の動きとは思えません」


 アシュリンが首を傾げた。

「そうだな。集団で動けば森に潜んで奇襲をするのも難しい。こういう環境では、少人数で息をひそめて、のこのこやってきた敵を襲う。そういうやり方が一番だ」

「お詳しいのですね」

「まあな」


 襲われる方だったが、とヴェルナーは苦い思い出を胸に秘めた。

「とにかく、集落の周囲を回って……」

 突然言葉を止めたヴェルナーに、デニスが慌てて振り向いた。

 ヴェルナーはただ木の幹を見つめて驚愕の表情を浮かべており、攻撃を受けたというわけではない、と確認し、デニスは大きく息を吐いた。


「陛下、どうされました?」

「うん? ああ、すまない。悪いが、何か容器を持っていないか?」

「容器……これでよろしいですか?」

 デニスが差し出したのは、食料の一部を入れていた革袋だった。少しだけ残っていた中身を別の袋に移し、空にしている。


 それを受け取ったヴェルナーは、先ほど幹を傷つけた木へとナイフを伸ばした。

「陛下、これは一体?」

 イレーヌがヴェルナーの手元を覗き込む。

「ゴムだよ。これはゴムの木だ。お前の天敵……いや、利用できるかもな」

 ナイフで掬い取った樹液を袋に放り込む。採取だけしておいて後で調べるつもりだった。ヴェルナーは詳しくはないが、誰かに調べさせることはできる。


「待たせて悪かった。行こう」

 進み始めたヴぇルナーに、全員が付き従う。

「私の天敵?」

 首をかしげながら、イレーヌも歩き出した。


●○●


 船は二隻であったが、半舷上陸ですらない、最小限の人数だけが船から降りていたためにつかまったのはそれぞれの船の船長と、五名ずつの部下だけであった。

 それぞれの船はミルカと共に王国へ戻った……と、船長の一人であるブルーノ・ブレナンは床に転がって考えていた。

「俺まで下りたのは失敗だった」


「船長。そりゃないでしょう」

「見捨てるつもりですか?」

 同室で、ブルーノ同様に両手足を木製の枷で固定されたまま転がされている部下たちが非難するが、その口調は笑いが含まれていた。

 本気でブルーノがそうするなど考えていないのだ。


 しかし、次の言葉には全員が黙り込む。

「助け、来ると思いますか?」

 捕らえられた時、ブルーノはミルカが逃げ遂せたことを確認した時点で投降した。敵の人数は彼らと同数程度であり、自分たちを捕らえる間にミルカは完全に逃走できると考えたからだ。


 この世界は、当然ながら捕虜に関する規定や条約など存在しない。

 まして、森林国はたんなる集落の集まりに過ぎない。

「まあ、期待して待つ、というのも悪くない。そういう王様だしな」

「嫌ですよ。野蛮人のスープの具になるなんて」

「ああ? だからお前は食事に最低限しか手を付けなかったのか」


 一人の部下を見たブルーノは、部屋の傍らに置かれた木の椀を見やった。

 水と肉が無造作に積まれただけで、手を使わずに犬のように飲むしかない。

「もう、一ヶ月以上経つんです。助けが来るなら、そろそろでしょう」

 そう言う部下は、別の仲間に足を押さえてもらいながら腹筋運動をしていた。彼らは、ブルーノの指示で身体は鍛え続けていた。


 髭は伸び、髪もぼさぼさであったが、彼らは互いに助け合いながら身体の調子を保っていた。いつか来る救助。あるいは自力での脱出を目指して。

 小屋の外には常に数名の見張りがいて、自分たちは丸腰。おまけに部落の者たちは夜目が利いて森の中にも詳しい。結局、今の今まで逃げ出す機会は見つけられなかったが。

「砂漠の奴の言うことなんて聞くことなかったんですよ」


 誰かが愚痴を言う。

「何度も謝っただろ? もう責めるのはやめてくれ。どうにかお前たちを家に帰す。それで勘弁してくれ」

「“それが指揮官の仕事”ってやつですか?」

「その通り。陛下の言葉だ……そうしないと、俺が陛下に殺される。ばらばらにされてな」


 笑い声が上がったが、ブルーノはすぐに黙らせた。

「待て。何かおかしい」

 拘束されたまま器用に立ち上がり、壁に耳を当てながら、ブルーノは目を閉じた。

「……戦闘が起きている?」

「船長……!」


「どうやら」

 振り向いたブルーノは肩をすくめた。

「危機だからチャンスだかわからないが、ここから一刻も早く出る必要がありそうだ」

 見張りが慌ててどこかへ走っていくのを音で確認したブルーノは、どっかりと座り込んだ。


「手伝え。こいつをぶっ壊す」

 互いの枷を叩きつけ合わせる音が響く中、ブルーノは呟く。

「はてさて、ジーモンの方は無事でいるかね」

 同じくラングミュア海軍の船長であり、同時に捕らえられたもう一人の男ジーモン・ヨアヒムについて、ブルーノは不安を感じていた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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