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110.戦場を見ている者たち

110話目です。

よろしくお願いします。

「あれが火薬とかいう道具の威力か。大したものだな」

「よろしいのでしょうか……」

 文字通り爆散している前衛部隊を見ながらのんきに呟くギースベルトに、副官が恐々と尋ねた。

 ギースベルトの苛烈さを知っている副官でも、今回のやり方には罪悪感を覚えざるを得ない。何しろ、味方を犠牲にしたのだから。


 爆破された前衛部隊は見た目三百名ほどに見えるが、空の馬車や駄馬に人っぽく見えるように藁を積み上げただけであったりと実質はその半数弱の人数しかいない。

 それらはアルゲンホフ大将の部下からギースベルトの旗下へと移ってきた者たちの一部であり、ギースベルトに対して反抗的な者たちだった。

 アルゲンホフの敵討ちを幾度となく進言し、オトマイアー大将を討つ先陣を賜りたいと煩かった者たちだ。


 ギースベルトは鬱陶しいと思いつつも、警戒すべき爆破という攻撃に対応するための生贄として丁度良いと考えた。

「それなら、進言通りの活躍ができるか実力を見せてもらおう」

 そう言ってギースベルトは進言してきた者たちと賛同者を集め、敵を威嚇するためと称して物量を増やす偽装を施して本体よりも先行させた。


 その結果、彼らはロータルの爆破によって粉砕されることになった。

「今のうちに本隊を前進させろ。前衛部隊が爆破された上を移動する。真正面に敵がいる可能性が高いから、武器を構えて進めるように」

「危険ではありませんか?」

「爆破は少なくともしばらくの間は無いはずだ」


 ギースベルトは、火薬についての報告に目を通していた。あれほどの爆発が発生したのであれば、付近に仕掛けられた火薬は全て誘爆しているだろう。

 つまり、一度爆発した場所ほど安全なのだ。

「わ、わかりました!」

 ギースベルトの乗る馬車に馬を寄せて並走していた副官は、説明に納得して笛を取り出すと、馬車からやや離れて突撃の合図を出した。


 兵士たちの間に、戸惑いが波のように広がっていったが、副官が自ら馬上槍を抱えて先頭を進み始めると、兵士たちも急ぎそれを追従していく。

 ギースベルトの馬車は隊列の後方を輜重隊と共に進みながら、戦況を確認していた。怒涛の勢いで駆ける一千名を超える大軍は土埃を上げながらまだ見えない敵に向かって前進していく。


「前方に集団を発見したようです。装備から見て帝国の兵だと思われます!」

「数と動きは?」

「五百ほどだと思われます。散り散りに逃げ回っているようです。大将格の姿は確認できません」

 ギースベルトは行軍の間に無精ひげが生え始めた顎を撫でた。

「アーデルトラウトはいないか。逃亡したか?」


 しばらく考えていたが、敵が戦闘の意思を持っていないことに関しては好機だと考えた。

「捕縛しろ。抵抗する者は殺しても構わん。百人隊長以上の者がいたなら、俺のところに連れてこい」

 今回の戦闘はこれで終わりか、とギースベルトだけでなく、無抵抗につかまる同国人たちを相手にしていた兵士たちの間にも安堵感が出てきたのもつかの間、今度は救国教残党と接敵することになった。


「敵を引き連れてきたのか? 一体アーデルトラウトは何をやっているんだ」

 吐き捨てるように言うギースベルトは馬に飛び乗り、自ら前線に近い場所に出た。

 遠くに見える集団は、とても軍隊とは言えない平民の集まりにしか見えない。剣や槍を持っている者もいるが、農具や、中には単なる棒のようなものを握りしめている者も見える。

「正気か……?」


 しかし、ギースベルトにしてみれば御しやすい相手に見える。

「烏合の衆でしかないな。前衛部隊の馬車や死体を街道上に積み上げて足止めにしろ。本隊は左右と背後から攻撃する」

 明確な指揮系統が存在しない集団は怖くない。挟み撃ちにあったならば混乱に陥り右往左往するだけになろうであろうし、それ以前に挟み撃ちにあっていると気付くまでに時間がかかるだろう。


 ギースベルトのやり方を前衛部隊の行く末を見てはっきり知らされた帝国軍の兵士たちは、言われるがままに左右に分かれていく。

「これで騒動も終わりだな」

 いささかつまらないが、とギースベルトは呟いた。


●○●


 ヴェルナーは土埃に涙が流れるのも気にせず、とにかく急いで馬を走らせていた。

 念のために覆面で顔を隠し、身分を示すような服装ではなく、かなり地味な格好をして腰にはナイフを帯びたのみだ。

「馬鹿野郎め……!」

 聖国王都の近くでロータルの部下たちと合流を果たしたヴェルナーは、ロータルが残って爆破の見極めを行うと聞いて、デニスのみを連れて戦場へ走り始めたのだ。


「陛下、間もなく現地へ到着しますが……」

「分かっている。ここから街道を外れて最短距離で仕掛けの現場へ向かうぞ」

「はっ!」

 ダガッ、と音を立てて石畳から飛び出した馬の蹄が、むき出しの土を蹴りつけた。

「寄れ」


 話をする、と言ってヴェルナーはやや後方にいたデニスに近くで並走するように命じる。

「最優先はロータルの救出にある。だが、この戦いに俺たちが関与していると知られるのはまずい。もし俺たちのことを看破するような奴がいたら、殺せ」

「……わかりました」

 デニスは重々しく頷く。


「無事でいろよ……」

 呟いた直後だった、爆発音が聞こえ、ヴェルナーの視界の先、遠くで大きな爆破で吹き飛ばされる大量の人と馬と物が見えた。

「ロータル! くそっ!」

 最悪の可能性が脳裏に浮かぶのを振り切って、ヴェルナーは馬にしがみつくようにして姿勢を低くすると、さらに馬を速めた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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