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116.出立

116話目です。

よろしくお願いします。

 ヴェルナーは会議室の机をぐるりと回るように速足で歩くと、ミルカの頬を一発殴り飛ばした。

「なにを!」

 ミルカの後ろに護衛として控えていたレオナが慌てて割り込むが、ミルカはその動きを止めさせた。


「良い。これは余の失態であり、この程度はまだ序の口だ」

「わかっているなら良い。この先は結果が出てからの話だ」

 ヴェルナーが言う“結果”は、森林国にとらわれた兵士たちが無事に帰ってこられるか否かにある。当然、それは見るかも理解していた。

「とにかく、お前も来い。森林国に代表がいなくとも、その一帯を縄張りにしている集落があるだろう。そこに話を付けるのに、当事者としてお前は必要だ」


「まさか、ミルカ陛下を人身御供にされるおつもりですか?」

 レオナの問いに、ヴェルナーは答えなかった。

 代わりに、起き上がったミルカが後ろに下がるように言う。

「必要とあればそうするのが、為政者というものだ。もちろん、結果としてスドが王不在となる面倒の方を嫌うだろう。だが、必要があれば腕の一本くらいは差し出さねばならぬだろうな」


「そんな……」

 主従の会話を聞きながらも、ヴェルナーはミリカンへと向き直った。

「同行は少数で良い。船は一隻。俺とデニス、それとファラデーたちを護衛に。後は予備兵力として浜で待機させる。ただ、一日以内に五隻の船で兵力を用意しておけ」

「はっ!」


 ヴェルナーの考えを、ミリカンは正確に把握していた。

 相手を必要以上に刺激しないために、ヴェルナーという最大戦力を中心に最少人数で向かう。だが、相手が話し合いの通じる相手でなく、また敵対を選ぶというのであれば、即時侵攻もありうるのだ。

「準備は?」


「ファラデーらは非番ではありませんから、一時間とかかりません」

「では、俺も用意をするとしよう」

 デニスの返答を受け、ヴェルナーは部屋を後にしようとして、立ち止まる。

「ミルカ」

「わかっている。余とレオナが随行し、他の者はここに残す」


「危険です!」

 レオナは食い下がったが、ミルカは許可しなかった。

「余は説明だけでなく、責任を取るためにここへ来た。許せ」

 ミルカたちを置いて、ヴェルナー他ラングミュアの者たちは慌ただしく動き出す。内陸部にある王都から森林国へ船で向かうためには、陸路でスド方面の海へと向かう必要がある。


「やれやれ……」

 会議を終えたヴェルナーが廊下を進んでいくと、不安そうな顔でマーガレットとエリザベートが待っていた。

 その後ろには、護衛としてアーデルが控えている。

「あなた……」


「心配ない。ミルカの阿呆が余計なことをしたせいで、森林国に少し出かけるだけだ」

 ヴェルナーがそう説明するものの、周囲の慌ただしさは隠しようもない。軍という組織を動かすためには、あちこちへと命令を出さなければならないのだ。ミリカンを始め、今はデニスですらヴェルナーのそばを離れて準備に奔走している。

「アシュリンとイレーヌを連れて行ってあげて」


 エリザベートは、表情を引き締めてそう進言する。

「彼女たち、聖国の件ではまるで役に立てなかったと悩んでいたから」

 本人たちがそう言っていたわけではないのだろう。だが、エリザベートは彼女たちをよく見ている。

「だがなぁ……」


 森林国は、情報からしても湿潤な地域であり、只でさえ不快指数が高い場所であることは想像に難くない。

 砂漠の国であるスドと荒野が広がる聖国の間にあって、どうしてそんな地域が存在するのかは不明だが、ミルカの話によると小さな川が多く流れ、大地の質も違うらしい。

「彼女たちも騎士です。その程度のこと、苦にもならないでしょう。変なところに気が回るのですね」


 ヴェルナーが渋る理由を知ると、アーデルが苦笑した。

「そういう方ですから、彼女たちも慕っているのです」

「尤も、その分外征中に女を増やしてこないか心配だわ」

 マーガレットとエリザベートからそれぞれの評価を聞いて、ヴェルナーは肩をすくめた。

「勘弁してくれ。俺の腕は二本しかないんだ。抱き寄せるのも二人が限界なんだよ」


「あら、同時は無理でも順番待ちがいるんじゃないんですか?」

「その可能性はあるわね」

 言葉では勝てないな、とヴェルナーは早々に退散することにする。

「わかった。お目付け役も兼ねてアシュリンとイレーヌの同行を認める。活躍できる機会があるとは限らないが……」


「貴方が進むところ、きっと戦いがあります」

 アーデルが断言する。

冗談かと思ったヴェルナーだったが、彼女の表情は真剣だった。

「ですが、どのような困難からでも、悠々と生還されるでしょう。そういう方です」

「褒められた、と思っておこう」


 一時間後、ラングミュア王ヴェルナーが自ら率いる一部隊が、慌ただしく王都を後にした。

 民衆は歓声をもって見送る。

 妻たちは無理に作った笑顔で城のバルコニーから見ていた。


 そして、ヴェルナーは再び他国での戦闘に巻き込まれることになる。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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